【ラグビー部にみる部活動の潮流(1)】英国のラグビー部にみる部活動の目的とは

静岡聖光学院中学校・高校ラグビー部監督 佐々木 陽平

目的はジェントルマン

静岡聖光学院ラグビー部は積極的に国際交流に取り組んでいる。今年度は、ラグビー発祥国である英国をはじめ、4カ国5チームとの交流を予定している。私は世界各国の学校を見学し、国際交流を通じて、部活動の在り方を考えさせられることが多くあった。

ラグビーワールドカップが日本で開催されるのを前に、本連載では、学校における「ラグビー部」の活動を比較しながら、世界の視点から部活動を捉え直してみたい。

さて、今回は日本と英国エリート校の、部活動の目的の違いについて述べようと思う。

2017年度に英国のキングススクールカンタベリーを日本に招き、ラグビーの交流戦を行った。キングススクールカンタベリーは597年に創立され、英国の中でも最も歴史のある学校の一つで、貴族の子孫が多く在籍しているのが特徴だ。

日本と英国のラグビー交流(佐々木教諭提供)

部活動の目的について、日本との大きな違いを感じたのはキングススクールカンタベリーの生徒に「何のためにラグビーをしているか」と尋ねたときだった。彼らは間髪入れず「ジェントルマンのスポーツだから」と答えた。つまり、彼らは「ラグビーを通じてジェントルマンの精神を養いたい」「自分たちはエリートであるので、ラグビーをするのは当然だ」と考えているのである。

彼らにとって、大会優勝は目標ではない。大会方式もそのことを雄弁に物語っている。驚くべきことに、英国には国内ナンバーワンを決める大会は存在しない。ある程度大きなトーナメントは存在するが、地方予選から州大会、全国大会へとつながるような大会がないのである。その代わり、古くから対抗戦が存在している。

「全人教育」という太い幹

指導者のマインドも同様だ。

昨年、英国パブリックスクールの中でも名門の9校(ザ・ナイン)に属しているハロウ校を訪問し、監督と意見交換する機会に恵まれた。彼は元スコットランド代表であり、国際大会にも出場経験がある。現在は監督業務に加えて、理科の教員と寮のハウスマスターを務めている。ハウスマスターは、寮に住み込みながら運営管理はもちろんのこと、生徒の健康管理や指導、個別相談など、多岐にわたる業務をこなさなければならない。

私たちの感覚からすれば、元スコットランド代表選手という輝かしい経歴を持つスペシャリストであれば、ラグビーの指導に注力すべきだと考えてしまう。しかし、彼の中には「全人教育」という太い幹があり、学習・寮生活・部活動を通じてジェントルマンを育てるという、ぶれない目標がある。そして、現在の仕事に強い誇りを持っているそうだ。特にハウスマスターを務めていることが、大変名誉であると語っていた。

ところで私は、北海道の公立高校で教職としてのキャリアをスタートした。日本最北端のラグビー部で監督を務めていたため、掲げた目標は「日本最北端のラグビー部を花園へ」だった。

大会での勝利のため、全国大会出場のために練習に励んでいた。生徒と勝利を目指して努力することが何より尊いと考えていたため、練習は長時間に及び、週末もほとんど遠征や練習試合に費やしていた。生徒には「何をやるのか」「どうやるのか」だけを考えて指導していた。

結果として、部活動を通じて忍耐力や継続する力は付いたかもしれない。しかし、それらは当初から生徒に身に付けさせたい力として設定したものではない。

試合で握手を交わす選手たち(佐々木教諭提供)

一方、英国の指導は最初に「何のためにするのか」が明確だった。「何をやるのか」「どうやるのか」は、あくまで目的の下に位置付けられたものにすぎない。

「ラグビーを通じてジェントルマンの精神を養う」という目的が設定されれば、「練習時間が長い」「週末も休みがない」という状況はミスマッチになる。合わせて、部活動以外、グラウンドの外で過ごす時間の振る舞いが、非常に重要になってくる。そうやって文武両道に取り組み、芸術を積極的に学び、鍛えた体を弱者を助けるために使うことは、自然と意識するようになるだろう。

本校の部活動は勝利だけを追い求めず、その先にある人間的成長に重きを置いたモラルビクトリーをモットーに活動している。全ての部活動で、練習は週に最大3回まで、1回あたり最大90分しかない。その上で、部活動以外の時間でのさまざまな学びを奨励している。

日本の部活動では、多くの学校が長時間の練習をする中、一つのロールモデルになることができればと考えている。

次回は、日本と同じアジアの国から、タイの部活動の練習に着目してみたい。


【プロフィール】
佐々木陽平(ささき・ようへい) 1977年、北海道生まれ。北海道羽幌高校ラグビー部監督などを経て、2016年、静岡聖光学院高校ラグビー部監督に就任。練習は週3日、各90分という短時間練習ながら、部員が自ら考え、行動する「主体性ラグビー」を実践し、第98回全国高校ラグビー大会に静岡県代表として出場。2018日本ラグビーフットボール協会ジャパンラグビーコーチングアワード「フロンティア」賞受賞。
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