「自由度の高い学校」社会のルールが学校のルール

2005年、県内で初めての完全単位制高校としてスタートした宮城県東松島高等学校。
「自由度の高い学校」を作ることで、他の高校を中退した生徒や、中学で不登校だった生徒のセーフティーネットとなることを目指し、その狙いはみごと達成された。制服やチャイムがなく、演劇などの情操教育に力を入れたことなどが、同校の特色だ。初代校長・庄司賢三氏に話を聞く。


制服やチャイムはなし
――「自由度の高い学校」を作るため、校則は最初からなかったそうですね。

「社会のルールが学校のルール」ということを掲げていました。校則が全くないわけではないんですよ。例えばアルバイトをするときは届け出ないといけないし、18歳以上で、どうしても車で通学しないといけない生徒は登録するとか、そういうものはある。だけど、後はほとんど何も言いません。

また制服もありません。三部制で、生徒はいつ来てもいいし、いつ帰ってもいい学校だから、そもそも制服を決める意味がない。どんな髪色や髪型でも、どんな服装をしても構わない。ただ改まった場面、例えば入学式や卒業式はそれらしい服装をするようにと言います。すると生徒たちは気を遣ってスーツを借りてくるなどして、改まった服を着てきます。服装で唯一指定があったのは、体育館シューズだけです。

――おかしな格好で登校してくる生徒はいませんでしたか。

いないんですよ。高校に入って自由になった、というので最初は多少気合が入っていても、いつの間にかなんとなく、おとなしくなっている。誰が注意したわけでもないのに。自主的に判断して行動すると、自然と自分のなかに規制がかかるんでしょうね。

誰かに「こうしなさい」と言われるとムッとすることも、自分で「こうしよう」と思えば腹も立たないんです。

制服があるほうが、明日何を着ていこうと悩まなくて済むのかもしれないけれど、制服がなければないで、性別にかかわりなく、みんなTシャツとジーンズ、みたいな傾向が出てきます。おしゃれをする子は少ないですね。寒くなると上にセーターを着るくらいで。

こんなふうに「社会のルールが学校のルール」とすると、生徒たちはみんな納得するんです。社会的に悪いことをしたら処罰されるのは当たり前だし、犯罪は許されない。それだけで十分なんです。

――チャイムはいつからないのですか。

これも開校時からありません。入学したときからそうだから、みんな習慣がついていて、動きが早いんです。何分から授業、というと、みんなその前に集まっている。先ほどの制服の話と同じで、「こうしなさい」と言われなくても、自分で判断すれば、自分のなかでコントロールできるんです。

「自己表現」という科目を独自に設定
――このような学校をつくることで、中退した生徒や、不登校だった生徒たちが学校に通いやすくなることを、最初から予測されていたわけですね。なぜ、そうなると思われたのでしょう。

だって、何かに飢えているんですよ。そういった子供たちのなかには、何かにすがりたい思いというものがある。その気持ちを受け止めて、「おいで」と言える場所を作ったわけです。

「『おいで』と言える場所を作った」と話す庄司賢三氏

だから実際に人気が集まって、かなり広域から生徒たちが通っていました。震災でJRが動かなくなるまではね(※編集部注 東松島高校はJR仙石線の矢本駅近くにある)。制度上は定時制なので、学区は決まっていませんでしたから、宮城県内各地から生徒が集まって来る。仙台・名取方面からも来ていたし、なかには朝5時起きで通ってくるような生徒もいました。

そうやって自分から進んで、ここを選んで遠くから通ってくる生徒たちは、「自分が変わりたい」という気持ちを持っているわけです。そこでこの学校では、基礎学力をつける授業のほかに、芸術教科を重視した情操教育に取り組みました。また「自己表現」という科目を独自に設定し、表現する力を身に付けるための選択科目をたくさん作りました。

――情操教育が、ここに集まる生徒たちに必要だと考えたのは、なぜでしょうか。

不登校などの背景には、周囲とうまくコミュニケーションが取れない、自分に自信を持てないといった悩みがよくあります。そこで自己を確立し、それをしっかりと表現できるようにして相互理解をしやすくし、また自分に自信をもてるようにしようと考えました。

情操教育の授業では、いろんなことをやっていました。芸術教科は音楽、美術、書道、工芸を積極的に取り入れ、また「自己表現」の科目ではダンス、パントマイム、CG(コンピューターグラフィックス)などもありました。

講師の先生はたくさんいて、例えば工芸の先生は地元の方でした。たまたま学校に窯があったので、そこで焼き物をしたりして、すごくよかった。自分で粘土をこねて、うわぐすりを塗って、ということをする生徒が、他人に暴力を振るったりはしないですよね。

「自己表現」のなかで目玉だったのが、「演劇特別授業」です。これは今でもすごく人気があります。

――演劇の授業ですか。どんなことをするのですか。

毎年夏休み中に、東京のプロ劇団の人たちが5人くらい来てくれて、みんなでお芝居を作り上げるんです。劇団の人が選んだ脚本を5つのパーツに分割して、生徒たちも5つのグループに分け、続けて演じていく。キャストは変わるんだけれど、みんなで一つの芝居を仕上げていく。1週間くらいかけて朝から晩までやるので、それは盛り上がります。そして最終日に発表会をやります。

生徒たちは、そういう情操教育や自己表現をしていくなかで、少しずつ自分に自信をつけていくんですね。だって、ずっと家にひきこもっていた生徒が、突然舞台に立ち、照明のスポットライトを浴びて、せりふを言うんですよ。それは快感です。自分の存在を自分で確認できるんだと思いますね。

そうすると、その後の人生が変わってくるんです。

そんなふうにしていろいろなことを経験していくうちに、「やっぱり自分は意外とイケるかも」と思い始める。そういったことも、この学校の狙いでした。

(クローズアップ取材班)


【プロフィール】

庄司賢三(しょうじ・けんぞう) 1948年、宮城県名取市生まれ。1972年に東北大学文学部を卒業。同年4月、宮城県高等学校国語科教諭として着任。勤務校は岩ヶ崎、塩釜、仙台向山、仙台第三、松山。1998年小牛田農林教頭。2001年仙台第一副校長。2003年矢本校長。2005年東松島校長。2006年塩釜女子校長。2010年尚絅学院中高校長。2017年より名取市増田公民館長。趣味は全国各地の盆踊りめぐり、四国遍路歩き旅。

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