広島発の公教育改革 【平川理恵×三好雅章】教育長対談(中)

教育改革に取り組む広島県福山市では、中学校の中にフリースクールを開設し、不登校の生徒の居場所を提供している。広島県では、この「学校の中にフリースクールを作る」というユニークな施策を、県内全域に広めようとしている。平川理恵広島県教育長と三好雅章福山市教育長による対談第2回は、この取り組みの狙いを掘り下げる。


公立学校の中にフリースクール
――平川教育長は横浜市立中川西中学校の校長だったときに、校内にフリースクールを開設して成果を上げていますが、福山市で中学校の中にフリースクールを作ることになったことと関係があるのでしょうか。

平川 私がまだ中川西中学校の校長だったころ、三好教育長から直接電話をいただいたのが始まりです。私が広島県の教育長になると決まった直後の2018年1月ごろだったと思います。いきなり「明日、学校を見に行きます」とおっしゃるので、「どうぞ」と答えたら本当にいらした。思わず「さては偵察だな」と邪推してしまいました。

学校を案内しながら、校内に開設しているフリースクールや図書館などを見てもらいました。すると「これ、いいですね。やります」とおっしゃった。「やります」と言っても結局はやらない人の方が多いのですが、福山市は違いました。私が広島県の教育長に着任した4月には、もう何校かで実施に向けて具体的な話が進んでいたのです。すぐに中川西中学校で校内フリースクールの運営の中心人物だった教員を福山市に紹介して、ノウハウや個別指導計画の作り方を伝えてもらいました。

三好 中川西中学校は生徒数が1千人を超える大規模校なのに、平川校長が一人一人の子供のことを細やかに語られていたのがとても印象的でした。そして、校内に開設したフリースクールの意味や役割を聞いて、納得しました。フリースクールの担任には、子供としっかり向き合えて、親身になって子供のことを心配できる教員を配置しているという話も感銘を受けました。

平川教育長の実践を視察し、すぐに取り入れた三好教育長

平川 フリースクールの担任を任せた教員は、生徒から絶大な人気があり、生徒指導やカウンセリングもしっかりできることから、抜てきしたのです。

三好 部屋を作ることより、どういう人を置くかの方が重要なのだと気付かされました。フリースクールの担任は、困っている子供のことを一番に思って、子供や保護者と関わりながら分かったことを学校全体に伝え、学校を変えていける人でなければ任せられません。「すぐにやろう」と思い、福山市に戻ってすぐに不登校の多い中学校やその学校の空き教室の状況を調べました。

「何でもだめ」からの脱却
――校内フリースクールの開設まで、実質的に3カ月もないですね。

三好 福山市では「子供主体の学びづくり」に取り組む中で、毎月の校長会においても「子供を中心に置いた教育とは」ということを問い続けてきており、校長らに校内フリースクールの話をしたら「ぜひやりましょう」という反応が返ってきました。

しかし、なかなかその意味までは伝わらず、大変でした。校内フリースクールを作ることの意図を理解してもらい、具体的にどの教員を担任にするかなど、中身について話し合いながら急ピッチで準備を進めました。

問題は人事です。校内フリースクールを開設するといっても、そのための加配があるわけではありません。結局、年度末の人事異動の中でやりくりをして、県の加配を活用したのは5校のうち1校でした。

平川 私が中川西中学校の前任校である横浜市立市ケ尾中学校で最初に開設したとき、教員から「なぜそんな『サボり部屋』をつくるのか」と言われました。でも、反対意見を押し切って実際にやってみると、15人くらいいた不登校がゼロになりました。週に1回、夕方から来てもいいし、恥ずかしい子は化粧して来てもいい。いろんなことを認めてあげれば、生徒たちは学校に来るのです。

三好 本市の校長にもまさにその価値を伝えようとしているのですが、「服装は」「学校に来る時間は」など、ルールを作ろうとしてしまうのです。校内フリースクールで子供がお菓子を食べたり、髪を染めてやってきたりしたら、教員は「だめだ」と言ってしまいがちです。だから最初は、学校全体のルールより少し緩くするくらいから始めました。その上で、フリースクール担当の教員らの定期的な集まりに私も毎回参加して、現場の意識を変えていきました。

平川 私が校長だった頃も、「そんなに緩くして、みんなフリースクールに来たらどうするのか」と言われました。むしろそれは望むところで、そうなったら学校全体をフリースクールの時間割に変えればいいと考えていました。

教員の言葉や行動が変わる
校内フリースクールを県内全域に広めようとしている平川教育長
――校内フリースクールを開設して1年がたちましたが、変化を感じますか。

三好 確実に変わってきました。まず、校内フリースクールを開設した学校では、不登校が大きく減りました。要因はおそらく、不登校だった子供が校内フリースクールを利用するようになったからではなく、教員の生徒に対する声掛けや見方が変わったからだと思います。

それ以前は、例えば遅刻した生徒に対して、「なぜ遅れたのか。早く来なさい」と声を掛けていた。それが、校内フリースクールを開設したことで生徒の見方が変わり、学校や教室の枠組み、教員の言葉や行動が変わってきたのだと考えています。

平川 おそらく2年もたてば、福山市の不登校はゼロに近づくと思います。校内にフリースクールができたからといって、不登校の子供にとって学校に行くのはやはり大変なことです。学校に行けないことで自分を責めて、深く傷付いてしまう子も少なくありません。頑張って学校に行こうとして吐いてしまう子もいます。体が拒絶反応を起こしているのです。

まずは、新たに不登校を生み出さないことが大切です。そうした取り組みを続けることで、教員の子供を見る目が変わっていきます。これまで学校では、ルールを決めて一律に対応することが平等とされてきました。しかし、本来は子供によって対応を変えていくべきなのです。不登校の子供たちに学校へ来てもらうようにするには、学校や教員が変わらなければいけません。

三好 不登校対策というよりも、一人一人の違いを認める。「人は違って当たり前」。その感覚ですね。

平川 不登校の問題だけではありません。教室には、授業が分からず、ずっと黒板を眺めているだけの生徒が必ずいます。その子に合ったやり方を教員がしなかったら、学校がつらいだけの場になってしまう。広島県としても、福山市のような校内フリースクールをまずは11校で展開し、その後、他市町にも広めていきたいと考えています。

(聞き手 藤井孝良)

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