英語民間試験の活用(2) 現場教員が今、やるべきこととは

大学入学共通テストの英語民間試験の活用を巡り、高校現場から不安視する声が上がっている。こうした状況の中で今、学校教員にできることとは。英語4技能評価の課題と今後の展望、指導に役立つ具体的方策を、学校の授業や研修などで講師を務めるSapiens Sapiens(サピエンス サピエンス)代表取締役の山内勇樹氏に聞いた。


4技能を伸ばせるのは日本人の教員
――山内さんは、留学支援や英語を指導する会社を経営しながら、学校の授業や研修などで講師をされていますね。

ええ、私立高校での授業や英語学習に関する講演・講義のほか、高校の先生方を対象にセミナー講演、英語の教え方についてのワークショップ、勉強会を実施しています。

――ご自身では英語があまり得意ではない状態で留学し、脳科学を研究した経験を生かして現職につかれたとか。

はい、高校までの成績はあまりよくはなかったのですが、米国のコミュニティーカレッジに入学し、その後カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に進学。脳神経科学を専攻し、脳の学習機能や記憶機能、脳細胞の分子レベルでの動き、心理学などを研究しました。

そこで得た知見に基づく教育方法で2005年から海外への留学サポートを始め、500人以上の生徒を受け持ち、全員を合格させてきました。

――ご自身でもTOEFL、TOEIC、TOEIC SWスコアの日本最高得点保有者になるなど、学習効果を実証してきた中で、「スピーキングはネーティブに教わるのがよい」といった見方をどう捉えますか。

私は、日本人の先生がベストだと考えています。

なぜ生徒の発話がそこで止まるのか、同じ誤りに陥るのかを把握して指導できるのは、英語を第2言語として話せるようになった、その過程を自分自身が経験したことがある日本人の先生だけだからです。

だからこそ、日本人の先生方には自信を持って、スピーキングやライティングの指導に当たってほしいと思っています。

課題と各民間試験の特色は
――大学入学共通テストの英語民間試験の活用を巡る現状を、どう見ていますか。

大きな課題は、対象となる民間試験の数が多すぎること。そのため、例えば「英検で準1級に合格した生徒が、TOEFLでは何点相当なのか」といった相関関係を正確に示すことは難しいと言えます。

都内の私立高校で講師を務める山内勇樹氏(本人提供)

もちろん、テストの数を限定すると競争の観点から公平性を欠くという側面があり、仕方のないことですが、現時点で7つもの民間試験が活用の対象になっていて、それが問題視されることもあります。

それぞれのテストを、CEFR(セファール)の基準に照らし合わせ英語能力を判定するという声が上がっているようですが、それでも各テスト間の相関関係を適切に考慮し、客観的なスコア対応を行うことはできないでしょう。

――7つの民間試験、それぞれの特色は。

まず、TOEFL iBTは、学術性の高いテストです。

これは、海外の大学に留学する際に英語力を示す目的で広く使用されているテストだからで、「留学先で生き残れるか」「アカデミックな内容について行けるか」を見るためのテストという印象です。中にはネーティブでも知らない単語も見られ、日本国内の大学を目指す高校生には専門性が高すぎる、と感じられるテストでしょう。

それに対して英検は一般英会話や社会的な話題も含め、より幅広い分野を扱っています。他の試験との最大の違いは、階級が分かれていて、合否で結果が示されることです。試験日が2日に及ぶという特徴もありました。しかし、外部テストとしての使用に向け、英検2020という、1日で4技能の受験を完了する新方式も導入されています。

ケンブリッジ英検は、イギリス発祥のテストで、英検同様に階級制です。非常に歴史が長いテストですが、2020年に向けテストのリニューアルが進められているとの情報もあります。

――その他の試験は。

GTECは、日本の学校で行われている英語学習に根差し、学問としての英語を実践としての英語にまで拡張していきたい、というベクトルが感じられるテストです。日本の生徒の背中を押し、「英語を学びたい」という気持ちにさせるよう配慮された試験だと感じています。長文問題と言っても TOEFLや IELTSほど長くはなく、専門性もそれほど高いわけではありません。

ただ、まだ世界基準ではないため、国内でしか使われないというデメリットがあります。英検、ケンブリッジ英検、TOEFL、IELTSが他国でも広く実施されていることを考えると、現時点では国内でのみ使用できるテストだと言えます。

TEAPとTEAP CBTは、英検と上智大学が基盤を作成したものです。実施が年3回で受験のタイミングを自由に選びにくいという面があり、比較的新しいテストなので、特にCBTは受験者数がまだそれほど多くないのですが、今後の動向が注目されるテストです。

最後に、IELTS(アイエルツ)。日本では受験者はかなり少ないのですが、世界的にはTOEFLとマーケットのシェア争いをしている試験です。点数は4技能各セクションで、0.5ポイント刻みで最高点が9.0。最終スコアは各セクションの数字を平均して出すという独特な方式でスコアを出します。他のテストに比べると、瞬間的な集中力が重要になるテストだと言えます。

――それぞれ特色が多様な試験で、相関関係を示すのは難しいと。

例えば米国の大学受験で使われるテストでは、SATとACTの2つがあり、どちらかを受けます。そこで大学側が見るのは、「何点取ったか」ではなく、「全体の中で上位何%にいるか」を示すパーセンタイルです。

パーセンタイルが99%なら、トップ1%にいる。70%なら、トップ30%の位置にいる、という「自分はトップ何%にいるのか」という数字です。

このパーセンタイルという考え方を採用するなら、民間試験が複数乱立していても、より客観的な実力判定ができますが、英検、ケンブリッジ英検のような階級制のテストについては、このパーセンタイルを用いた判定方法を一概には導入できないと思います。

やはり、形式、難易度、その他諸条件がさまざま異なるテストがこれだけあると、公平な判定は難しいということになります。

今後、主流になる試験
――各試験の活用される度合いはどうでしょう。

先日、TOEICとTOEIC Bridgeが撤退を表明しましたね。手続きの煩雑さを撤退理由としていましたが、本来TOEICは日常英語とビジネス英語を扱うので、ビジネス経験の有無が、正しく解答できるかどうかに影響します。大学生が受ける上でもハードルが高いのに、高校生ではなおさらです。撤退は賢明だと私は考えます。

今後、活用される民間試験で主流になるのは、英検とGTECだと思います。

英検はインフラがあり、長年にわたって根強く学校教育に関わってきました。改革にも敏感で、ハンディキャップのある受験生への対応をいち早く取り入れています。

GTECも、日本の学校教育と密接にかかわりながら普及してきています。比較的新しいテストですが、すでに多くの受験者がいますし、今後も伸びていくでしょう。

この2つに追随するのはTOEFLかと思います。受験会場が多いだけではなく、都市部では毎週末、地方でも他の試験に比べると比較的多く実施されるなど、受験のタイミングを自由に取りやすいというメリットがあります。8月からテストが変わり、受験時間も大きく短縮されました。

一方で、TOEFLには内容が学術的だという難しさや、2万円以上と検定費用が比較的高額であるという理由で、選択しない生徒が出てくると予想します。

指導のポイントは3つ
――民間試験活用に向け、4技能を伸ばすにはどういった指導が求められますか。

私は、高校生のスピーキング力やライティング力を伸ばすポイントは3つだと考えています。

「スピーキング・ライティング指導のポイントは3つ」と語る

一つは、表現を絞ること。人間の脳には、選択肢が多すぎると選べないという特徴があります。例えば買い物で、「欲しい」と思っていたものがあっても、選択肢が多く悩みすぎると脳が疲れ、かえって何も買えずに帰るということがあるのではないでしょうか。

英語のスピーキングも同様です。特に、「民間試験で高得点を取る」ことを目指すのであれば、流ちょうさが何よりも求められます。採点基準では、確かに文法の正確さや発音も考慮されますが、それ以上に重視されるのは、テンポよく話せているかどうかという「スピード」と、言われたことに的確に答えているかどうかという「内容」です。

難しい構文を駆使するより、単純で短い文章を流れよく話せるようになる必要がある。そのためには、200や300もある構文から選択させるのではなく、基礎となる表現を最低限に絞り、それらをつなげて話し続けられるようになることが重要です。

――民間試験に向けての指導、2つ目のポイントは。

話すトピックを限定し、徹底的に1つだけのことをできるまでやらせる。

「賛成か反対か」「プランAかプランBか」「要約すると」など、スピーキングのトピックは多種多様です。それらを全て手広く指導していたら、どれも身に付かないままになってしいます。

1つの問題タイプを徹底し、同じことをやり続けること。他のことはしない。そうすればできるようになります。「上達している感じがする」「こうやって同じことを繰り返せばできるようになるんだ」という成功体験を1つつくることが先決です。成功体験があれば、それを横展開する、すなわち違う問題タイプにも適用させることができます。

――3つ目のポイントは。

いかに楽しいと思わせるかです。特に中高生では、イヤイヤやることに効果はありません。

教えることよりも、先生が生徒と楽しさを共有する方が効果的です。楽しさを演出しながら励ますのが重要だと考えています。

楽しみながら学習して英語が通じたという体験をさせる方法は「高額の費用が必要だ」と思われがちですが、スカイプでのオンライン英会話や英語村の活用、英語を共用語とする会社の訪問など、アイデア次第で低予算でも実現できることがたくさんあります。

何ができるかを考えて実行することが、先生のミッションになるのではないでしょうか。

――最後に、現場教員へのメッセージを。

学校を訪問すると、民間試験活用を巡る新制度の導入に、先生方が困惑しているように感じます。「何をしたらいいのか」「何を使えばいいのか」と。

学校の先生は非常に厳しい立場にいます。民間試験の指導を含め、経験がないことでも、国などが決定したことに対応しなければなりません。経験がなければ自信を持てるはずもなく、さまざまな義務感や多忙の中で焦りが生まれるのは、当たり前のことだと思います。

私が伝えたいのは、「先生自身が外部テストをどんどん受けるべきだ」ということです。そうすれば、「what、何をしたらいいのか」という段階から、「why、なぜこの問題を間違えたのか」の段階に変わり、そこから「how、どうしたら改善できるか」へ移行して「do」、つまり実行に移せます。

そうすることで、おのずから外部テストへの指導法が見えてきます。なぜ生徒はうまくできないのか、そして、どうすれば克服できるだろうか、と。その指導法は、誰かに「絶対こう教えなさい」と押し付けられるものではありません。先生自身がテストを体験し、自らのスコア向上を試み、振り返りと努力を重ねる中で、目の前にいる生徒への指導法が見えてくると思います。

先生自身が満点や高得点を取る必要はありません。どうしたらできなかった生徒ができるようになるか、その成長過程を先に歩いて、打開策を示せるようになることが大事だと私は思っています。

学校へ行くと、改革心や向上心のある先生がたくさんいることが分かります。今は不安の方が強く、ブレーキがかかっているかもしれませんが、できるようになったら「もっとやりたい」とアクセルを自ら踏むようになり、加速して行けるでしょう。そうしたらもう、われわれのような外部講師にできることはないと考えています。

(聞き手 小松亜由子)


【プロフィール】

山内勇樹(やまうち・ゆうき) 1980年、長崎県生まれ、広島県育ち。99年に渡米し、UCLAで脳神経科学を専攻。2004年に卒業後は日本で留学支援や英語指導をする会社を経営しながら、英語スピーチコンテストの審査員や、学校の授業や研修などでの講師を務める。英検、TOEFL、GTECなど10以上の英語民間試験について指導している。モットーは「信念を持って教育を提供し、そして結果を出す」。

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