【ラグビー部にみる部活動の潮流(2)】タイ王立校における部活動と練習時間

静岡聖光学院中学校・高校ラグビー部監督 佐々木 陽平

多様なスポーツ・芸術に触れるタイの王立校

本校は今年度から、タイのVAJIRAVUDH COLLEGE(ワチラーウットカレッジ)王立校と姉妹校締結を行い、交流をスタートしている。同校はキングラマ6世が1910年に創立した学校で、ワチラーウットはキングラマ6世の別名である。イギリスパブリックスクール、特にイートン校をモデルに設立されたタイでも屈指のエリート校である。

ワチラーウットカレッジ王立校との合同練習(佐々木教諭提供)

小学校段階から高校段階までの一貫校で、児童生徒数は約1000人の全寮制男子校だ。小学校段階では3つの寮に、中学・高校段階では6つの寮に分かれて生活をしており、それぞれの寮にハウスマスターがいる。各寮ではハウスマスターを中心とした自治が認められているが、ここでも「fine young gentleman」になることが共通の目標として定められている。

学校生活は非常にユニークであり、起床後すぐに登校し授業。その後、寮にいったん戻って朝食をとり、再登校して授業を受ける。午後は芸術の授業で、アート(絵画、コンピューターグラフィックス)、ミュージックなどに分かれて活動する。

1000人の児童生徒が少人数のグループに分かれて活動するため、非常に多くの講師が存在する。ミュージックでは取り組みたい楽器に分かれて、校内のさまざまな場所で活動をしている。演奏形態や楽器だけでも、オーケストラ、マーチングバンド、スコティッシュバグパイプなど、多種に及ぶ。中には、美しい庭で楽器を演奏している様子もみられる。

芸術の授業の後はスポーツ活動の時間だ。ただし、この時間は部活動ではない。興味深いことに、1年間を4つの期間に分けて、サッカー、バスケットボール、ラグビー、陸上に全員で取り組んでいる。私が訪れた際は、ちょうど全校生徒がラグビーに取り組む期間に当たっていた。

その後、夕食をとり、各寮で自習に励むというのが1日の流れだ。肝心の部活動はといえば、なんと週に1日のみ、土曜日の午前中の3時間だけだという。それにもかかわらず、同校ラグビー部は全国トップクラスの実力を誇り、タイ代表にも多くの卒業生が名を連ねている。

その大きな要因として考えられるのが、前述のスポーツ活動だ。全校生徒で年間約2カ月半、水曜日を除く平日4日間、各90分の練習に取り組むことで競技力が向上しているのだ。

ちなみに本校の部活動は週3回、60~90分で、年間の練習量を合計すると、同校の練習量とほぼ同じ水準になる。

複数のスポーツ・芸術に触れる意義

ところで、日本はスポーツや芸術で、幼少期から一つのことに取り組み続けることが一般的だが、それは果たして子供にとって良いことなのだろうか。同校では少なくとも、年間で4種目のスポーツに親しみ、さらに芸術活動にも日々取り組んでいる。したがって、このような問題提起は起こらない。

姉妹校締結し、交流をスタート(佐々木教諭提供)

それだけでなく、競技力も高く、豊かな芸術的感性も磨かれている。実際、6月下旬にラグビーチームを本校にホームステイで7日間受け入れたが、生徒はそれぞれに楽器を持参し、交流会では素晴らしい演奏を披露してくれた。

芸術とスポーツを満遍なくたしなんでいることも「fine young gentleman」になるために必要なことだろう。

また、週に1日しかない部活動では、大変密度が濃く、計画的に組まれた練習をしているそうだ。もちろん、練習に臨む部員のモチベーションも高い。日本では、外が曇り空だと「今日は休みにならないかな」とつぶやく生徒が多くいると思う。しかし、こちらではそういう後ろ向きな気持ちで練習を欠席することはない。

この学校の取り組みは別の観点からも参考になる。日本の部活動の中でも特にラグビーは深刻な人数不足に悩んでおり、ラグビー部のある学校は年々減少している。また、過疎地の学校では、全ての部活動が競技や演奏に必要な人数を満たしていないという事態に直面していることも、よく耳にする。

この事態を打開するためには、同校の1年をいくつかに区分し、複数のスポーツや文化活動に取り組むという考え方が打開策になるかもしれない。そうすれば、人数不足の問題は解消されるし、顧問の負担もかなり軽減されるだろう。

何より生徒にとっても、さまざまなスポーツや芸術活動に触れられれば、活躍の場が増え、生涯にわたるスポーツや芸術活動と出合うきっかけが増えるかもしれない。また、昨今注目されているSTEAM教育に通ずるものもあるだろう。

日本では幼少期から特定のスポーツを続け、そのまま社会に出るというケースがほとんどだ。それに対して、世界のエリートたちはさまざまなスポーツや芸術ができて当たり前。今後、部活動改革が進む中で、この考え方は参考になるかもしれない。

次回は、世界のクラブ活動について、主体性の面から考えていきたい。


【プロフィール】

佐々木陽平(ささき・ようへい) 1977年、北海道生まれ。北海道羽幌高校ラグビー部監督などを経て、2016年、静岡聖光学院高校ラグビー部監督に就任。練習は週3日、各90分という短時間練習ながら、部員が自ら考え、行動する「主体性ラグビー」を実践し、第98回全国高校ラグビー大会に静岡県代表として出場。2018日本ラグビーフットボール協会ジャパンラグビーコーチングアワード「フロンティア」賞受賞。

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