神戸市「教員いじめ」は氷山の一角か

神戸市立小学校で教員による男性教諭へのいじめ・暴力が発覚し、全国で驚きの声が広がっている。一方、現場教員らからは「程度の差はあるが、特異な出来事ではない」との声も聞こえてくる。実態は果たしてどうなのか――。

本特集では、弊紙電子版「Edubate」の読者投票の結果や幅広い関係者への取材を通じ、職員室の現状と、事件の背景に潜む本質的な課題に迫る。


8割が被害を受けたり、見聞きしたりしている

10月10日に弊紙電子版「Edubate」の読者投票で、「教員同士のいじめやハラスメント行為を見聞きしたり、実際に被害を受けたりした経験は?」と尋ねたところ、350人の投票があった。そのうち「どちらもない」との回答は2割にとどまり、多くの学校で教員同士のいじめなどが起きている現状が浮き彫りとなった。

自身が被害を受けたとする回答は、半数を超える55%に上り、具体的な被害内容を伝えるコメントも多数寄せられた。

中には、「『アホ』『クズ』『使えない』などの暴言を吐かれるなどのパワハラを1年間受け続けた」上に、「(それらは)まだ甘い方で、さらに悲惨なパワハラを受けた教諭が数名いる」「机の上に置いてあった本が破られるなど、からかいの域を逸脱している行為が度々あった」など、看過できないものもあった。

また、「校長先生からのパワハラが横行し、扱いの差に教員が嫌な思いをしているが、現場対応に追われ、対策はできていない」「(ハラスメント行為を)管理職に相談するも、『好かれているのでは』と言われ、がくぜんとした」と管理職の対応を問題視する声や、「教委と地域のマスコミとの関わりが強いのか、報道で取り上げられなかった」と自治体の問題に言及する意見もあった。

管理職・自治体の問題

今回、直接取材した教員らはいずれも、管理職や組織、自治体の問題を指摘していた。公立小学校に勤務する30代の男性教諭は、主任教諭になった途端に新たな業務を校長から次々に命じられ、少しでも手落ちがあると他の教員がいる前で「給料泥棒」「生きる資格がない」などと罵倒され続けたという。その結果、適応障害や睡眠障害、自律神経失調症を発症し、病休に追い込まれてしまった。

半年間の休職を経て、症状が回復した男性教諭は、復帰訓練を受けることになった。自治体のガイドラインでは、訓練場所は「医療施設」「元の職場」のいずれかとなっているが、男性教諭は不本意ながらも「元の職場」に戻され、プログラムは校長が決めることとなった。

さらには、健康相談員との面談にまで、校長が同席することになった。それまで、校長のパワハラについて相談を重ねてきた男性教諭は、「なぜ、自治体は校長の同席を認めたのか。訴えることさえ封じられた」と語る。男性教諭は現在、そうした悩みを抱えながら復帰訓練中で、校長のパワハラにおびえながら過ごす日々が続いているという。

パワハラによるうつは労災だ。同じ公務員でも行政機関であれば配置転換を願い出ることができるが、学校の教職員は元の職場に戻されるのが基本原則となっている。しかし、それがあだとなって、最悪の事態を招いてしまうケースも少なくない。

東京都の東久留米市では、学校給食職員だった男性が職場のストレスで約2年休職した後、2013年5月から元の職場で復職訓練を受けることとなった。「回復の兆しが見える」と主治医が判断しての措置だった。しかし訓練開始2カ月後、男性が上司に呼び出され、「学校にはお前のことをよく思っていない人が大勢いる」「お前の行くところはない」などの言葉を投げ掛けられたことで、状況は一転してしまった。

男性は自殺しようとしたが妻に止められ、翌日、妻の勧めで保健師に相談。保健師は上司の発言をパワハラと判断し、市の職員課に通告した。1週間後には、主治医が「急激に症状が悪化している」と市に連絡も入れた。

にもかかわらず市側は何の対応もせず、男性は翌月初めに自ら命を絶ってしまった。主治医は上司が男性に投げ掛けた言葉について、「自死との関連は大いにある。自死に向けてのアクセルになったと思われる」との見解を示している。元の職場での復帰訓練が男性に強いストレスを与えた上に、自治体による救済も得られず、最悪の事態に至った事例と言える。

この事例では、市側に安全配慮義務違反があったとして、男性の妻が5900万円の損害賠償を求めて東京地裁立川支部に裁判を起こし、16年12月に和解が成立した。和解内容には、遺族に1500万円を支払うこと、精神疾患で休職した職員に対し、復職支援態勢を改善することなどが盛り込まれた。

心療内科受診の主な理由

神戸市立小学校で発覚した教員によるいじめ・暴力を巡り、一部報道では「学校にはモンスター・ペアレンツへの対応や学級崩壊・授業崩壊の問題があり、抱えたストレスのはけ口が教員同士のいじめへと発展したのでは」などとする見方もある。しかし、現場教員の声や各種データを分析する限り、そうした指摘が的を射ているとは言い難い。

九州中央病院の十川博医師が示した教員1422人の心療内科受診理由

例えば、18年7月に九州中央病院メンタルヘルスセンターの十川博医師が中教審「学校における働き方改革特別部会」で示した報告によれば、同病院の心療内科を受診した教員1422人の受診理由やストレスの要因で最も多いのは「上司との関係」で260人、次いで「同僚との関係」240人となっている。

「保護者への対応」を受診理由とした教員は「上司との関係」の約半数に過ぎず、「子供の指導上の問題」はそれをさらに下回る。十川医師は「何らかのトラブルが発生した際に、対応する管理職や同僚のサポートに問題があり、それが発症につながっている」と分析している。

確かに、子供や保護者との関わりで問題を抱えていても、担任団・分掌主任など同僚教員から適切な支援を受けられれば、精神的な負担は軽くなることが多い。他の教員からのハラスメント行為も、管理職の対応が適切であれば、事態の深刻化は防げる。一方、そうした支援がないと、教員は二重に苦しむことになる。

ある公立高校の30代の男性教諭は、顧問をしている吹奏楽部の保護者から「週7日、毎日活動してほしい」「上達しない部員はやめさせるべきだ」と強く要求されるなどして、対応に苦慮していたという。共に同部の顧問を務める先輩教員に相談したものの、「クレーム処理は若者の仕事だ」と言われ、生徒指導主任に相談しても「部活動のことは顧問に任せる」と突き放されてしまった。

やがてその保護者は、校長に直接苦情を申し立てた。「教委に訴える」という、そのけんまくに圧倒された校長は苦情を全面的に受け入れ、男性教諭について「指導力のない教員だ」と保護者に伝えたほか、「生徒や保護者への対応については日頃から厳しく言っているが、一向に良くならない」などと虚偽の説明をしたという。

男性教諭はうつになり、数カ月の休職に追い込まれた。復帰して約2年がたつ今、当時を振り返って「校長が言うように『指導力のない教員』なのだとすれば、その教員に部活動を一任している状況は監督責任の放棄だ。他の教員は多忙を理由に関わろうとしなかったが、そういう教員ほど仕事を他人に押し付け、定時で帰っている」と語る。

「とんでもない仕返し」が怖い

今年1月に都内で開かれた働き方改革に関する教員の会合で、こんなやりとりがあった。進行役が「これほど忙しいのに、なぜ現場は変わらないのか」と参加者に水を向ける。すると、ある教員が「足を引っ張る教員がいるから」と口を開いた。

「同じ学校に長年勤め続けている教員が『新しいやり方は受け入れない』という姿勢を見せると、取り巻きの教員が賛同し、結局誰も逆らえない。そして、そういう教員が職員室や教科準備室などで無駄話をするのを横目に、他の教員は仕事に追われて、ますます多忙になる」と続けると、全員が大きくうなずいた。

弊紙電子版「Edubate」にも、「1人を中心に年配の女性教諭が大きな派閥を作っており、誰も逆らえなかった。告発しようものなら、とんでもない仕返しが待っていたはずだ」とのコメントが寄せられ、学校特有の人間関係が職場環境に影響している様子が読み取れる。

メンタルヘルス不調が起きやすい学校とは

同僚教員からストレスを受けやすい学校という点で、特徴はあるのだろうか。

公立学校の教職員を対象にストレスチェックを実施する団体の関係者は「新設校など新しい学校の方が、同僚からのストレスを感じる傾向が低いようだ。校種別では、平均勤務時間が長い中学校よりも、それほど長くないとされる特別支援学校の方が、同僚からストレスを感じている教員が多い」と分析する。

特別支援学校におけるストレス要因については、「複数担任制やティーム・ティーチングなど、他の教員と共に動かざるを得ないため、ストレスを感じやすいのかもしれない」とみている。

公立学校で実施されるストレスチェック分析シートの例

同団体が実施する調査結果によると、教員全体としては「働きがい」「技能の活用度」「仕事や生活の満足度」で他の職種と比べて顕著に数値が高く、仕事そのものに対するやりがいや充実を感じている人は多いことが分かる。一方で、「上司からの支援」「同僚からの支援」を測る項目では、男女共に全体平均を大きく下回っており、職場のぎくしゃくした人間関係がメンタルヘルスに影響を及ぼしている可能性がうかがえる。

同団体の関係者は、教員特有の「責任感の強さ」が、受診を遅らせている点を指摘し、「中教審『学校における働き方改革特別部会』などでも、精神疾患により休職した教員の67%が、病休を取る直前まで心療内科を受診していなかったという調査結果が示されている。自身の心の不調に目を向けることが重要だ」と語る。

具体的には、▽夜中に目が覚めやすくなった▽保護者に連絡するのが面倒になってきた▽テストの採点ミスが増えた▽職員室の自分の机が散らかってきた▽教育に関する本や雑誌などを読まなくなった――などの自覚があったら、専門医への相談を考えてほしいと話す。

職場を離れて話せる「外部相談窓口」

岐阜県教委では教職員向けに、岐阜市内の法律事務所に業務委託をする形で「外部相談窓口」を設置している。管理職や同僚からのハラスメント行為に関する相談は、18年度は3件、今年度は9月末時点で4件あったという。

同県教委がこの窓口を設けたのは、13年に当時24歳だった特別支援学校の男性講師が、他の教員による叱責などを苦に自殺したのを受けてのことだ。

男性講師は12年4月に講師に採用され、高等部の生徒の進路支援を担当していた。過重業務で勤務時間が増え、13年5月に指導担当教諭から電話で叱責(しっせき)された後、橋から川に飛び降り亡くなった。

同県教委は18年1月、関係教員ら11人を懲戒処分とし、元校長ら退職者3人を懲戒処分相当とした。同年8月には、遺族に対し県が約8000万円を支払うことで和解が成立している。

外部に相談窓口を設ける意義について、業務を委託された寺本和佳子弁護士は「内部と違い、相談がうやむやにならない。状況が改善される余地が大きい」と話す。具体的な相談内容としては「威圧的な言葉や態度を受けた」「職員室など他の教員がいる前で、大声で叱責された」「年休の申請希望をとがめられた」などが寄せられているという。

県教委教育管理課では「管理職や同僚、教委に相談しにくいことでも相談でき、職場の人間関係を離れて話せる」と、今後のさらなる活用に期待を寄せる。いじめなどに苦しむ児童生徒への対応と同様、安心して誰かに助けを求める場をつくることが、いじめやハラスメント行為に悩む教職員を救うためには重要だとしている。

(小松亜由子)