【内田良×江澤隆輔】サスティナブルな学校へ

学校の働き方改革はどこを目指しているのか――。教員の長時間労働の問題を指摘してきた第一人者、内田良名古屋大学准教授と、部活動問題に取り組みつつ同僚と質の高い英語の指導カリキュラムを確立させてきた江澤隆輔・福井県坂井市立春江東小学校教諭による対談。最終回では、サスティナビリティー(持続可能性)をキーワードに、働き方改革によってどのような学校を目指すべきかを議論する。


部活動がきっかけで働き方の問題に気付いた
――お二人はどのようにして、教員の働き方のおかしさに気付いたのでしょうか。

江澤 以前勤めていた中学校ではソフトテニス部の顧問をしていて、放課後の練習に加えて朝、土日も練習するなど、今思えば大変な練習量をこなしていました。私自身、日本一になることを本気で目指していたのです。当時の部員は実力もあって、県内に敵なしと言われるくらいの技術を身に付けました。

当時は「ここを打たれたら、ここを打て」「こう来たら、こうしろ」と、全部がちがちに決めて指導していたのですが、ふと「これって全然違うな」と感じたんです。でも、県内では敵なしで、ブロック大会にも出場するなど好成績を残しました。

それにもかかわらず、卒業して高校に行くと、ほとんどの生徒がソフトテニスを辞めてしまいました。これが本当にショックで、自分は一体何をしていたのかと後悔しました。それで、部活動の指導を考え直すようになったんです。

江澤隆輔教諭(中央)と内田良准教授(右)

すると今度は、英語の授業づくりが楽しくなっていきました。当時、ラッキーなことに英語科の同僚が改革派ばかりで、教材を自分たちでどんどん開発するなどして、部活動よりそっちの方が面白くなっていきました。そうして、どうすれば授業づくりの時間を確保できるかを考えていくうちに、業務の効率化を意識し始めるようになったのです。

内田 生徒がソフトテニスをやめてしまったという江澤さんの体験談は、大学でも同じようなことが当てはまります。名古屋大学にも、全国大会を目指してきたような学生がわずかですが入学してきます。そんな彼らが、大学では部活動に入りません。「サークルは?」とたずねると「いや、もういいです」って答えてくるんです。高校までにすごいスキルを身に付けたのに、大学で続けようとしない。これはもう教育の失敗じゃないですか。どんなに技術を身に付けても、サスティナビリティーが失われているようでは意味がありません。

日本の部活動は、中学校や高校で3年間盛り上がって、終わってしまう。その3年間は感動の物語として成立するのでしょうが、誰もその先にまで思いをはせない。そういうところがすごく残念です。同じようなことは学校の職員室でも起きていて、「遅くまで頑張って、時間やお金に関係なく子供のために尽くす先生」という文化がある。本当は、そうした文化の中で一人、また一人と倒れているのに、「そこまで頑張るのが先生」「子供のことを思ってこその先生」という意識が、その事実を見えなくしてしまっている。そういう文化を蓄積してきた結果、組織のサスティナビリティーが失われているんです。

今年に入って、僕に大きな気付きを与えてくれたのは、教員養成系の学生たちです。彼ら、彼女らが言うには、大学教員は教員志望の学生に対して「教員の長時間労働は確かにあるけど、こんなに魅力のある仕事だよ」と良いところばかりを強調する。これはつまり、マイナスの上にプラスをたくさん積み上げて、合計値でプラスにしようとする発想です。

でも、それをやり続けても、マイナスは減らないですよね。職員室のサスティナビリティーを高めるためには、マイナスの部分を削るだけでいいんです。教職が魅力あふれる仕事であることくらい、みんなわかっているでしょう。それをいまさら強調する必要はありません。マイナスを減らしていくために、マイナスを見える化し、そこに向き合っていくべきです。

サスティナビリティーの観点で見通す
――子供は、必ずしも長時間付き合ってくれたから教員に感謝するわけではないですよね。現状では、そこに認識の錯誤があります。江澤先生のエピソードは、その部分に先生が気付いたということなのだと受け取りました。

内田 まさにそうです。江澤先生の時短の発想は、別に教職の魅力を減らすわけじゃないんです。

江澤 そうですね。でも、よく勘違いされます。「いろいろなことを時短して、子供と接する時間も時短するんでしょう」と。私が時短術の本で言いたかったことは全くの逆。教材研究や学級経営、子供と関わる時間など、本来教員がやるべき仕事にかける時間を増やすために、それ以外の業務にかける時間を減らしていこうということなのです。

内田 そういう批判は、単なるアレルギー反応だと思いますよ。私だって部活動全廃論者だと言われます。そんなこと一言も言ってないんですけどね。日本の学校で部活動がこれだけ盛り上がっているのは、魅力があるからです。その魅力をゼロにするのではなく、ちゃんと残しながら、教員の本務である授業や子供と接する時間を、どう確保するかを考えるべきなのです。

部活動指導から英語の授業作りに時間をかけるようになった江澤教諭

江澤 部活動に疑問を持って以降、授業づくりに時間をかけるようになったら、これが本当に楽しかったんです。自分たちで作った教材を生徒全員が使って、3年間かけて英語力を高めていく。その過程が面白くて、生徒が卒業するときは、大きな感動がありました。

内田 「授業で引きつけられない子供は、部活動で引きつける」と言う先生がいます。分かるような、分からないような話ですが、もしかすると部活動指導に費やしている時間を授業準備に充てることができれば、授業で引きつけることができるかもしれません。

江澤 教科を教える教員組織が、会社みたいにならないとだめです。授業は職人芸みたいなところがあって、教員一人一人が個人商店なんですよね。でもそうじゃなくて、国語科は国語科で一つの会社みたいにまとまって学校を動かしていく。そういう視点がないと、いつまでたっても学力なんて高まらないと思います。

英語の授業づくりに取り組んでいた当時の私たちは、全員が異動した後も、その学校が高い学力を維持し続けられるようにしようという目標を掲げていました。初任者が来てもベテランが来ても、どんな教員が赴任しても「あの学校は英語の学力が高い」と言われるようなシステムを作りたかった。そのための時短だったわけです。

――これから自分たちの現場で、働き方改革の第一走者になろうという人へのアドバイスをお願いします。

江澤 学校にいると忙しくて、明日の授業ですらもままなりません。これが教員の本音です。自転車操業で毎日を過ごしているわけですが、いろんな視点から1年間を見通すことはとても大事だと思います。

校務分掌の視点から、教材研究の視点から、学年・学級経営の視点から1年間、可能であれば3年間を見通す。1年または3年をいろんな視点で見通せるようになれば、おのずとどこを削り、どこを充実させるべきかが分かります。採用から1、2年目のころは難しいかもしれませんが、少しずつできるようになっていくでしょう。

私は英語で、3年間で習う単語と文法を全て書き出し、どれをいつまでに、どうやって生徒に習熟させるかを明確にした教材を作りました。これをやると後が楽で、しかも力を付けることができて、その流れに乗って生徒のモチベーションも高められます。

両者の議論から見いだされた、これからの働き方改革の論点とは

内田 今、世の中が劇的に変わっているからこそ、教員が抱えている課題を堂々と表に出していくべきだと思います。働き方改革がこれだけ大きな社会問題となっている今ならば、みんな受け入れてくれます。マスコミもキャッチしてくれるし行政も動いてくれる。

講演でよく「私たちに何ができるか」と聞かれますが、その答えは、みんなが一つ一つのことを「見える化」して、身近な人に伝えていくことだと思います。そうやって、学校の働き方改革の議論は広がっていったんですからね。そしてこれからは長時間労働の縮減として、運動会を午前中だけにしたとか、家庭訪問をなくしたといったように成功例を共有していくことも大切です。

「やって当たり前」だと、何も変わらない。成功例は、「新しい世界がありうるんだ!」という、明るい未来を指し示してくれるはずです。


【プロフィール】

内田良(うちだ・りょう) 名古屋大学准教授。専門は教育社会学。学校事故や教員の長時間労働について研究・発信を行う。主な著書に『教師のブラック残業』(学陽書房、共著)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)、『ブラック部活動』(東洋館出版社)など。

江澤隆輔(えざわ・りゅうすけ) 福井県坂井市立春江東小学校教諭。英語教員として福井市立灯明寺中学校、あわら市立金津中学校の勤務を経て現職。著書に『教師の働き方を変える時短 5つの原則+40のアイディア』(東洋館出版社)、『学校の時間対効果を見直す!―エビデンスで効果が上がる16の教育事例―』(学事出版)など。

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