「教える」から「引き出す」へ(上)「対話型鑑賞」で授業が変わる

「主体的・対話的で深い学び」の一手法として今、「対話型鑑賞」が注目されている。愛媛県では2015年度から県内の小中学生を対象に「えひめ『対話型授業』プロジェクト」を展開。美術における「対話型鑑賞」の手法を国語や社会、理科、体育、家庭科など他教科へ転用した「対話型授業」の実践を重ね、子供たちの学ぶ意欲を培ってきた。

そのプロジェクトを立ち上げたのが、愛媛県美術館の学芸員である鈴木有紀さんだ。

「これから子供たちに身に付けてもらいたい力を育成できる一つの方法として、紹介しない手はないと思った」という「対話型鑑賞」の魅力や実践法、視覚教材の選び方などについて話してもらった。(全3回)


これは、「教えない」授業
――教育界だけでなくビジネス界からも注目を集めている「対話型鑑賞」ですが、その概要についてお話していただけますか。

「対話型鑑賞」とは、美術史などの知識だけに偏らず、鑑賞者同士のコミュニケーションを通して美術作品を読み解いていく方法で、1980年代にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開発された鑑賞教育です。

MoMAでこの教育を学び、その後、京都造形芸術大学に赴任された福のり子教授が、日本の教育の現状に合わせた「対話型鑑賞」を生み出し、それをACOP(エイコップ=Art Communication Project)と名付け、普及されてきました。ACOPは、鑑賞力のみならず、観察力や批判的思考力、言語能力、コミュニケーション能力といった総合的な生きる力の育成につながる手法として用いられています。

――鈴木さんが「対話型鑑賞」を、学校教育の現場へ導入しようと思ったのはなぜですか。

2020年度から順次実施される新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った授業改善が大きなテーマとなっています。まず、「対話型鑑賞」の手法を用いた授業は、こうした学びに非常に適したアプローチだと思ったのです。

「新学習指導要領においても効果的な手法」と話す鈴木さん

また、新学習指導要領では育成すべき資質・能力として、①何を理解しているか・何ができるか(知識・技能)②理解していること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)③どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力・人間性等)――が掲げられています。

私はこの3つの資質・能力の育成にも「対話型鑑賞」が完全合致すると思いました。

もちろん、この手法が全てだとは思っていません。しかし、これから子供たちに身に付けてもらいたい力を育成できる一つの方法として、紹介しない手はないと思ったのです。

みる→考える→話す→聴く
――「対話型鑑賞」とは、具体的にはどのような流れで行うのでしょうか。

例えば、この絵(唐獅子図屏風)をよくみてください。絵の中でみつけたこと、気付いたこと、考えたこと、疑問でも何でもいいので話してみてください。

――この獅子のような2頭は親子かなと思いました。

どこからそう思いましたか?

――左の獅子が大きくて、右の獅子は一回り小さいからです。

なるほど、大きさが違うから親子かもしれないと思ったんですね。

このように、「対話型鑑賞」では視覚教材をまずじっくり「みて」観察し、みえたものについて、絵の中のどこからそう思ったのか、根拠に基づいて「考え」ます。そして自分が考えたことや感情、疑問を的確な言葉にして「話し」、他者の意見を「聴く」という4つの基本プロセスを繰り返し、考えや視点をみんなで共有し、広げていきながら鑑賞を深めていきます。

――実際にこの「唐獅子図屏風」を使った授業では、子供たちからどのような意見が出ていましたか?

小学3年生の授業でも「この2頭は親子なんじゃないか」という意見が出ました。それに対して「どこからそう思う?」と先生が問うと、「お話ししているみたいだし、仲良しみたいだから」との答えが返ってきました。そこで再び先生が「どこから『お話ししているみたい』『仲良しみたい』だと思ったの?」と問うと、児童は「お互いが目と目をみているから」と、その根拠を答えてくれました。

しかし、その意見を聴いた上で、他の子供から「みてないよ! 左側の方はみているけれど、右側の方は前を向いている」といった意見が積み重ねられていきました。

他にも、「2頭は恋人で、デートしているみたい」「2頭は逃げている感じがする」などの意見が出てきました。

愛媛県美術館では、来館者の作品の感想を共有している

こうした意見が出るたびに、先生は「どこからそう思う?」と問いを投げます。そうすることで、例えば「左の方は体が大きいからオスで、右の小さい方はメスなのでは」「2頭は何かお話ししているみたいだから」「逃げてきたけど、崖みたいなのがあるから、行き止まりだって焦っている感じ」と、子供たちは視覚教材の中からその意見の根拠を述べたり、そこからさらに考えを広げてくれたりします。

このように「対話型鑑賞」は、「どこからそう思う?」という「問い」を投げ掛けます。この問いを投げることで、子供たちから出た意見を言いっぱなしで終わらせず、子供たちの考えを拾い上げ、さらに考えを促すことができます。

子供たちの解釈が正しいかどうかは問題ではありません。自分の考えに根拠を持って組み立てられるかどうかが大切なのです。

「どうしてそう思う?」ではなく「どこからそう思う?」
――「どこからそう思う?」という問い掛けが、一つのポイントなのでしょうか。

「対話型鑑賞」では「どこからそう思う?」と問うことで、子供たちが自分で考えたことの根拠を聴くようにしています。「どこから」を使うことで、子供の目線や思考が視覚教材に戻り、自分がそう思った根拠である作品の中の具体的な箇所を指摘して、「○○からそう思った」と論理的に述べる力が身に付いていくのです。

「どこからそう思う?」と似たような問い掛けで、「どうしてそう思う?」や「なぜそう思う?」がありますが、実はこれらの発問は抽象的すぎて、子供たちに戸惑いを生みやすいです。「どうしてそう思う?」や「なぜそう思う?」だと、子供たちは作品の中に根拠を求めるのではなく、自分の頭の中にある知識や経験を語り始めてしまうので、皆で考えを共有しにくくなります。

――鈴木さんは館内だけでなく、小中学校で「対話型鑑賞」の出前授業も行われていますが、子供たちの様子や反応はいかがですか。

とても生き生きしています。「対話型鑑賞」の授業では、子供たちは「正解」や「間違い」と言われることもありません。自分の意見に対して先生が「すごいね!」「よくみているね」などと肯定的に受け止めてくれることがうれしいし、安心した気持ちにもなります。また、友達同士で違う意見が出てくることでよりワクワクした気持ちになり、知的好奇心も芽生えてくるのだと思います。

何より、いつもは手を挙げたりしない子がどんどん挙手するので、驚かれる先生が多いですね。自分が考えていることを言いたくてたまらなくなるというのは、「対話型鑑賞」の持つ力だと思います。

みたことを言語化することで「経験」になる
――視覚教材はどのように選べば良いのでしょうか。

鑑賞者、つまり子供たちに配慮した視覚教材を使うことが極めて重要です。授業で使う場合は、自分の目の前にいる子供たちが「知っていること」から考えられるようなもの、その上で、「なぜ?」「どうして?」と考えたくなるようなものということです。

例えば、小学生低学年だと最初の鑑賞作品は、「みつける」ことがたくさんできるような作品をよく使います。「猿がいる」「青いものがある」など、リストアップといって最初の鑑賞は羅列から始められるものを選んでいます。あちこちみつけることによって全体をくまなくみることができ、それによって観察力が上がっていきます。

子供たちは単純にみつけたことを言っているようにみえても、実は誰一人言っていることがかぶりません。つまり、他者の話をよく聴いているのです。低学年に「聴く」ことを身に付けさせるのは大変なのだそうですが、「対話型鑑賞」をやることで他のお友達の話を聴けるようになります。自分がみつけたことを他の子に言われてしまっても、別の表現の仕方をするようにもなります。

学年が上がっていくにつれて、子供たちは自分の解釈を発言するようになります。「変な顔のフクロウ」とか、「なんとなく怖い」などと発言をしてきたら、「どこからそう思う?」と問いを投げるのです。

また、「この前の社会科見学で子供たちは○○に興味を持っていたな」というようなことがあれば、それに関連した視覚教材を使うとより効果的です。直近の授業で学んだことを生かしたり、地域との関わりなどを踏まえたりして視覚教材選びをするといいと思います。

――その他の「対話型鑑賞」を行う際のポイントはどんなことでしょうか。

「みる」「考える」「話す」「聴く」という4つの基本プロセスを繰り返すこと、「教える」のではなく「問いを投げる」ということ、みる人のことを考えた視覚教材を用意すること、そして「振り返り」が大切です。

県主催で対話型鑑賞に関する教員研修も行われている

「対話型鑑賞」の授業では、対話の中で得た自分の気付きや感想を記入する、振り返り用のワークシートがよく使われています。

普段は手を挙げないような子が挙手することも多いですが、それでも最初はなかなか発言できない子もいます。でも、授業後の振り返りをワークシートに書かせると、とてもいいことを書くと、学校現場の先生方からお聴きします。

そうした場合は、ワークシートに「この考えすごいね!」「今度の授業の時には、どこからそう思ったのか言ってみようよ」といった励ましのコメントを入れられているそうです。つまり、振り返りワークシートでも「対話」を行っていくということです。

福のり子教授から学んだことなのですが、ただみるだけだと「体験」でとどまります。しかし、みたことを言語化すると、それは「経験」として定着し始めるそうです。こうした振り返り用のワークシートも対話型にすることで、さらに学びが深まります。また、書くことも言語化になるので、「経験」として定着していくと思います。


【プロフィール】
鈴木有紀(すずき・ゆき) 愛媛県美術館学芸員。1969年、愛媛県生まれ。県内の自然・科学系博物館、歴史系博物館の勤務を経て、2001年より現職。美術館の教育普及を担当し、館内外で「対話型鑑賞」の普及に努める。13年から県内の小中学校などと連携して教育現場への導入に取り組み、15年度から4年間、文化庁の補助事業の一環として愛媛県美術館が県内博物館や小中学校、外部専門家と共に実施した「えひめ『対話型授業』プロジェクト」では、美術にとどまらず幅広い教科での活用・応用を推進。対話型鑑賞のさらなる促進に努めている。著書に『教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方』(英治出版)。
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