英語民間試験の活用(1) 不安解消急ぐ国と団体

大学入学共通テストの英語民間試験の活用を巡り、高校現場から懸念する声が上がっている。全国高等学校長協会(全高長)は7月25日、文科省に対して不安解消を求める異例の要望書を提出。各試験実施団体からの情報が出そろわない中、受験生や高校教員からは「本当に来年4月から実施できるのか」「実施そのものを見送るべきだ」という意見も噴出している。こうした不安に、国や試験実施団体はどう応えるのか。教育新聞では、実施に向けた現段階の対応策を整理するとともに、英語4技能評価の課題を有識者に取材した。


ポータルサイト開設も不安ぬぐえず

2021年度入試から大学入試センター試験に代わって導入される大学入学共通テストでは、英語4技能を評価するために、共通テストとは別に民間団体が実施する英語の資格・検定試験を受験し、その成績を大学が活用する「大学入試英語成績提供システム」の導入が予定されている。

受験生はシステムに参加する検定団体が4~12月にかけて実施する試験を2回まで受験でき、その成績が大学側に送られる仕組み。受験生は各試験のCEFRとの対応や問題の特徴などを踏まえ、どの検定をいつ受験するか決める必要がある。

ところが、7月2日に同システムへの参加を予定していた「TOEIC」を運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が「試験申し込みから実施運営、結果提供までの処理が当初の想定よりも複雑になった」との理由で、参加申し込みを取り下げていたことが判明。関係者の間に衝撃が走った。

要望書を文科省に提出する全高長の萩原会長

こうした状況に業を煮やした全高長は7月25日、文科省に高校現場の不安払拭(ふっしょく)を求める要望書を提出。具体的な不安として①生徒が希望する時期や場所で試験を受けられる見通しが立っていない②受験に対して地域格差、経済格差があり、その対応が不十分である③実施団体の検定試験の周知に計画性がなく、詳細が明確になっていないため、生徒への指導や来年度の年間行事計画が立てられない④試験の実施方法や採点方式、結果の周知時期など、公平、公正性に対する不信が払拭(ふっしょく)されていない⑤活用方法を明らかにしていない大学がある⑥障害のある受験生への配慮が実施団体によってばらつきがある――の6点について、早期の不安解消を求めた。

特に③では、要望書提出後の記者会見に出席した全高長の幹部が、高校の2学期が始まる前の8月中旬までに、各検定団体の詳細な情報を文科省で取りまとめて高校に提供するよう注文した。

これを受けて文科省は8月27日、各検定団体の試験情報や、各大学の英語民間試験活用状況などの関連情報を整理した「大学入試英語ポータルサイト」を公表。要望に応じる姿勢をみせた。

しかし8月1日時点で、民間検定試験の成績を大学入試センター経由で活用するかをまだ決めていない大学・短大が296校に上っているなど、ポータルサイトの情報は未確定のものも多い。

9月3日に開かれた「大学入試英語4技能評価ワーキンググループ(第6回)」では、各実施団体から現状が報告された

同省は情報を随時更新していく方針だが、全高長会長の萩原聡・東京都立西高校長は「現状のポータルサイトは見にくく、あのままでは生徒への説明に使えない。各検定団体の準備状況や大学の活用の有無など、これまで分からなかったことが分かったにすぎないのではないか」と厳しい。

9月3日には、全高長を含む英語民間試験の関係者が一堂に会する「大学入試英語4技能評価ワーキンググループ」の第6回会合が開かれ、報道機関向けに一部公開する異例の対応が行われた。その場で試験実施団体が最新の状況を報告。同省は試験実施団体に対して11月ごろまでに各試験の日程や会場などを確定させ、公表することを求めているが、そこまでに詳細な情報が出そろうかは不透明な状況だ。

対応急ぐ試験実施団体

全高長が挙げたその他の不安について、比較的早い段階から情報提供してきた日本英語検定協会(英検)に、現在の状況を聞いた。

英検では大学入試英語成績提供システムに対応するために、1日で4技能の全ての試験を実施する「英検2020 1 day S-CBT」と呼ばれる新方式を準備。一部の離島などを含む全都道府県の約260カ所にテストセンターを設置して実施する。試験の予約方法を予約申し込みと本申し込みの2段階とすることで、予約申し込みの状況に応じてテストセンターの会場や座席数を確保。できるだけ受験生の希望する日程で試験を受けられる体制にした。

ただし、予約申し込みの段階で、ある会場の申込者数が少ない場合には、その会場が開設されず、近隣のテストセンターで受験する可能性もあるという。

試験の公正性確保では、従来の高校を試験会場とせず、テストセンターでは各座席をパーティションで仕切るなどの対策を実施する。また、ライティングの採点などでは、英検が設けた基準をクリアした採点者を採用し、一定のトレーニングを積んだ上で、誰が採点しても同じ結果となるようにした。

障害のある受験生への配慮では、英検はリーディング、ライティング、リスニングを従来同様の紙のテストで、スピーキングを対面式で行う「英検2020 2 days S-Interview」を、合理的配慮が必要な障害のある受験生のみを対象に実施する(予約申込時に申請が必要)。試験は2日にわたってしまうが、例えば吃音(きつおん)のある受験生では、画面上に制限時間が表示されるCBT方式よりも、対面式の方が落ち着いて臨める場合もあるという。

一方で、経済的に困難な家庭の受験生に向けた軽減策については、8月時点で「TOEFL iBTテスト」が15%減額を決めているのみで、英検を含め検討中としている団体が多い。英検の担当者は「新方式は会場の確保などの問題から従来の方式よりも受検料がやや高くなってしまったが、受験生の負担が増えないよう、ぎりぎりの料金設定にしている。経済的に困難な家庭の受験生に対し、具体的にどれくらい割り引くかは、検討を進めている状況だ」と説明する。

英検では9月18日から「英検2020 1 day S-CBT」の第1回検定の予約申し込みを始める。

受験生に対して英検の担当者は「新方式とはいえ、内容は従来の英検と変わらない。英検のホームページでは、実際の試験画面や操作方法を体験できるようにしているが、新方式に慣れるための対策に時間をかける必要はない」と指摘。

「各試験の目的が異なる上に、大学によって特定の検定試験の受験を指定している場合もあるので、受験生の情報収集が必要なことは確かだ。英検としても、検討中の内容が決まり次第すぐに、ホームページなどで広く発信していきたい」と話す。

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