【ムンディ先生】シンプルな授業こそ「神授業」

ある公立高校の社会科教員の授業が、全国的に話題を呼んでいる。山崎圭一教諭、ネットでの愛称は「ムンディ先生」――。2014年から世界史や日本史の自らの授業動画をYouTubeにアップし、8月時点のチャンネル登録者数は約4万8000人、トータルの再生数は1200万回近くに上る。なぜ、ムンディ先生の授業は生徒らの心に響くのか。生徒に「もう一度受けたい」と言わせる授業の秘訣(ひけつ)をひもとく。(全3回)


シンプルなのに「神授業」
――授業の動画をYouTubeにアップし始めたきっかけを教えてください。

きっかけは、以前に勤務していた高校の教え子です。世界史の授業を担当していた2年生の生徒に「受験まで一緒に頑張ろうぜ」と声を掛けたり、1年生の生徒には「世界史は面白いよ」と世界史の選択を勧めたりしていたのですが、その年に異動になってしまったんです。

生徒たちから「先生の授業を3年になっても受けたかった」「土日に教えに来てください」と言われるし、1年生にも世界史を勧めてまわった手前、生徒に申し訳ない気持ちもあるし……。

そんな時に、1人の生徒から「じゃあ先生、授業をYouTubeにアップして、いつでも見られるようにしてよ」と言われたんです。YouTubeで授業を配信するなんて新しいし、面白い試みだなと思い、見よう見まねで始めたのが2013年です。

――教え子のために撮り始めた動画が全国的に話題を呼び、「ムンディ先生」の愛称で親しまれ、書籍も出版されました。ここまで反響があったことについては、どう受け止めていますか。

「ムンディ先生」の愛称で親しまれる山崎圭一教諭

授業動画については高校生だけでなく、教員や社会人の方々の学び直しのために活用していただけているようです。

現状には、自分でも正直驚いています。というのも私の授業は珍しいことをしたり、とっぴな仕掛けがあったりするわけではないからです。いわゆる「チョーク&トーク」スタイルの、従来型でシンプルな授業です。

メディアやネットで「神授業」とたたえていただいていますが、特別な工夫なんて何もありません。アクティブ・ラーニングが声高に叫ばれている今の教育界では、むしろ逆行しているのではないでしょうか。

ただ大切にしているのは、生徒目線に立って丁寧に伝えること。分からないことを分からないまま板書したり、発言したりせず、自分の言葉で説明できるまで、事前にしっかり研究するよう心掛けています。

例えば世界史の場合、あえて年号を使わずに一つのつながったストーリーとして解説します。これは私が高校時代、一番理解できた勉強法です。あとは、前から順を追って筋道を立てて伝える。重要なところは繰り返す。板書は左上が過去、右下が現在という構図で整理して書く。

これらは全て、ベテランの教員であれば当たり前に身に付けているテクニックです。言ってしまえば、誰にでもできる昔ながらの授業です。

「神授業」と言われる背景に注目すべき
――では、なぜシンプルな授業スタイルに、ここまでニーズがあるのでしょうか。

私の授業技術うんぬんより、このスタイルの授業がなぜ「神授業」と言われているのか、その背景に注目すべきだと思います。

視聴者の高校生たちからは、「学校の先生の授業が分かりにくいから見ています」「学校の授業を理解する上で、ムンディ先生の動画が頼りです」といった意見が多く寄せられています。

授業スキルの低い教員や授業についていけない高校生は、昔もいましたし、今もいます。私の動画を介して、そんな高校の実態が浮き彫りになったと感じています。

誤解を恐れずに言うと、学校教育は属人的な部分が大きい。同じ教科書を使って同じ時間を割いて授業をしても、例えば教員の教える技術や教員と生徒の相性が、生徒の学力に少なからず影響を及ぼします。

そのため、一部の生徒は学習がはかどらなかったり、その教科自体を嫌いになってしまったりすることもある。とてももったいないことです。

そうやって歴史への興味を失わないよう、私の教え方を分かりやすいと感じるならば、動画を見て、歴史の面白さに少しでも触れてほしいと思います。

――教員からのニーズも高そうですね。

動画がきっかけで全国各地の先生と意見交換したり、オフ会をしたりする機会が増えてきました。特に新任の先生方が私の動画を参考にし、授業に生かしてくれているそうでうれしいです。

授業動画は教員からのニーズもあるという

学校現場は、アクティブ・ラーニングなど新しい潮流が次々に入ってくる一方で、教員の多忙化や高年齢化などが進んでいます。そのため新任の先生たちが授業の進め方を誰にも質問できなかったり、管理職や先輩教員がフォローできなかったりする実情が、全国で見受けられます。

私が新任だった頃は先輩教員に「ちょっと授業を見学させてください」と気軽に声を掛けて、技術を習得していました。でも、今はなかなか時間が取れない中で、先輩が後輩に技術を伝承する場がつくれていないのではないかと感じます。

特に私が担当している世界史や日本史、地理は、小規模校だと1校に1人しか担当教員がおらず、比較の対象がいない。だから果たして自分の授業が良い授業なのかも、改善点があるとすればどこなのかも分からない。1人で悩みを抱えている教員は少なくありません。

そんな先生たちにとって、私の授業動画を見ることは比較の対象や評価軸を持つことにつながると思います。特に新任教員にとっては、有用でしょう。実際に「世界史の担当が学校で1人なので、毎回見ています」といった声も寄せられています。

動画授業が全国の高校生や教員の一助に
――学校現場で困っている生徒や教員の一助になっているのですね。

授業動画の可能性を語る

当初は教え子に向けてアップし始めた授業動画ですが、学びに迷いが生じた生徒や教え方のヒントが欲しい教員にとってリスクヘッジのような存在になっているとすれば、うれしいことです。

先ほども触れましたが、学校教育は「人間対人間」の関係性の上に成り立つもの。私の教え方を「合わない」と感じる人ももちろんいるでしょう。それは教える教員や子供たちの能力の問題ではなく、相性の問題だと思います。ですからもっと多様な教え方の授業動画がネットに上がって、学校の授業で行き詰まった生徒たちが自分にフィットする教え方を選べる時代が来ればいいなと思います。

(板井海奈)


【プロフィール】

山崎圭一(やまさき・けいいち) 再生回数1200万回を誇る世界史・日本史授業動画YouTuberであり、現役の公立高校教師。著書に小説のように「読める」教科書をコンセプトにした『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』『一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書』(共にSBクリエイティブ)などがある。

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