【仮想の学校】授業は仲間づくり

元高校教師で、現在は教育コンサルタントとして全国の学校現場を飛び回る前田健志氏。教壇から距離を置く道を選んだ理由について、「目の前にいる所属校の子供たちの幸せを願うだけでいいのだろうかと思ったから」と明かす。そんな前田氏の働き方をヒントに、インタビューの最終回では「教師」という職業の働き方や使命を読み解く。(全3回)


独り善がりでは楽しくない
――徹底的に「生徒ファースト」で物事を進めている前田先生ですが、現職教員時代、他の先生からすんなりと理解は得られましたか。

先輩や同僚には恵まれていましたが、新人時代から管理職や先輩に物申す生意気な教員だったと思います。特に若い頃は、「楽しい学校」をつくりたいという熱意が先走り、独り善がりな部分もありました。

おかしいと思ったらどんどん声に出して指摘し、私のモチベーションに付いて来られない先生には時に強い口調で意見していました。一人で仕事を抱えすぎて、自身もパンク寸前まで追い込まれているのに、「俺は何でもできる」と思い上がっていました。正直に言えば、そのせいで心身のバランスを崩してしまったこともあります。

――今ではかつての所属校だけでなく、全国の先生を巻き込んでいろんな取り組みを展開しています。どのようなきっかけがあったのでしょうか。

経験を積むごとに、敵意を持っても何も始まらないと気付いたんです。たとえ相手が私のとっぴなやり方に不信感を抱いていたとしても、私がそれに反発したところで楽しい学校はつくれないのだ、と意識が変わりました。そう思えるようになったのは、理解のある先輩や同僚との出会いや対話のおかげです。

新人時代を振り返る前田氏

それからは、どうやったら先生の士気が高まるだろうと視点を変えました。ソフトボール大会など先生同士のレクリエーションを企画して盛り上げたり、飲み会を積極的に開催したりして、職員室から少し距離を置いた場所で先生同士が対話する機会を増やしました。

すると、お互いが抱いていた誤解が簡単に解け、面白いように仕事の話もスムーズに進むようになりました。

学校の中で協力してくれる先生も増えて、学校改革もどんどん進みました。朝礼さえ嫌がっていた先生が自らコミュニケーションを取るようになり、学校のさまざまな慣習を変えて、より楽しく学びあえる環境を作ることができました。

目の前の子供の幸せだけではだめ
――そんな学校現場を少し離れ、今はコンサルティングをしています。狙いを教えてください。

私が教師を志したのは、楽しい、面白い社会をつくりたいから。そう考えると、所属校の子供たち、目の前の子供たちの幸せだけを願う今の形でいいのだろうかと思ったんです。

私自身、授業をするのが好きです。子供たちはやっぱりかわいい。個人の願望を優先するのであれば、子供たちのそばを離れたくなかったというのが正直な気持ちです。

ただ、本来の目的を実現させるためには、先生たちの「やりたい」を引き出して、子供たちが楽しく学びあって「大人になりたい」と思える環境を、もっと多くの学校に広げなければいけないと考えたのです。

グローバル人材とは誰のこと?
――教師向けの講演や研修では、どのようなことを話されているのですか。

主体的に思考して行動できる生徒を育むためには、教師自身が思考できなければなりません。ですから、思考することの大切さについてはよく触れます。

例えば、多くの方々が当たり前のように「グローバル人材の育成」と発言しているのに、自分自身違和感を覚えていました。そこで先日、国際教育系の研究会の講演で、「グローバル人材って誰のことですか?」と参加者の方々に質問しました。

そのときは「宇多田ヒカル」や「大谷翔平」、「紫式部」といった回答が挙がってきました。

次に、なぜそうした人物を挙げたのか、理由を発言してもらいました。

皆さんの発言で共通していたのは「壁を壁だと思わない人」でした。つまり、言語や文化、価値観の違いを壁だと思わず、それを乗り越えられる人材こそが、みんなが無意識に言い表している「グローバル人材」だったのです。

どうでしょうか。「グローバル人材」という抽象的な言葉が、ぐっと分かりやすくなりましたよね。そうしたプロセスを経て「グローバル人材を育むためには」と議論を広げれば、より具体的で、現実的な意見を交わすことができ、行動にもつながってきます。

――前田先生はいい意味で学校の先生らしくなく、誰とでも自然に向き合っているように感じます。

見た目はおっさんですけど、中身は15歳のままだとよく言われます。

「先生」と呼ばれるのもあまり好きじゃない。子供たちに対して「教える」って感覚はありません。授業をしているときも、私自身が一番生徒から学んでいます。一緒に楽しく学び合うって感じですね。楽しい学び合いが起こるような環境設計が、一番しっくりくる言葉かもしれません。

私にとって授業や教育活動は、「面白い社会をつくるための仲間づくり」の一環ですから。

所属校を飛び出してみる
――すてきな考え方ですね。とはいえ、今の学校現場は課題が山積し、理想と現実のギャップに疲弊している教師も多いのではないでしょうか。

先日カフェで、たまたま後ろに並んでいた2人が中学校の先生でした。会話の内容が聞こえてきたのですが、どこの学校の教師も同じような不満を抱えているんだな、と改めて思いました。

平和町高校の生徒らと盛り上げた地域イベントで使ったTシャツ

そんな先生に提案したいのは、所属校を飛び出してみることです。辞めろと言っているわけではありません。所属校の教員である前に、私たちは全ての子供にとっての教育者ですし、社会人です。所属校の外にコミュニティーを持つんです。

私も現職教員時代、思い悩むことが多かったのですが、出張先や勉強会に行く機会を増やし、所属校の外に目を向けました。すると同じ志を持つ仲間を見つけることができ、彼らと語り合ったり、プロジェクトを企画したりする中で成長できたし、メンタル的にも強くなれました。教員だけが同じ志を持っているわけではなく、異業種の方でも「教員っぽい」志が高い方は本当にたくさんいらっしゃいます。

あと、自分の立ち位置を明確にすることも大切です。私たちはその所属校に就職したのではなく、教育という職種に就職したのです。その点がはっきりしていると、思い悩むことも減るのではないでしょうか。

先生の「やりたい」を引き出す
――前田先生は今後、どのような活動をしていきたいとお考えですか。

今は全国を回って、学校同士をつないだり、学校と社会をつないだりするコーディネーター的な役目、それぞれの学校や先生が輝けるためのサポート役をしています。いわば、学校や先生のマネジャーみたいなものでしょうか。

将来的には、私のような人間が各学校に配置されるような形を目指したい。先生の「こんな授業をやってみたい」「こんなところと組みたい」を引き出して、実現するためのヒントや材料を提供し、一緒に実現するわけです。

また教師個人の特性をうまく生かした学校づくりにも注力したいです。例えば専門的な授業が得意な先生と、子供たちの興味関心に火をつけることが得意な先生が組んで授業をつくったら、すごいものができると思いませんか。

教科でも同じことが言えます。例えば、私が現役時代、自分の担当する現代社会の授業をするときは、生徒たちが他の教科の授業を受けたくなるように設計していました。現代社会で数学や古文、漢文の必要性や楽しさを感じたら、学校全体の学びが有機的になり、子供たちにとって非常にいい学びになる。インタビューの初回で紹介した「仮想の学校」の発想と同じです。

そうやって、子供と先生みんなのやりたいことや得意なことがつながっていくと、楽しい学びの空間が作れるのではないでしょうか。その環境づくりのサポートをしていきたいと思います。

世の中捨てたものじゃない!
――読者に向けてメッセージをお願いします。

このインタビュー、「先を生きる」ってコーナーですよね。私自身は先導している感覚が全くなく、横に広がって仲間を増やしているイメージです。「横に生きる」ですね。

「大人って面白い」と子供たちに伝えたいと話す

子供にも大人にも、楽しむ力を付けてほしい。「文化祭がないと楽しめない」「環境が整っていないと楽しめない」と受け身になるのではなく、自ら楽しさを作り出して、周りを巻き込んでいける人になってほしいと思います。

文句を言うのではなくて、どうすれば巻き込めるのか考えられる、そんな仲間を私もどんどん増やしていきたいですね。そうすれば世の中はもっともっと楽しくなるでしょう。

私たち大人が子供たちに一番感じさせなきゃいけないのは、「大人って楽しい! 面白い! 世の中捨てたもんじゃない!」ってことですよね。

(板井海奈)


【プロフィール】

前田健志(まえだ・たけし) 肩書は「楽しい学校・教員コンサルタントSecond事業主」「金沢大学附属高校カリキュラムアドバイザー」「富山国際大学付属高校コンサルタント」「ベネッセ次世代教育アドバイザー」など。

教員歴13年。香川県私立学校で教諭生活をスタートし、2010年4月から金沢大学附属高校に赴任。在職9年間でSGHプログラムなどの探求的な学びの設計・開発・実施や、財政プログラムを用いた生徒会改革、自主的な活動を促進するスコラの創設、校務分掌を横断する研究企画部の立ち上げ、大職員室改革など学校改革を推進。また、アクティブラーニングやコア・カリキュラム、主権者教育などの実践でも各種メディアで取り上げられ、各種研修会の講師なども務めている。金沢大学でも教員養成の講座を受け持ち、多くの教員を輩出。

2019年4月より外部から学校や教員をサポートする事業「楽しい学校・教員コンサルタントsecond」を石川県金沢市平和町で立ち上げた。今までの学校の良さを残しつつ、全国の先生たちの「やりたい」を引き出し、つなぎ、実現して、子供も先生も楽しく学びあえる環境づくりに邁進(まいしん)している。

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