【北欧の教育最前線】一人一人が「グレタさん」

北欧の若者のパワーが熱い。スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが国連でスピーチをして注目を集めているが、北欧では子供や若者が社会に意見を申し立てることは、日常茶飯事だ。むしろ奨励されている。デンマークの生徒会の活動を取り上げて、社会に物申す若者たちの様子を伝える。


授業をもっと面白く! 教員に研修を!

最初に、生徒会による提言を2つ紹介しよう。

デンマークでは若者の理科離れが問題になっているが、生徒たちに言わせれば、それは当然の帰結である。理科の授業は多くの生徒にとって「古びた物理室とコピー用紙」というイメージだからだ。同時に、自然科学は重要な分野であることを認める。

彼らの解決策は、「授業をより現実世界に結び付け、エキサイティングなものにすること」である。もちろん、理科を教える先生たちは、その分野の教育をきちんと受けた教師であるべきだ。

デンマークの国民学校

また、学校における民主主義教育をより強化すべきであるとも主張する。教師は民主主義について説明するだけでなく、自ら民主主義を示し、生徒とともに実践すべきだ。そのためにも、まず生徒会の顧問の教員に対する研修をきちんとしてほしいと要請する。

教員が「たまたま」顧問になった場合、生徒会活動に対する理解が不十分なため、生徒会の自立性や自己成長が妨げられるだけでなく、生徒たちの議論を支配するだけになってしまう場合があるからだ。生徒会組織とデンマーク教員組合は協働して、生徒会顧問教員の研修を行うべきだとしている。

これらは、生徒会の全国組織「デンマークの生徒(DSE)」による提言である。DSEは1960年代に各学校で生徒会が組織されるようになったのを背景に、1969年に全国組織として設立された。さまざまな提言やキャンペーン、全国コンテストや表彰、生徒会メンバーに対する研修などを行う。

生徒会提言が教育を動かす

DSEのウェブサイトでは、身近な学校生活や授業といった「学校ポリティクス」についての政策提言が並ぶ。これらは決して、ごく少数の熱心な生徒によって作り出されているわけではない。DSEのメンバー校は約900校(全国の基礎学校の約半数)であり、全国に支部がある。

提言が社会的に取り上げられ、教員や教育政策を巻き込んだ議論につながることもある。例えば2017年の全国集会では、学校に個室シャワー設置を要請することが決定された。

デンマークの学校では体育の授業のあとにシャワーを浴びることが慣習となっているが、基礎学校の高学年(日本の中学生に相当)では半数弱の生徒しかシャワーを浴びていないこと、一部の生徒がそれを理由に体育を欠席することが問題になっていた。背景には、メディアや広告で「理想的な」身体が強調され、自分の身体に自信を持てない生徒の存在がある。

DSEは、誰もシャワーを浴びることを強制されるべきではないが、他の生徒と一緒に浴びたくない生徒のために、個室シャワー設置は一つの解決策になるのでは、と主張した。

これに対し、デンマーク学校体育協会は「個室シャワーという提案は行き過ぎだ」と反論しつつも、保護者とも議論すべき課題だと認めている。

この問題は、学校における身体や性の教育についての問題にも広がっている。

試される大人

このように、生徒らは生徒会やその全国ネットワークを通して、自分たちの学校生活をよりよくすることに参加している。
デンマークの基礎学校(日本の小中学校に相当)は、民主主義を学ぶ場としての重要な役割が期待されているが、生徒会の活動はそうした価値観を鮮明に浮かび上がらせる。

活動は、自校の中だけにとどまらず、自治体予算を獲得する活動や、他校とつながって全国の学校・教育を改善していく活動にまで広がりがあるのが特徴だ。これは、教育や社会が、生徒たちの自主的で民主的な実践を意味あるものとして位置づけているからに他ならない。

しかし、見てきたとおり、生徒らからの意見は時に大人に「厳しい要求」をつきつける。それらを真摯(しんし)に受け止め、対等に議論し、合意形成につなげられるか。

民主主義の教育を実践するとき、本当に試されるのは大人たちなのかもしれない。

(佐藤裕紀=さとう・ひろき、新潟医療福祉大学健康科学部講師。専門は比較教育学、生涯学習論。中田麗子=なかた・れいこ、東京大学大学院教育学研究科特任研究員。専門は比較教育学)

 

この連載の一覧