学校の働き方改革の行方 教員志望の学生にはどう映る?

さまざまな調査で教師の長時間勤務の実態が明らかになる中、教員採用試験の倍率低下や若手教師の離職が深刻な問題になっている。そんな中、全国の教員志望の大学生らが中心となって、学校の働き方改革の問題を考える動きが広まっている。教員志望の学生から見ると、学校の働き方改革を巡る一連の議論はどのように映っているのだろうか。各地の大学で教員の働き方をテーマにしたイベントを開いている、学生団体「Teacher Aide」の共同代表を務める櫃割仁平(ひつわり・じんぺい)さんにインタビューした。


苦しむ友人を救いたい
――「Teacher Aide」を設立したきっかけを教えてください。

「Teacher Aide」を立ち上げたのは昨年12月で、まだ半年ほどしかたっていません。今年3月に京都教育大学で初イベントを開催し、教員の過酷な勤務実態の問題を指摘している名古屋大学の内田良准教授に登壇してもらいました。

なぜ、教員の働き方を議論する学生の団体をつくったか。その答えはとてもシンプルです。

僕は大学を1年間休学したので、同級生の友人は1年早く社会人になりました。京都教育大学なので、卒業生の大半は教員になります。僕が大学に残った1年間のうちに、教員になった友人は会うたびに様子が変わっていきました。見るからに痩せていくし、弱音ばかりを吐く。心身共に疲弊していくのを目の当たりにしました。その友人は小さい頃から教員を目指し、大学で一生懸命に勉強し、教員免許を取得し、教員採用試験に受かって夢をかなえた。その結果、こんなに苦しめられている状況に悲しくなりました。

もやもやとした気持ちが日増しに強くなっていき、次第に働き方改革の議論や給特法の問題に関心を持つようになりました。「Teacher Aide」は「教育を良くしたい」などと大それた思いで始めたわけではありません。僕はただ、その夢の先にある現実に苦しめられている友人を助けたかったのです。

――「Teacher Aide」は、立ち上げてすぐ一気に全国へ広まった印象です。
「Teacher Aide」を立ち上げた櫃割さん

「『Teacher Aide』という活動を始めます」と宣言したとき、現職の教員や教員志望の学生から予想以上の反響がありました。「私も同じことを思っていた」という声を聞いて、同じ問題意識を持つ人がこれほどいるのかと驚きました。

手始めに小さな集会を開いたら、近くの奈良教育大学の学生が来てくれて、間もなく「奈良支部」ができました。そんな形であっという間に広まり、8月末時点で、全国の教員養成学部のある大学を中心に22の支部があり、100人ほどの学生が活動しています。

各支部の学生とは、オンラインで定期的なWEBミーティングをしており、イベントのプログラムを話し合ったり、アドバイスし合ったりしています。

まずは「Teacher Aide」について知ってもらおうということで、設立後は各地でイベントをハイペースで開催してきました。

目下の課題は、一番来てほしい教員志望の学生に来てもらえていないことです。そもそも教員の働き方の問題にあまり関心がない人に、この問題を一緒に考えてもらうにはどうすればいいか、悩んでいます。

僕自身も何人か教員志望の友人を誘ってみましたが「教科や授業に関するセミナーであれば行く」といった感じでした。今後は、彼らのニーズをくみ取りながら、働き方の問題にも関心を持ってもらえるイベントにしていきたいと思っています。

それから、文科省や教育委員会にも、何かしらの形で学生の意見を伝えていきたいと考えています。「Teacher Aide」は学生団体なので、学者でも学校現場でもない、サードパーティーとしての意見を提案することもできるはずです。

学生は学校のリアルな実態を知らない
――学校の働き方改革をめぐる一連の議論を、教員志望の学生はどのように捉えているのでしょうか。
教員の働き方改革をテーマにしたイベントを各地で開催している

教員志望の学生といえども、教育法規に関する授業を履修しなければ、給特法について知ることはありません。僕自身も、自分で調べて初めてその存在を知りました。教員志望の学生の多くが、なぜ公立学校の教員には残業代が支払われないのか、教員になるまで知りません。もしかすると、現職の教員でも知らない人は多いかもしれません。

実際に「Teacher Aide」の支部がある一部の大学でアンケートを採ってみたところ、どこの大学でも4分の3くらいの学生は給特法を知りませんでした。

教員養成系学部の場合、入学当初から教員になると決めて入学しているので、給料や残業時間、残業代などを見比べて就職先を選択する人はいません。教員を目指してひたすら授業を受け、免許状を取得して、採用試験を受ける。レールが敷かれてしまっていることが原因の一つではないかと感じています。

一方で、学生は「学校はブラックな職場らしい」といった印象は何となく抱いている。そうして、曖昧(あいまい)な認識のまま現場に入り、抱えきれないほどの仕事を割り当てられて、つぶれてしまう。僕は学生が学校のリアルな実態を何も知らされないまま教員になることに危機感を覚えています。

一方で、リアルな実態を伝えることで、教員志望者を減らしてしまいかねないというジレンマもあります。現実に、京都教育大学のような教員養成系の大学でも、教員採用試験を受ける人の割合は減っていると感じます。

――学校の働き方改革の具体的な改善策の中には、教員志望の学生が学校へボランティアに行くことも提案されています。

やり方にもよるとは思いますが、個人的には学生ボランティアは良くないと考えています。学生のうちからボランティアで対価をもらわずに働くことに慣れてしまう懸念があるからです。せめて仕事と拘束時間に見合った正当な報酬を払った上で、学校現場に入ってもらうべきだと思います。

僕のブログで学校ボランティアの報酬に関わる実際の状況を聞いてみたところ、「1日働いて2000円」「交通費は自己負担」など、状況はさまざまでした。しかしいずれも、対価としては圧倒的に少なく、やりがい搾取になり得ると思います。

――今後の「Teacher Aide」のビジョンを教えてください。

47都道府県に一つずつ支部を設立できたらいいなと考えています。全国各地でいろいろな人が、教師の働き方について考えてくれたら、これほどすてきなことはありません。

まだアイデア段階ですが、乳がん検診の必要性について意思表示するピンクリボン運動のように、何かを身に付けることで「子供は社会全体で育てよう。私は先生たちの味方だよ」と意思表示できる仕組みも考えています。

「Teacher Aide」での活動を経て、今年から教員になった人もいます。その人たちは「今の学校の状況はおかしいんじゃないか」と現場で声を上げています。

夢をかなえて教員になった人たちみんなが、幸せに働いてもらわなければなりません。そのために、学者、行政、教員、学生という立場を越えて、腹を割って話し合っていきたい。特に学校現場を知り尽くしている教員には「やりがいのある仕事だよ」なんて取り繕わずに、本音の部分を話してほしいです。

(藤井孝良)


【プロフィール】
櫃割仁平(ひつわり・じんぺい) 1995年、岩手県生まれ。京都教育大学を卒業後、京都大学大学院教育学研究科に進学し、心理学を研究する。京都教育大学在学中の2018年に学生団体「Teacher Aide」を立ち上げ、共同代表として各地の教員志望の学生と連携してイベントなどの活動を精力的にこなす。