小さな幼稚園の危機 無償化対象外の幼児教育類似施設

10月から始まる幼児教育・保育の無償化で、「小さな幼稚園」が存続の危機にひんしている。敷地面積が基準を満たさないなどの理由から、幼稚園としての認可を受けていない「幼児教育類似施設」が無償化の対象外とされたからだ。この措置に対し、施設の経営者や保護者から疑問の声が上がっており、署名活動などが展開されている。無償化から取り残されてしまった類似施設を取材すると、小さな幼稚園ならではの実践の豊かさ、それを必要とする子供の存在などが浮かび上がってきた。


小規模だからこそ、さまざまな子供が共に育つ

「地域密着で長年やってきた私たちが、どうして廃園の危機に陥らなければならないのか。国は『全ての子供たちを無償にする』と言っているのに、納得がいかない」――。

東京都西東京市にある類似施設「たんぽぽ幼児教室」の運営を担当する平賀千秋部長は、憤りを隠せない様子でそう語る。

類似施設が幼児教育・保育の無償化の対象に含まれていないことが分かったのは、1年ほど前のこと。たんぽぽ幼児教室に子供を通わせている保護者が、西東京市に問い合わせたところ、無償化の対象外であることが分かり、保護者らの間に衝撃が走った。

団地の一角にあるたんぽぽ幼児教室

たんぽぽ幼児教室は昭和30年代に大規模造成された「ひばりが丘団地」の公園の一角にある、児童数35人程度の「小さな幼稚園」だ。1962年に、団地で暮らす専業主婦らが中心となり、バザーなどで資金を集めて設立した経緯から、学校法人や自治体ではなく、同団地の自治会が運営している。

敷地が狭いことを除けば、教育内容は幼稚園教育要領に沿っているなど、一般的な幼稚園とほとんど遜色はない。むしろ、地域密着や少人数などの特性を生かし、質の高い保育が営まれている。

例えば、たんぽぽ幼児教室では、在籍する3~5歳の子供を年齢で分けず、縦割りの2クラスで編制している。また、15~17人の学級にそれぞれ2人ずつスタッフを配置するなど、子供一人一人に目が行き届く体制を整えている。

現在勤務している4人のスタッフは、いずれも保育士資格を持つ経験豊かなベテランばかり。保護者からの子育て相談には親身になって応じ、子供同士のトラブルがあったときは双方の言い分を聞いてから対応するなど、「安心して子供を預けられる」と評判だ。

親子二代にわたってたんぽぽ幼児教室に通っているという保護者は「たんぽぽ幼児教室の保育は昔からずっと変わっていない。子供に寄り添って、じっくり話を聞いてくれる、とても温かい場所だ。私が子供の頃に感じたぬくもりを、自分の子供にも感じさせたかった」と語る。

待機児童問題が深刻な埼玉県新座市から県境を越えて通わせている別の保護者も「他の幼稚園や保育園も見学したが、ここの子供たちはのびのびと楽しそうに過ごしていた。障害のある子もいて、いろんな子供が安心して過ごしているのもいいと思った」と話す。

実際にたんぽぽ幼児教室では、発達障害などがある子供を恒常的に受け入れている。少人数で大人の目が行き届くからこそ、ハンディキャップを抱えた子供たちも他の子供たちと同じ空間で過ごせるのだという。

国は類似施設の実態を把握せず

このように、たんぽぽ幼児教室には数十年にわたる実績やニーズがある。それだけに、無償化の対象に入っていないと知らされたとき、関係者らは耳を疑ったという。すぐさま都内にある他の類似施設と連携して署名活動を開始した。また、昨年秋には、都内の類似施設が中心となって集めた約3700筆の署名が、所管する内閣府、文科省、厚労省に提出されている(教育新聞2018年10月1日付電子版既報)。

国に署名を提出する類似施設の代表者ら

これをきっかけに、東京都以外の道府県にも類似施設が無償化対象外である事実が広まり、類似施設を利用している保護者らの間に危機感が広まった。現在、千葉県や埼玉県など、東京近郊の類似施設でも、署名活動や議会への請願などが展開されている。

報道をきっかけに存続に向けた活動を始めたある保護者は「国が示す無償化の対象には幼稚園、保育所、認定こども園『等』とある。てっきりこの『等』の中に類似施設も含まれると思っていた。認可外保育施設やベビーシッターが対象となっているのに、類似施設が入らないのはおかしい」と憤る。また、ある類似施設の代表者は「無償化の対象にならないとの情報が保護者の間で広まり、入園希望者向けの見学会の参加者が従来の3分の1に減ってしまった。経営上の死活問題だ」と打ち明ける。

なぜこのような事態に陥ってしまったのか。最大の原因は、そもそも国がこれら類似施設の存在を十分に把握していなかったことだ。

この問題は、「子ども・子育て支援法」改正を巡る国会の議論でも取り上げられた。今年2月に行われた衆院予算委員会では、自民党の萩生田光一議員が、類似施設が無償化の対象となっていないことを取り上げ、政府の対応を質問。安倍晋三首相は「国と地方が協力して支援していくことを検討する」と答弁した。

また、4月には類似施設の支援や現状把握の必要性を問うた、立憲民主党の早稲田夕季衆院議員の質問主意書に対し、自治体から財政支援を受けている類似施設について支援を検討していることや、自治体を通じて類似施設の把握を進めていることを明記した政府答弁書を閣議決定している(教育新聞4月18日付電子版既報)。

そして、5月に成立した改正子ども・子育て支援法では、附帯決議として施行後5年をめどに、類似施設を無償化の対象に含めることについて検討するよう求めている。

国は実態把握と並行して、自治体に対し、類似施設の支援策として、幼稚園や認定こども園への移行を促すほか、地域子育て支援拠点事業と見なして類似施設を委託先に指定し、国の補助金を充てるなどの対応策を提示している。しかし、類似施設にとって指定を受けるための要件を短期間で整える必要があり、その負担を考えれば最善策とは言い難い。

都では、知事が認定した類似施設(たんぽぽ幼児教室を含む)について、少なくとも2022年度まではこれまで通り保育料などの助成を継続。各区市町村が認可幼稚園並みの支援を行えるようにする救済措置を決めた。

しかし、他は道府県や市町村によって状況が異なり、必ずしも支援継続で足並みがそろっているとは言えない。また、自治体からの財政支援を受けていなくても幼稚園並みの保育をしている類似施設もあるが、こうした類似施設が救済される見通しは立っていない。

(藤井孝良)

関連記事