指示待ちの子供が主体的に変わる授業

図工専科教諭として、さまざまな先進的実践に取り組んでいる東京都三鷹市立第一小学校の﨑村紅葉主任教諭。積極的に勉強会やセミナーに参加しながら学びの選択肢を増やしてきた﨑村教諭だが、「すてきだと思った実践をそのまま、まねしようとしても、絶対に失敗する」と話す。良い実践を自分の目の前の子供たちに向けた授業にするにはどうすればいいのか――。教員になろうと思ったきっかけや、初任校からこれまでの学び、発達段階に合わせた授業ポイントについて聞いた。


自分の中の選択肢をたくさん持つ
――教員になろうと思ったきっかけを教えてください。

父の仕事の関係で引っ越し、転校が多い子供時代を過ごしました。でも転校先のどの学校でも、すごく楽しい学校生活を送れました。もちろん、転校したばかりの頃は緊張してなじめないのですが、その都度、担任の先生が友達の輪に入れてくれました。元々、絵を描いたり何かをつくったりするのが好きだったので、そうした自分の長所を先生がクラスメートに紹介してくれることで、友達の輪を広げることができました。

こうした経験から、自分も学校の先生になって、子供たちのつなぎ役や、子供が「学校って楽しい」と思える手助けがしたいと思い、教員を目指しました。

地元の静岡県で小学校の担任になるか、中学校か高校の美術教員になるか悩んでいたのですが、たまたま東京で小学校専科教員の募集があるのを知り、それに受かって図工専科を希望して、今に至ります。

初任校の八王子市の小学校で4年間勤務し、本校が2校目です。本校は今年6年目になります。

――今年で教員になられて10年目ですが、これまでどのようにスキルアップされてきたのか教えてください。

教員になった当初は、本当に右も左も分からないような状態だったので、ひたすら教科書や学習指導要領を読み込むなど、必死でした。初任校は比較的規模が小さな学校だったので、空きコマもあり、その時間を使って、近くの小学校の図工授業を見に行かせてもらったりもしていました。

八王子市には図工専科の先生も多く、研究熱心なベテラン教員もたくさんいらっしゃるという、すごく恵まれた環境だったのです。授業の時間外や、平日の夜、土日でも教えてくださる先生がいらっしゃったので、とにかくたくさん学びました。

例えば、初任の頃は図工の展覧会も50校ぐらい回って、自分の中の選択肢をたくさん持てるよう努力はしました。そして、周りの先生たちから教わったことを、自分の学校ではどのように取り入れたらより良くなるのかを考え、授業を重ねてきました。

プログラミングに関するシンポで授業実践を紹介する﨑村教諭

じっとしていられないたちなので、土日はプライベートで美術館に行ったり、アウトドアな遊びに夢中になったりしていることも多いです。また、興味があるセミナーや勉強会には積極的に行くようにしています。学校の先生に限らず、いろんな方と会って研究の話をするのが好きなんです。

中でも最近は、プログラミング関連のセミナーや勉強会に行くことが多いです。来年度からプログラミング教育が小学校で必修化されるので、授業でも取り入れられるような、いろいろな実践を知ることが第一だと思っています。

ただ、いろいろな先生方の授業を見て、素晴らしいからといって、その見た目がいいからといって、それをそのまま、まねしようとしても、絶対に失敗します。

魅力的な授業をした先生は、その先生の目の前の子供たちにどのような力を付けさせたいのかを考え、材料を選んだり、授業中の投げ掛けを工夫したりしています。ですから、「いいな、素晴らしいな」という授業や実践に出会ったら、その授業を行った先生に「どのような経緯でこの授業を考えたのか」を直接伺うようにしています。

そして、持ち帰ってそのままやるのではなく、自分の目の前の子供たちだったらこんな手だてに変えようとか、アレンジを加えたり、新しいものを取り入れたりするように心がけています。

ICTを授業に取り入れるまでの壁
――いつ頃からICTを取り入れた授業に取り組まれているのですか。

初任校の2~3年目ぐらいから取り組んでいます。

大学の教育学部では美術教育コースでした。その中でも私はデザイン専門で、イラストレーターやフォトショップ、WEBデザインといったことを中心に学んでいました。自分が学んできた専門分野と授業を掛け合わすことができれば、新しい表現を子供たちに体験させてあげられるのではと考え、少しずつ取り入れてきています。

最初はデジタルカメラでコマ撮りアニメーションをつくる、といったようなことから始めました。そして、今の学校に赴任してきた年に、ちょうどタブレット端末が使える環境にあったので、そこからどんな授業ができるかというのを考え、広げていった形です。

――ICTを取り入れた授業での苦労はありますか。

公立校ではどこもこうした悩みはあると思うのですが、「授業できるまでの壁」がたくさんあることでしょうか。

例えば外部と連携することもそうですし、新しいプログラミングのソフトを使うにあたっても、「これを使った教育にはこんな価値があります」「こんな素晴らしい授業になると思います」といったプレゼンのようなことを、校内、市教委に何度も行って、ようやく許可が下りる。ここまでに、すごく時間がかかります。

ネットワーク環境にもまだまだ問題がありますし、セキュリティー問題で待ったがかかることもあります。そういったことがもう少しスムーズになれば、多くの先生がもっと取り組みやすくなるのではないでしょうか。

自由に、自分で考える力を育む
――先ほども子供たちから「今日も昼休み、図工室は空いていますか」と声を掛けられていましたが、昼休みなども図工室を開放されているのですか。

私が出張などでいない日以外は極力、昼休みに図工室を開けて、子供たちが使えるようにしています。本校では3年生以上を教えているのですが、1、2年生も含めて、いろいろな学年の子が来てくれています。

給食が終わって図工室に上がっていくと、子供たちがエレベーターで出待ちしていたり、廊下でズラッと図工室が開くのを待っていたりする姿がとってもかわいいんですよ。

昼休みも図工室を解放し、児童と触れ合う時間をつくっている

昼休みは「自分でちゃんと準備して、自分で片付けができることをやる」というルールを作っています。私はサポートしないというスタンスなので、子供たちはそれぞれが勝手に木工作したり、紙工作したり、色水づくりをしたりしています。

最近の子供たちは本当に習い事も多くて、学校から帰って「何か自由につくる」という時間も環境もありません。だから、休み時間でもいいので、こうして子供たちに何か自由につくる環境を与えてあげたいと思って開放しています。

私は担任を持っていない専科教員なので、こうした時間も含めてなるべく子供たちと接するようにしています。その時間が私にとっても幸せです。

また、その子が「なぜそういう作品をつくったのか」「なぜそういう絵を描いたのか」というバックグラウンドも気になるので、担任の先生方ともコミュニケーションを取るようにしています。子供のいろんな側面を知ることで、その作品の意味も深まります。

――3年生から6年生の授業を担当されていますが、子供たちの発達段階によって工夫されていることはありますか。

まず、3年生の段階で「自由に、自分で考えるんだよ」ということを徹底的にやります。いわゆる「指示待ち」の子供も多いので、先生から言われた通りにするのではなく、「自分で考えてやる」ということをひたすら繰り返し、子供の主体性を育むようにしています。

もうひとつ、3年生の段階からなるべくいろんな材料と出合わせるようにします。例えば、絵の具でも1、2年生では使っていなかったような絵の具をどんどん使います。アクリル絵の具もそうですし、たこの染料など、さまざまなインクも含みます。

「自由に、自分で考える」ことを徹底し、子供の主体性を育てている

加えて、いろいろな感触、手触りを味わえる材料体験をさせています。とろとろの絵の具や、土・砂、スライムのようなプルプルしたものなど、リアルに実感してほしいと思っています。

ICTを取り入れることで新たな学びや表現に出合うのも大切ですが、自分の肌で感じて「いいな」と思う肌触りを知ることも、図工ではとても大切なねらいです。

いろいろな材料を体験していないと、「この材料を使えば、こういうものができるかも」といった想像もできません。だんだん上の学年になるにつれて、自分で自由に材料や用具を選択できるようになってほしいと思っています。

(先を生きる取材班)

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