世界の教室から 北欧の教育最前線(29)先住民族サーメの教育(上)

ディズニー映画『アナと雪の女王』には、トナカイと暮らすサーメ人とみられるクリストフ・ビョルグマンが登場する。魅惑の地、北欧の北部には約7万人のサーメが暮らしていて、サーメの子供のための学校もある。ノルウェーにおけるサーメの教育制度と学校、若者の文化発信と継承の課題について、2回にわたって報告する。


サーメとは

サーメ語で「サプミ」と呼ばれる彼らは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北欧3カ国とロシアに住んでいて、そのほとんどはノルウェー最北のいわゆる北サーメ地域に居住している。人口は約7万人と推定され、半数以上がノルウェー国籍を持っている。

新学期にサーメの民族服を着た教員

サーメ語は10の方言地域に分けられ、それぞれ独自の言語をもっている。もともと狩猟採集民だったが、800年代ごろからトナカイの放牧を営むようになった。そのため、トナカイとの関係は生活文化に深く根差している。

サーメのための教育制度

ノルウェーでは、1990年代に基礎学校(日本の小中学校に相当)で、サーメの子供らがサーメ語を学ぶ権利が保障された。また2006年の教育改革では、サーメの言語・文化が国のコンピテンシーのひとつとして位置付けられた。

これによって、通常のナショナル・カリキュラムに加えて、サーメ・ナショナル・カリキュラムが策定された。これは、サーメが多く通う学校などで導入できる、サーメ語を教授言語とするカリキュラムだ。

いまでは、幼稚園から大学まで一貫してサーメ教育が受けられるように制度が整備されている。

サーメ学校の多様性

一口にサーメ学校と言っても、内実は地域ごとに多様である。

トナカイの角の加工を学ぶ生徒たち

北サーメ地域カウトケイノ市の基礎学校は、生徒の90%以上がサーメのため、北サーメ語という教科に加え、他教科の授業も北サーメ語で行われている。ノルウェー語は、第2言語という扱いだ。

この学校では、北サーメ語以外に特別にサーメ文化を教える授業はない。それは、地域や家庭で十分にサーメ文化が伝承されているからだ。

一方、南サーメ地域ではサーメの人口が少ない。彼らはノルウェー人が大多数の社会の中で暮らしている。そのため、学校がさまざまな教育方法を駆使して、南サーメ語や文化を継承する役割を果たしてきた。

野外キャンプでたき火の周りに座って

南サーメ地域にある2つの公立サーメ学校は、いずれも寄宿制だ。サーメの人口が少なく、広域に分布しているため、スクールバスでも学校に通えない生徒が多いからだ。

このうちの一つ、ハットフェルダル市にあるサーメ学校には、通年で在籍する生徒は1人もいない。しかし、2つの方法で、南サーメ語とサーメ文化を子供たちに継承するために奮闘している。

1つ目は遠隔教育である。教師たちは学校に設置されたスカイプを使って、週に3回、約30人の生徒たちに個別指導を行っている。主な指導内容は、マンツーマンによる徹底した南サーメ語の会話練習だ。

凍った湖の上で穴釣りを学ぶ

2つ目は、短期セミナーである。これは、生徒たちがサーメ学校に宿泊し、サーメ語やサーメ文化を集中して学ぶ体験型の授業である。1週間のセミナーが年6回行われる。セミナーでは、野外キャンプを通して、厳しい自然の中でサーメがトナカイとともに生きてきた知恵を伝えたり、伝統工芸品の制作や即興歌などのサーメ文化を体験させたりしている。普段マイノリティーとして生活をしているサーメの生徒たちは、サーメの友達や教師、スタッフに囲まれて過ごし、とてもうれしそうであった。

(下)では、サーメの教育制度が整備されるまでの歴史的経緯や、若者の文化発信・文化継承の課題を紹介する。

(長谷川紀子=はせがわ・のりこ、聖心女子大学特別研究員、愛知工業大学非常勤講師。専門は、教育人類学、比較教育学)