【仮想の学校】生徒の価値観を揺さぶれ

金沢大学附属高校の元教諭であり、現在は学校・教員コンサルタントとして活動する前田健志氏。学校の枠を超えて教師や生徒、地域を巻き込んだ仮想の高校「平和町高校」の発起人として、学校教育の在り方に新たな提案を続けている。インタビューの第2回では「面白い社会をつくるために教師になった」と語る前田氏に、子供との向き合い方や、子供たちが夢中になれる授業のつくり方を聞いた。(全3回)


「玉の興」をテーマに議論
――現職教員時代はどんな先生だったんですか。

生徒からは「先生と話していると楽しいけど疲れる」と言われていました。授業でも、普段の会話でも、生徒と接するときは「今まで感じたことがないくらい思考や価値観を揺さぶってやろう」と意識していたからでしょう。

教え子の話題になると笑顔になる前田氏

例えばクラスの女子生徒が「玉の輿(こし)に乗りたい」って言うとするじゃないですか。多くの先生は聞き流すと思いますが、私は「玉の輿に乗るためには、どうすればいいのか考えてみようぜ」と投げ掛けます。すると生徒からは、次々と意見が出てきます。「すさまじくアクティブに動いて出合いを探さなきゃ」「容姿を磨かなきゃ」「付き合えたとしても、ずっと一緒にいてもらうにはどうすればいいのか」…。

――どんどん思考が深まっていく。

すると、玉の輿は楽にお金が得られるイメージだったはずなのに、実は険しい道のりだと分かる。「じゃあ、お金を稼ぐってどうすればいいんだろうね」と投げ掛け、次のステージでまた一緒に考えるんです。

――玉の輿からこんなに議論が発展するんですね。生徒の感情を揺さぶる問い掛けは、授業でも生きていたんですか。

私が担当する公民の授業で、生徒たちはよく「平和がいい」と発言します。でも、そもそも「平和」の定義って言語化できるでしょうか。そこで生徒たちに「平和ってどんな状態だろう?」「戦争がなければ平和なの?」「じゃあ、戦争がゼロでも、銃やミサイルを突き付けあっているのはどう?」などと、正解のない問いを投げ掛け、どんどん思考を深めていきます。

あえて完結しない授業を
――授業中、生徒たちの思考をフル回転させようとするのですね。

できていたかどうかはわかりませんが、心掛けてはいました。生徒一人一人の思考する力を可視化するために、授業では「リアクションペーパー」というアイテムを活用していました。生徒が授業ごとに、感想や印象深かったことを書く、A6サイズの小さな紙です。私が一枚一枚目を通し、気になる部分や掘り下げたい部分には赤字でコメントした上で返却していました。ペーパーは各生徒ともファイリングするので、自身の思考の移ろいをいつでも確認できます。

授業で自分が何を思考してきたのか可視化できますし、学期を終えるごとに振り返れば生徒たちは自身の成長も実感できます。

――そうすることで、思考する癖が身に付きますね。

このような環境下で継続していると、授業が終わった後も学びが深まる学級になっていきます。授業で抱いた疑問や感想が、休み時間やホームルーム、LINE上でも自然と話題に上がり、また違った角度から議論が展開されるのです。

教壇に立つ前田氏(前田氏提供)

授業は授業内で完結させるべきだと考えがちですが、ここで言う「完結させたい」のは誰なのでしょうか。大人の事情ではないでしょうか。

よく「子供を主語に」と言われます。そう思うのならば、彼らが本当に受けたいと思う、ワクワクする授業とは何なのかという視点から、考え始めてほしいのです。

私が思う理想の授業は、子供たちが「今日こんなことを学んで、こう考えた」と休み時間や放課後に友達に話したり、夕食をとりながら家族に話したりできる授業、継続した学びや刺激を与える授業です。

主体的であれば楽しい学び
――児童生徒が楽しめ、意欲的に取り組める学びを展開できているのか、確信が持てない現場の教師も多いと聞きます。

一つの物差しとなるのは、生徒が主体的であるかどうかでしょう。それが全ての授業、学びの原点です。研修会でも先生方に「主体的で楽しくない学びってありますか?」と、よく問い掛けます。

主体的とは、子供たちが自身の興味や意欲で能動的に動いている状態のこと。楽しくないわけがありません。

もちろん、怒りや悔しさが原動力となる場合があるかもしれません。ただ、そうした感情も「現状を何とかしたい」と考え、より良い未来を描く希望に向かっているわけで、私はそれも楽しい学びだと思います。

その授業で対価をもらえるか
――前田先生は子供たちと向き合うにあたって、「楽しい」や「面白い」がキーワードとなっているんですね。

私自身、中高生時代は学校も授業もつまらなくて、大嫌いでした。だから当時の私が「受けてみたい」「面白い」と思える授業とはどんなものだろうと考え、試行錯誤を繰り返してきました。

教員時代は「対価に見合う授業ができているか」自問自答していたという

例えば、多くの人が面白いと感じるドラマや映画は、どうして人を引きつけるのでしょうか。先が読めない、どんでん返しがある…。自分の価値観になかったものが目の前に出てきて、私たちの心や脳に刺激を与えるからだと思うんです。

自分は教育のプロとしてお金をもらうに値する学びをプロデュースできているのか、子供たちに刺激を与えられているのか、現職教員時代から常に自問自答してきました。

――対価に見合うだけの仕事ができているのかということでしょうか。

そう常に問うて、子供たちに接するのが大事です。以前、民間で勤務する弟に「教師は何の対価としてお金をもらっているんだ?」と聞かれたことがありました。

確かに教育の分野は、一般企業と比べて成果が見えづらいですよね。営業利益のように、実績を数値化できるものでもない。教え子たちが巣立ち、社会に出て活躍し始めてから初めて見えてくるものです。

だからこそ、仕事の成果についての物差しを定めづらい部分がある。教師としての自分を見失わないためにも、常に自分の中で「これは子供たちのための学びになっているか」「これは本当に子供たちの将来につながっているか」と問い、目的を明確化しておくことが大切です。よく手段が目的化してしまいがちですからね。

(板井海奈)


【プロフィール】

前田健志(まえだ・たけし) 肩書は「楽しい学校・教員コンサルタントSecond事業主」「金沢大学附属高校カリキュラムアドバイザー」「富山国際大学付属高校コンサルタント」「ベネッセ次世代教育アドバイザー」など。

教員歴13年。香川県私立学校で教諭生活をスタートし、2010年4月から金沢大学附属高校に赴任。在職9年間でSGHプログラムなどの探求的な学びの設計・開発・実施や、財政プログラムを用いた生徒会改革、自主的な活動を促進するスコラの創設、校務分掌を横断する研究企画部の立ち上げ、大職員室改革など学校改革を推進。また、アクティブラーニングやコア・カリキュラム、主権者教育などの実践でも各種メディアで取り上げられ、各種研修会の講師なども務めている。金沢大学でも教員養成の講座を受け持ち、多くの教員を輩出。

2019年4月より外部から学校や教員をサポートする事業「楽しい学校・教員コンサルタントsecond」を石川県金沢市平和町で立ち上げた。今までの学校の良さを残しつつ、全国の先生たちの「やりたい」を引き出し、つなぎ、実現して、子供も先生も楽しく学びあえる環境づくりに邁進(まいしん)している。

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