【仮想の学校】大人に憧れる子供を育む

石川県に面白い学校がある。仮想の学校「平和町高校」。国公私立や学力差、年齢差などの垣根を越えて、県内中心に各地から教員や生徒らが集まり、教科横断型、地域連携、産学連携による学習を展開している。発起人は、元高校教師で学校・教員コンサルタントの前田健志氏。アクティブラーニングの手法を取り入れ、5教科横断で理想のコンビニについて考えるなど、ユニークな授業を展開する同校の取り組みを中心に、前田氏に話を聞いた。(全3回)


元教師が開校した仮想の学校
――前田先生は現在、コンサルタントとして教育現場に携わっているんですよね。

香川県の私立高校で教職人生をスタートさせ、13年目の今年3月、教員を退職しました。4月には、「楽しい学校・教員コンサルタントsecond」を立ち上げ、先生たちのいろんな「やりたい」を引き出して実現したり、楽しく実践的な学びのつくり方についてアドバイスや研修・講演を全国の学校や教育関係者にしたりしています。

13年間の教員生活に区切りをつけ、平和町高校を開校した前田氏

また、学校の垣根を越えた「楽しく有機的で実践的な学び」の企画・コーディネートにも力を入れています。今年3月には学校や教科の枠を超えて教員や生徒が集う仮想の学校「平和町高校」を開校し、金沢市平和町の地域を巻き込んだ活動を展開しています。

――仮想の学校とは面白いですね。

平和町高校は、県内を中心に有志の教員・教育関係者と生徒が集まる仮想の学校です。学校も学年も国公私立の区分も、教師の担当教科もバラバラの人たちの集まり。あえて生徒の学力差も制限を設けていません。そんな仲間が主に休日を使って、楽しく勉強会や授業を実践しています。

授業の中身をざっくり言うと、生徒の「どうしてこんな勉強をするの?」「学校の勉強は何の役に立つの?」という率直な問いに真正面から向き合うものです。一つのテーマを掲げ、社会や地域の課題解決を教科横断型授業で考えていくスタイルで、各教科間の学びがつながっていることや、社会と関連していることを高校生に実感してもらうのが狙いです。

教科横断で「コンビニを科学する」
――具体的にどのような授業を展開しているのでしょうか。

例えば、昨年3月に実施した初回授業では「コンビニを科学する」をテーマに掲げ、実在するコンビニをもとに「経営が持続可能で、かつ利益が最大化し、客も存続し続けてほしいと思うコンビニ」について考えました。国語・社会・数学・理科・英語の教員が各20分ずつ授業を行い、その後グループごとにディスカッションして、アイデアを発表。コンビニの方に実際に提案し、部分的に採用していただいたアイデアもあるんですよ。

平和町高校の授業風景(前田氏提供)

私が担当する社会科では、コンビニの商品の価値は何で決まるのかについて考えました。生徒からは「価格が同じなら、味やおいしさなど中身で決まる」といった回答が多く挙がりました。そこで市販のお茶のブラインドテスト(銘柄を隠して意見を聞くテスト)を実施。するとほとんどの生徒が商品名を一つも当てられなかったんです。その実体験を踏まえ、パッケージや宣伝手法も売り上げに大きな影響を与える要素だと考え、授業を展開していきました。

英語科では平和町に外国人が増加していることを受け、海外の人に受けるコンビニを考察。海外のコンビニの店構えや店内の写真を見て、日本のコンビニとの違いを考えました。国語科では俳句やネットニュースの見出しをヒントに、売れる商品が持つキャッチコピーの法則を取り上げました。

また、数学では商品の効率的な棚の陳列方法をデータ分析したり、理科では人間の目の構造を考察し効果的なコンビニのレイアウトを考えたりしました。

生徒も教師も生き生きする授業
――各教科の特性をうまく生かした、面白そうな授業ですね。

各教科の学びがつながっていることや、学校での学びが社会とつながっていることが実感できると、生徒たちは生き生きと学び始めますし、学びの質も高まります。

また、企画段階の先生たちも、本当に楽しそうです。一つの授業をするまでに何度も集まって意見交換をしましたが、みんなアイデアがポンポン出てきて、やりたいことだらけといった感じでした。学校も担当教科も、年代も違う教師が集まって語り尽くすので、今までの教材研究や勉強会では得られない刺激があるようです。

3月の第1回から8月現在まで、メンバーやテーマを入れ替えながら3回開催しました。今も5つのプロジェクトが動いていて、年度内に4つは実践する予定です。「教室」「金沢市の未来」「平和」といったテーマを複数教科の視点から思考し、生徒はもちろん、教師自身も学びを深めています。

生徒に「大人になりたいと」思わせたい
――そもそも前田先生が教職を志したきっかけは何だったのでしょうか。

高校教師である父がきっかけです。父親は障害があり、左足が右足の半分くらいの太さしかなく、特徴的な外見をしています。その見た目から学校でも生徒から心ない言葉を掛けられたり、からかわれたりしていました。多くは語りませんが、傷つけられることも多かったはずです。

私も子供ながらに「なぜ父は人前に出る職業である教師になったのか」と不思議に思っていました。

ある日、その質問を父にぶつけてみると「傷つくことや残酷なことはたくさんある。それでも人間が、子供たちが好きだから」と答えてくれました。

「大人になりたいと思う子供を増やしたい」と強調する前田氏

私は中学高校と学校も教師も勉強も大嫌いで、反抗ばかりしていました。「教師なんて自分のことしか考えてないし、目が死んでいる。そもそもこの世の中に、目が輝いて面白そうに生きている大人なんてほとんどいない。この社会は終わっている」と、いつも悶々(もんもん)としていました。

でも、父の言葉を聞いて、反抗する手段を変えてみようと思い立ったんです。

大人や社会が嫌だと思うなら、自分が楽しめるように変えてしまえばいい。当時の私はきっと「大人になりたい」と思わせてくれる存在がほしかったのでしょう。目をキラキラ輝かせて、周りを巻き込んで楽しそうに生きている大人にもっと触れたい。

だったら自分でやってみよう、「大人になりたい」と思う子供が増えたら、私自身も楽しいし、もっと面白い世界になるだろう…。そう思い立ち、教職を目指しました。

教師という職業を志したというより、面白い世界を作るための手段として教師を選んだという感じですかね。

(板井海奈)


【プロフィール】

前田健志(まえだ・たけし) 肩書は「楽しい学校・教員コンサルタントSecond事業主」「金沢大学附属高校カリキュラムアドバイザー」「富山国際大学付属高校コンサルタント」「ベネッセ次世代教育アドバイザー」など。

教員歴13年。香川県私立学校で教諭生活をスタートし、2010年4月から金沢大学附属高校に赴任。在職9年間でSGHプログラムなどの探求的な学びの設計・開発・実施や、財政プログラムを用いた生徒会改革、自主的な活動を促進するスコラの創設、校務分掌を横断する研究企画部の立ち上げ、大職員室改革など学校改革を推進。また、アクティブラーニングやコア・カリキュラム、主権者教育などの実践でも各種メディアで取り上げられ、各種研修会の講師なども務めている。金沢大学でも教員養成の講座を受け持ち、多くの教員を輩出。

2019年4月より外部から学校や教員をサポートする事業「楽しい学校・教員コンサルタントsecond」を石川県金沢市平和町で立ち上げた。今までの学校の良さを残しつつ、全国の先生たちの「やりたい」を引き出し、つなぎ、実現して、子供も先生も楽しく学びあえる環境づくりに邁進(まいしん)している。

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