英語民間試験の活用(4)新たな動きと有識者の見解

大学入学共通テストの英語民間試験活用を巡り、これまでに国や試験実施団体の対応策、現場や大学教員が指摘する課題などを報じてきた。本特集第3回を掲載した9月24日以降も、文科省や大学、他団体などのさまざまな動きがあり、目が離せない状況になっている。今回はそれら新たな動きに加え、学校と大学の双方を知る立場から「それでも民間試験は導入すべきだ」とする有識者の意見を伝える。


高校でも見解は異なる

全国高等学校長協会(全高長)が9月10日、「地域格差などの問題が解決されないまま民間試験を活用するのは極めて重大な問題だ」として、活用延期と制度の見直しを求める要望書を萩生田光一文科相に提出したことはすでに伝えた。

しかし、高校側でも異なる主張がある。日本私立中学高等学校連合会(中高連)は9月19日、延期反対の姿勢を表明し、萩生田大臣に「大学や試験実施団体に円滑な実施を働き掛けるべきだ」とする要望書を出した。

中高連には全国約2000校の私立中学、高校が加盟する。会長を務める富士見丘中学高校の吉田晋校長は、全高長の要望について「私立学校の意見が反映されていない。今になって中断・延期になれば、かえって大きな混乱を招く」と批判した一方、全高長がもっとも危惧する公平・公正性については触れなかった。

全高長会長を務める東京都立西高校の萩原聡校長は「この問題を巡っては学校による温度差が高く、管理職や英語科の捉え方も異なる。それが問題を複雑にしている」と語る。

各方面から批判

進むも退くも困難な状況だが、萩生田大臣は中高連の要望に「(準備が)進んでいる子を無理やり止めることはできない」と応じた。これに対し反対を訴える声は、学校現場や大学など教育機関だけではなく、民間団体など各方面から上がっている。

体験型英語学習施設で指導に当たる外国人スタッフ

語学教育研究所や高等学校ドイツ語教育研究会のメンバーらで構成された「大学入学共通テストへの民間試験導入に反対する会」は9月24日、導入への反対を呼びかけ署名活動を開始した。

反対理由として「公務員が民間試験のために働くことになる」「外国語は英語だけではない。英語以外の言語を無視、軽視するのは、国際標準規格のCEFR(セファール)が基本理念とする『多様性の積極的受容』に反する」などを挙げ、「民間試験導入で、高校の授業がその対策テクニックを訓練する場に変わる。入試は高校教育の成果を測るものであり、それを測れない試験の導入は、公教育という概念を否定し、内容を変質させる」と強調。

署名の目標は2500人で、10月9日現在で約2300人に達しているといい、近く衆参両院、内閣府、文科省に提出するとしている。

また、先月27日に国会内で開かれた英語民間試験導入についての野党合同ヒアリングでは、文科省が設置した「英語の資格・検定試験とCEFRとの対応関係に関する作業部会」のメンバー8人中5人が、英語民間試験の実施団体の職員だったことを疑問視する声が上がった。

このヒアリングに参加した高校2年生の生徒は政府関係者に対し、「母子家庭で家計が苦しい中、民間試験のための教材購入や受験料など経済的負担がかかることを憂えている。民間試験導入は中止してほしい」と訴えた。

やや強引な手法で

こうした延期を求める声に、文科省は「懸念を解消してスケジュールどおり実施できるよう努める」と述べるにとどめ、10月1日には萩生田大臣が、民間試験の成績を各大学に提供する大学入試センターのシステムの利用は、原則9月末までに民間試験の活用方針を示した大学のみに認めるとした。

個別の事情がある場合も10月10日前後を最終期限とする。活用方針が未定の大学が多いことが、民間試験に対する受験生の不安の一因となっていることを踏まえたとしている。

6月の時点では、成績の提供を受ける場合は20年2月末までにセンターに申し込むよう各大学に求めており、整合性に課題があるほか、9月30日の期限間際である27日付で各大学に知らせたことなど、やや強引とも言える手法となった。

そして今月4日、文科省は、大学入試センターを通じて成績の提供を受けるのが、全国の大学・短大計1068校のうち561校になったと発表した。私立大は約57%にとどまるなど、約半数が活用を見送ることになった。

大学はまちまちな対応

活用しないと表明している私立大には「早慶上智」の一つ、慶応大があり、全学部とも一般方式では民間試験も共通テストも利用せず、個別試験で選抜する方針だとしている。一方、早稲田大は一般方式では政治経済学部などが利用するものの、法学部などは民間試験も共通テストも利用しない。上智大は全種類の民間試験が使える方式のほか、同学が英検協会と共同開発したTEAPのスコアしか使えない方式を設定。同学入学に必要な英語力をより明確に試すとしている。

国公立大は173校のうち148校が利用を表明している。利用しないとしているのは北海道大、東北大、筑波技術大、京都工芸繊維大などで、初年度は全学部で利用しない。東大や京大などは、一定以上の英語力があると所属高校が証明する書面などを提出すれば、民間試験を利用しなくても出願を認める。

また、利用する国公立大でも金沢大や熊本大などは、CEFRの6段階評価に当てはめた際に最も低い中学卒業レベルの「A1」以上を出願資格とした。それを下回っても出願を認める大学や下限を設けない大学もある。

岡山大は、当初の基本方針では「民間試験と共通テストの得点を合わせて評価する」としていたが、「さまざまな課題解決への道筋が不明確だ」として、提出は求めるが合否判定には利用しないと発表した。

こうした状況について、国公立大学を志望する生徒が例年多い公立高校の教諭は「中学卒業レベルを認めるのであれば、国公立大を目指す受験生は全員当てはまる。経済的、心理的負担をかけてまで導入する意義はない」と指摘する。

大手予備校の河合塾は「各大学が示した対応方針にはあまりにもばらつきがあり、併願する受験生への負担が大きくなる」と懸念を示す。

入試センターがやるべきだった

公立高校長を歴任し、現在は東京都教委の特任教授として英語教育の指導的立場にあり、獨協大学でも教鞭(きょうべん)をとる岩崎充益氏は「全国的に反論が生じるのを覚悟で意見を述べる」とした上で、「すでに現場では着実に変わっている。今から引き返すことはできない」と語る。

岩崎氏は英語4技能評価の導入を「『高校教育、大学入試、大学教育』の三位一体改革の一環だ」と説明。「大学入試というものは本来、高校までの学びの成果を大学側が評価し、入学後にさらなる学びへと発展させるためのつなぎ。高校だけで改革をしても、大学入試が変わらないと何も変わらない」と述べる。

一方で、国が進めている導入の仕方については▽公平性の原則に反する▽公教育が私事化する――などの課題を指摘。「本来なら大学入試センターが3~4年かけて、英語4技能評価を取り入れたテストを民間と協力して開発するべきだった。それを大学入試センターが断ったことで、民間試験を使用する方向になった」と指摘。

「米国のSAT研究所を訪問した際、半世紀も前から専任の教授が出題形式や内容について研究し、問題を作成していると知った。それを大学入試センターが今すぐに実施するのは無理だと判断したのは、仕方のないことだ」と語り、「2023年度までは民間試験を活用し、それ以降は大学入試センターが民間のノウハウを生かしながらスピーキングテストを改良するのが理想的だ」と語る。

ただ、高校などが危惧する「学習環境に格差がある」という問題については、「これからはeラーニングなどを活用した個別最適化学習を進めるべき。地方も都市も、学ぶ環境では差がなくなる」と説明。

また、「情報提供に格差がある」という問題についても、「確かにホームページに載っている内容の枠を超えた説明がないが、これからは自分から情報を取りに行く時代。英検などは動画で全て流している」と強調する。

「暗記主義、訳読主義の教授法を守り続けている英語教員は、一刻も早く変わらなければならない。そのためには、現段階では民間試験導入が有効な手段だ」と話し、「痛みは伴うが、英語教育を変えるには進めるほかない」と訴える。

教員が目指すべきは

「英語教員が変わらなければ」という声は、外部機関から聞かれることが多い。例えば、東京都江東区にある体験型英語学習施設TOKYO GLOBAL GATEWAYでは、外国人スタッフから「中高生を引率する英語教員には率先して発話してもらい、生徒のモデルになってほしい」という声が多く上がるという。

教員対象のセミナーで講師を務める芝中学・高校の松坂伸彦教諭

また、スピーキングやライティングの指導に関して教員対象のセミナーで講師を務める芝中学・高校(東京都港区)の松坂伸彦教諭は「教員が『恥をかきたくない』と考えるのは当然だ」とした上で、「それでも生徒の前で英語で話し続けることが、英語の授業を変える」と語る。

自身の授業では、生徒から出されたテーマや話題に沿って自ら英語でスピーチをしていると言い、「『先生はリスクを負ってスピーキングした』という姿勢を示すと、生徒もやらざるを得なくなる。ハードルを下げた上で、発話に慣れさせる工夫が教員に求められている」と話す。

前述の岩崎氏は英語教員に対し、「生徒が英語を話す授業では、教員はロールモデルの役割を果たすのが原則だ。柔軟な思考ができなければならず、旧態依然の受験指導で地位を保ってきた教員は変われない。教員が変わらないと生徒も変われない。結果的にこれからの大学入試に対応できず、生徒が迷惑をこうむる」と訴える。

全国の教員に向け、「各個人の意志や意見を公に表明できる人材を育成できるよう、雰囲気や周囲の空気に翻弄(ほんろう)されることなく、変化に対応していってほしい」とメッセージを送った。

(小松亜由子)