【内田良×江澤隆輔】 働き方改革の追い風と向かい風

学校の働き方改革を巡る議論は、現場での実践フェーズに移行している。教員の長時間労働がメディアで取り上げられ、保護者や地域の理解も広まりつつある一方、職員室の意識を変えるのは一筋縄ではいかない。現場レベルでの働き方改革は、どうすれば前へ進むのか。この問題の火付け役とも言える内田良名古屋大学准教授と、教員の時短術をまとめた著書がある江澤隆輔・福井県坂井市立春江東小学校教諭が対談し、学校の働き方改革を進める上での論点を探った(全3回)。第1回は、それぞれの立場から、働き方改革がもたらした学校の変化を語り合った。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)


学校に対する風向きが変わった
――学校の働き方改革は、現場での取り組みが進み始めている段階です。早くから問題提起していたお二人の、最初の接点を教えてください。

江澤 内田先生を知ったのは、中学校の教員として部活動の在り方に疑問を持ち始めたころでした。インターネットや本で調べていると、なにやら大学の先生なのに金髪の人がいるなと。実は内田先生は私と同じ福井県の出身。内田先生は福井が生んだ、部活動問題をはじめとする学校リスクの第一人者ですね。

江澤隆輔福井県坂井市立春江東小学校教諭と内田良名古屋大学准教授(右)

内田 江澤先生とは、部活動改革がきっかけで、これまでもいろいろなところで一緒になり、ツイッターでも頻繁に意見交換をしています。江澤先生は現職の教員でありながら、顔と名前を出し、著書を何冊も出しています。働き方改革はときに政治や行政が絡んでくるテーマで、そのような中、実名・顔出しで発言している現職教員は珍しいと思います。

江澤 教員は外に出たがらないですよね。地方の学校は特に保守的で、みんなで一緒にやっていく意識が強い。それは良いことでもあるのですが、一方で教員が個人として発言をしたがらない文化があります。

――今年1月に、働き方改革の中教審答申が出ました。文科省もさまざまな施策を打ち出していますが、どのように評価していますか。

内田 江澤先生と出会った3~4年前、部活動改革で声を上げ始めたわけですが、その当時と比べたら「こんなに変わったのか」と驚くほどに、改革は進みましたよね。

江澤 そうですよね。大きく変わりましたよね。

内田 最初に部活動改革で火が付いて、その後、学校全体の働き方改革に発展していきました。それも、ネット上の愚痴レベルではなくて、中教審が答申を出すまでになったわけで、本当に信じられません。改めて振り返ってみると、信じられないようなことが起きています。

だからこそ、この劇的な変化を生かしていくことがポイントです。1月に答申が出て、4月から各自治体が動き出しました。例えば、名古屋市では、運動会を午前中の半日で終わらせる学校が一気に増えました。それをマスコミが取材するんですが、「なぜ運動会を半日にしたのですか?」と聞くと、学校はどう答えると思いますか。

江澤 「時短のため」ではないんですか。

内田 「暑さ対策」です。つまり、教員の時短や働き方改革のためではなく、子供のために運動会を半日にすると言うのです。教育委員会や学校の言い分はあくまでも「子供のため」で、働き方改革はおまけ程度の理由でしかないんです。

江澤 自治体には、働き方改革を前面に出せない雰囲気があるみたいですね。それはなぜなのでしょうか。堂々と言えるようになれば、いろいろなところが変わると思うんですが。

時短術をまとめた江澤教諭の書籍を紹介する内田准教授

内田 マスコミに「先生が休みたいから」と書かれたら、世間からたたかれると思っているんでしょうね。でも、今はたたく人なんてほとんどいません。例えば、午後6時を過ぎたら留守番電話に切り替わるという学校側の対応が、ツイッター上で大炎上したことがありましたが、それは学校を非難した発言に対して、大多数の人たちが学校を擁護するかたちで炎上しました。今日、学校の周りは大応援団で囲まれているんです。なのに、なぜ隠すのか。教員が実態を隠したら何も変わりません。役所を含め、世の中全体で働き方改革が進んでいるのに、学校が変わっていない。そういう状況を感じますが、実際にどうでしょうか。

江澤 個人的にはどんどん変えていけばいいと思っているのですが、なかなか動かないですね。学校を変える上で軸となるのは、やはり管理職です。校長、教頭、教務主任の三者がタッグを組めば変えられます。

確かに、パワーやコストも必要になりますが、一度変えてしまえばこの先何十年も楽になるんです。ずっとこれまで高いコストを維持し続けてきたのが、学校組織の今ではないでしょうか。一教員が改善しようにも、正直言って焼け石に水、やはりそういった力のある人が先頭に立ってやっていくべきです。

でも、なぜ改革しにくいかを考えたとき、任期の短さが大きな要因になっていると思います。着任して様子見ているうち、そのまま何も変えずに次の人にバトンタッチしてしまう。それを続けているから何も変わらないということもありそうです。

学校の職員室だけが無風状態
――働き方改革を巡る世間の見方が大きく変わった一方で、教員が声を出すのはまだまだ難しい状況があるわけですね。学校の働き方改革における追い風、あるいは向かい風とは一体何でしょうか。
内田准教授は学校の働き方改革について、さまざまなメディアで発信を続けている

内田 追い風の舞台あるいは改革の出発点は、ツイッターをはじめとするSNSでした。なぜなら職員室では、部活動をやりたくない先生、早く帰ろうとする先生は、冷たい目で見られます。「時間やお金に関係なく、遅くまで子供のために尽くすのが先生だ」という考え方が支配的。職員室では、働き方改革の話題が共有されにくい。

そこで、議論は最初にツイッターで盛り上がって、それを知ったマスコミが記事を書いて、行政が重い腰を上げた結果として今があります。この1年くらいで、ようやく文科省や教育委員会、校長など学校のトップが動き始めた。それがどこまで広がるかは、江澤先生のようにどんどん発信する先生が増えるかどうかにかかっていますが、現実にはなかなか厳しいでしょうね。

江澤 学校にはそういう先生がいないですからね。若手が増えてきているので、「江澤先生、ちょっと仕事のやり方で話を聞かせてください」と声を掛けられることはありますが、これまでのやり方を変えること自体に労力を必要と感じる教員も多いです。時間をかけることが熱意であり、時間をかければ良い仕事という意識がある。

でも本当は逆で、短い時間でどれだけ高いパフォーマンスを出すかが大切なんです。授業もそうだし、プリントもそうです。生産性を上げなければいけないんです。

内田 私なりの表現をすると、教員は授業のときだけは「労働者」なんです。つまり、45~50分の時間の中で最大のパフォーマンスを上げるようにやるんだけど、授業が終わった途端、とにかく時間を掛ければいい、たくさんやればいいという「教育者」になってしまう。

本当は授業が終わった後も生産性を意識して、定時までの限られた時間でいかに仕事するかを考えなければならない。なのに、遅くまで学校に残ることが、子供思いの立派な教員であるかのような価値観があります。

――江澤先生から見た、現状の働き方改革の評価はどうなりますか。

江澤 私自身、この4年ほど活動してきて、現場で働いているいろいろな教員が発言してくれるようになったのは、すごくありがたく思っています。全国には何十万人も教員がいるので、浸透させるには大きな力がいるのですが、影響力のある人が動いてくれたり、中教審が動いてくれたりして、感謝しています。ただ、これから先、何をしていくべきかは、私自身、まだ答えが見えてないですね。


【プロフィール】

内田良(うちだ・りょう) 名古屋大学准教授。専門は教育社会学。学校事故や教員の長時間労働について研究・発信を行う。主な著書に『教師のブラック残業』(学陽書房、共著)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)、『ブラック部活動』(東洋館出版社)など。

江澤隆輔(えざわ・りゅうすけ) 福井県坂井市立春江東小学校教諭。英語教員として福井市立灯明寺中学校、あわら市立金津中学校の勤務を経て現職。著書に『教師の働き方を変える時短 5つの原則+40のアイディア』(東洋館出版社)、『学校の時間対効果を見直す!―エビデンスで効果が上がる16の教育事例―』(学事出版)など。

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