正解のある学びから解き放つ

教科横断型の授業実践に取り組んでいる、東京都三鷹市立第一小学校の﨑村紅葉主任教諭。「正解がない図工の授業だからこそ、他の人と違うことをするのは素晴らしいということを、子供たちに伝えていきたい」と語る﨑村教諭に、授業で心掛けていることや、来年度からの新学習指導要領についてと、今後取り組んでいきたいという「子供と社会をつなげる」ことについて聞いた。


子供の「できた!」を見逃さない
――授業で特に心掛けていらっしゃるのは、どんなことですか。

子供たちと一緒に喜ぶことです。作品をつくる過程ですごく試行錯誤して、やっと「あ、これ自分の思っていたような形になった」という瞬間を見逃さないようにして、その「できた!」を一緒に喜ぶ。それを一番意識しています。

子供たちへの声かけでは、全体に向けて話すときはなるべく子供たち自身に気付かせたいと思っているので、あまり多くは語らないようにしています。

個別の声掛けでは、とにかく褒めます。子供たちはそれぞれが創意工夫して活動できているので、どの子にも絶対に褒めるポイントがあります。「この構図でよく描いたね」といった、その子を見ていて自然に思ったことや、「これはあなたにしかできないよ」といった声掛けを意識して行っています。

こうした褒め方がたくさんできるのも、図工の面白いところだと思っています。図工の時間の正解は1つではありません。どの子もそれぞれが正解なのです。

――授業を通して、どのような子供を育てたいと考えていますか。

予測不可能なことや困難なことが起こっても、自ら新しいアイデアを出して解決し、生き抜いていける――、そうした力を身に付けさせたいと思っています。

たとえそれが造形的な活動でなかったとしても、自分で頭を使って、いろいろな考えやアイデアを生み出す。そして周りからも意見やアイデアを取り入れ、協働しながら解決する経験が、社会に出たときにも役立つと思います。

見本どおりにきれいにつくっても褒めない
――今日、見学させていただいた6年生の授業は「光で絵を描く」というものでした。子供たちが自らアイデアを出し、どんどん発展していく様子がとてもよく分かりました。

実は、今日の授業の最初は、みんな光源をただ振って動かしているだけだったので、少し不安がありました。もしかしたら、どのグループも同じような発表になってしまうかもしれない、ということも頭をよぎりました。

幻想的な雰囲気の6年生「光で絵を描く」授業

でも、「いや、この子たちなら自然と違う展開が出てくるはず」と信じて待ちました。そうしたら、例えば色水に光を通してみたり、水面に光を落としてみたりするなど、いろいろなアイデアが次々と出てきたので、やはり子供たちの発想力、創造力は素晴らしいなと思いました。

子供たちを信じて「待つ」というのは難しいのですが、高学年になると自分たちで勝手にアイデアを思いつける子が多いので、ギリギリまで待つようにしています。

――例えば、3、4年生でこうした展開になった場合は、どうするのですか。

3年生の1学期あたりだと、こちらが見本の作品を示すときもあります。

でも、例や見本を示すと、その通りにつくってしまう子が何人かいます。すごく上手につくっているのですが、あくまでそれは私が示した見本のコピーでしかないわけで、それだけでは褒めないようにしています。こうした場合は、ダイナミックに個性的なことをしている子の作品を、大々的に紹介するようにしています。

子供たちはアイデアを出し合い、協働して作品をつくり上げていった

見本の通りにコピーできる子は、学力的にも高い子が多いのですが、そうした子が「人と違ったことをするってすごいことなんだ」とか「見本と違うことをしてもいいんだ」と理解できた瞬間はすごいです。「ちょっと冒険してみようかな」と思って作品に取り組んだときは絶対に見逃さず、ものすごく褒めるようにしています。

今は、お手本通りにやったり、一つの正解に持っていきたくなる「きちんとした子供」が多いと思うのですが、それを崩したり、殻を破るためにも、図工の時間はすごく大事だと思っています。

本校の子供たちにはこのように接してきたので、「他の子と違うことができることってすごいんだな、いいことなんだな」という感覚をみんな理解し、共有できているように思います。

「図工×理科」の教科横断型の学び
――教科横断型の学びの今後については、どう考えていますか。

理科との教科横断型の学びを、増やしていきたいと考えています。星座や天文、電気や動きといった単元は、図工とコラボレーションしやすいと思います。

例えば図工の時間で何か動くおもちゃをつくって、理科の時間でそのおもちゃがどういう仕組みで動いているのかを学ぶ。このような双方向の学びによって、子供たちの学びもより深まり、定着すると思います。

他にも体育とコラボレーションして、踊りながら造形活動をしても面白いのではないかと考えています。

――プログラミング教育が新学習指導要領で必修化されます。

あくまで私個人の考えですが、プログラミング教育を取り入れるのであれば、きちんと「プログラミング」という教科を作った方がいいと思っています。その方が、子供たちにも意図が伝わるのではないでしょうか。

プログラミング的思考を教科に落とし込んでやるのであれば、やれる教科は限られていると思うんです。図工や理科は比較的取り入れやすいと思いますし、取り入れることによって表現の幅も広がるので、やっていくこと自体は大賛成です。

ただ、例えば国語で取り入れるとなると、本来の授業のねらいからぶれてしまったり、物語の勉強をしているのに、その物語に合わせてロボットを動かしたりといったように、どうしても無理が出てしまうと思います。

何でもかんでも取り入れるとなると教員も大変なので、取り入れられる教科にはどんどん取り入れていくという形が、今の段階では適しているのではないかと思います。それに論理的思考は、プログラミングでなくても、それぞれの教科で育めます。

また、実際にゲームをつくったり、ロボットを動かしたりといった本格的なプログラミングの授業をやるとなると、それをどの時間を使ってやるかという問題も出てきます。例えばそれを「総合的な学習の時間」でやるとなると、今まで「総合的な学習の時間」で取り組んでいた意義ある学びができなくなってしまいます。それは非常にもったいないと感じます。

現場では、まだまだ「プログラミングってやる必要があるの?」と考えている教員も多いです。実践例も少ないので、何をやったらいいのかわからないというのが、正直なところではないでしょうか。

子供と社会をつなげたい
――今後、取り組んでいきたいことはありますか。

今、気になっているのはSTEAM教育です。とても面白そうですし、これからの教育で必要になる学びだと思うので、授業にも取り入れていきたいと考えています。

「子供たちの発表の場を、学校の外にも広げていきたい」と話す﨑村教諭

また、自分が何かを生み出したとき、それに対するフィードバックがあるということは、子供たちの自信につながると思うんです。これまでは子供たちの作品などを発信する場が、校内掲示や展覧会など校内であるケースがほとんどでした。もちろんそれでも友達や先生、保護者からフィードバックをもらう機会はあるのですが、私はもっと発信の場を広げて、子供たちと社会をつなげていきたいと考えています。

「自分たちの力でこんなこともできるんだ」「自分のつくったものが、社会にも影響を与えられるんだ」ということを、いつか経験させてあげたいと思っています。また、同時に6歳から12歳の子供たちがこれだけできるということも、学校外のいろんな方に知ってもらいたい。これは、発表の場が校舎の中にあるか、その外にあるかの違いだけで、大きく違ってきます。

こうした経験は、子供たちにとって自分の存在価値を高め、自分の手によって世界を変えられる可能性があるといった自信をつけることにもつながります。

この先、子供たちの世界はどんどん広がっていくでしょう。だからこそ、小さいうちから社会とつながる喜びを経験してほしい。そのためには、もっと学校の外とつながっていきたいですね。まずはその人脈を作ることからなので、もっと私自身が外を出歩いて、いろんなすてきな方と出会っていきたいと思います。

(先を生きる取材班)

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