「教える」から「引き出す」へ(下)正解のない問いに挑む「対話型授業」

「対話型鑑賞」で学びの新しい形を広げている、愛媛県美術館学芸員の鈴木有紀さん。「先生方は、私たち学芸員が思いつかないような面白い対話型授業を、どんどんつくっていく」と話す。鈴木さんたちプロジェクトチームが行ってきた「えひめ『対話型授業』プロジェクト」とは、どんなものだったのか。そして、今後も学校現場で継続的に実践していくために、どうすればよいのか――。インタビュー最終回では、4年間の同プロジェクトを通してみえてきた成果や課題を語ってもらった。


プロジェクトの4年間
――「えひめ『対話型授業』プロジェクト」は、どのように進んでいったのでしょうか。

愛媛県美術館では2015年度から4年間、文化庁の支援を受けて、愛媛県総合科学博物館や同歴史文化博物館の学芸員、県内小中学校の先生方、外部専門家との協働で、このプロジェクトをスタートさせました。

愛媛県は東・中・南の3地域に分かれているのですが、1年目は各地域から平均3~4人の先生に参加していただきました。もともと「対話型鑑賞」に興味があって美術館に出入りされていた先生や、そうした先生からの口コミで興味を持ってくれていた先生、私が小学校の事務職員をしていた頃の知り合いの先生、県内の他の博物館から紹介を受けた先生などにお声掛けし、参加していただきました。

8月に行われた教員研修で講師を務めた鈴木さん

それぞれ「対話型鑑賞」に関する知識はバラバラだったので、最初の1年間は「対話型鑑賞とは何か」について一緒に学んでいただきました。研修では鑑賞者の立場、つまり児童生徒側と、ナビゲーターの立場、つまり先生側の両方を経験していただきながら、その考え方の共有を図りました。

2年目はナビゲーター育成に向けた研修を本格的に行いました。1年目にご参加いただいた先生方に、このプロジェクトに興味を持っていそうな周りの先生も誘っていただき、合計40人ほどで進めていきました。

3~4年目は、美術以外の理科や社会、国語などの授業にも転用を図っていただくようにお願いし、他教科・他分野の授業を創造する、実験的授業研究を実施していきました。私たち学芸員が学校で出前授業を行い、先生方と相談を重ねながらトライ&エラーを繰り返し、「対話型授業」を創っていった2年間でした。その中から10の授業事例を集めた「対話型授業」の冊子も作成し、さらなる促進を図っています。

どの単元が「対話型授業」に適しているか
――学芸員がナビゲーターを務めるのと教員が務めるのとでは、どのような違いがあるのでしょうか。

「対話型授業」では、子供たちがどんどん手を挙げて発言してくれます。私たち学芸員や当館のガイド・ボランティアが授業を行っているとき、一番もったいないと感じるのは、普段手を挙げないような子が勇気を振り絞って挙げているのが、すぐには分からないことです。そのクラスや子供たちを理解している先生なら、その場ですぐにその頑張りをみつけられますが、私たちの場合はそれを見逃してしまう可能性があるのです。これは子供の学習意欲を高めるためにも、とても大事なことだと思っています。

また、「対話型授業」が終わった後も、その学びの関心が続いているのかを見届けられるのも先生方です。米国のMoMAの調査事例でも、「対話型鑑賞」を学芸員がするのと担任がするのとを比較した結果、担任がした方が子供たちの学びが高まることが分かっています。

何より、先生は「対話型授業」のコツをつかむと、そこからの理解、展開が早く、発展させていく力も持っています。素晴らしいことで、さすがだと思います。

同プロジェクトでは、県内の小中学校を中心に展開してきましたが、現在は高校の先生の中にも興味を持ってくださる方が出てきています。ある高校の理科の先生は先日、「より良いポスター発表のためのポスターのあり方とは?」と問いを立て、「対話型授業」を行ったそうです。

いろんなポスターを掲示して、生徒がそれを見比べて対話しながら授業は進んでいきました。「このポスターは分かりにくい」「それはどこからそう思う?」「ここの字が詰まり過ぎていて見づらい」などと対話、コミュニケーションを重ねながら、最終的には生徒たちでポスター発表のためのひな形を作り上げたそうです。

こんな面白い授業、私は絶対に思い付きません。これからは「対話型授業」に興味を持ってくれた先生方が、それぞれオリジナルの実践をどんどんつくっていってくださることが、子供たちの学びの充実につながっていくと思います。

――今後、「対話型授業」の学びを継続的に続けていくには、どうすればよいとお考えですか。

「対話型授業」では考えることを主軸としています。たとえ答えが一つであっても、答えを獲得することがゴールなのではなく、そこに到達するために、いかに自分と皆とで対話を積み重ねていくのかが、とても大事です。

この4年間を通して、改めて「対話型授業」が「主体的・対話的で深い学び」の考え方を具現化できるものだと感じましたが、そうは言っても全ての授業を「対話型授業」にするのは難しいと思います。

「えひめ『対話型授業』プロジェクト」の授業事例を集めた冊子やパンフレット

例えば、同プロジェクトの冊子にも掲載されている、エックス線写真を視覚教材に使った小学4年生理科の「対話型授業」は、子供たちが大いに興味を持って取り組むなど素晴らしい実践でしたが、担当した先生が構想から4年がかりで作り上げていったものです。その先生は、教科書の単元の中で、どれが最も「対話型授業」に適しているのかを考え抜いて、この実践をつくられていました。

このように、他教科での授業準備には特に時間がかかります。でも、例えば各教科で1学期に1回行って、それを小学校なら6年間、中学校なら3年間続けていけば、子供たちにとっても先生にとってもかなりの数を積み重ねることが可能です。

毎回新しいことをやる必要はないと思います。最初の授業をつくるには時間が掛かりますが、その先生の「テッパン」をつくって、子供たちと一緒に継続的に実践していただけるとうれしいですね。

取り組む先生の数だけバリエーションも増えていく
――2018年度末で4年間のプロジェクトはいったん終了されていますが、現在はどのような動きがあるのでしょうか。

県の教育センターで研修を継続的に組んでいただける計画があり、今年の8月にも小学校の先生方を中心に研修を行いました。家庭科など、教科ごとに小中高の先生方が自主的に勉強してくださっている動きもあるそうです。

また、松前町立松前小学校では、年間3回、全学年に私や当館のガイド・ボランティアが入って「対話型授業」を実践し、子供たちの変化をみていくという活動も継続して行っています。

4年間のプロジェクトを通じ、先生方には「こういったことに使えます」ということは全て紹介し、お伝えしてきたつもりですが、もちろん今後も各学校や先生から要請があればご支援していきたいと思っています。取り組んでくださる先生の数だけ「対話型授業」のバリエーションも増えていくだろうと、今後の発展を楽しみにしています。

――「対話型授業」を教育現場へ導入していく上で、感じたことを教えてください。

「対話型授業」を実践している愛媛大学教育学部附属小学校の藤野由起子先生が話してくださったことが、とても印象に残っています。

「対話型授業」を行った後の小学3年生の感想なのですが、この授業が好きだという子と、嫌いだという子の両方がいるのだそうです。

「いつかどの子も『対話型授業』を面白いと思ってくれたら」と話す鈴木さん

「対話型授業」が好きだという子は、「友達の話を聞いていると、どんどん考えが自分の中で変わり始めるから、そこが面白い」などと言います。

一方で、嫌いだという子からは「考えを積み重ねなければいけないから嫌い」というような感想が寄せられたそうです。

確かに「対話型授業」は一つの解にたどり着いたら「はい、終わり」ではありません。みて、考えて、話して、聴いての積み重ね、繰り返しだから、多分、子供によっては苦しいことでもあるんだと思うんです。

藤野先生は「どちらの感想も対話型授業の本質をよく分かっていると思います」と話してくださって、私も同感でしたし、うれしくなりました。そして、いつかどの子も「対話型授業」を「面白い」と思ってくれるようになったらいいなと、私は願っています。


【プロフィール】
鈴木有紀(すずき・ゆき) 愛媛県美術館学芸員。1969年、愛媛県生まれ。県内の自然・科学系博物館、歴史系博物館の勤務を経て、2001年より現職。美術館の教育普及を担当し、館内外で「対話型鑑賞」の普及に努める。2013年から県内の小中学校等と連携して教育現場への導入に取り組み、2015年度から4年間、文化庁の補助事業の一環として愛媛県美術館が県内博物館や小中学校、外部専門家と共に実施した「えひめ『対話型授業』プロジェクト」では、美術にとどまらず幅広い教科での活用・応用を推進。対話型鑑賞のさらなる促進に努めている。著書に「教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方」(英治出版)。
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