【けテぶれ革命】宿題で自己学習のサイクルを回す

なぜ学校は宿題を出すのか――。誰もが一度は抱く「学校の当たり前」に対する疑問。それに真正面から向き合い、パラダイムシフトを起こした教師がいる。兵庫県西宮市立夙川(しゅくがわ)小学校の葛原祥太教諭は、子供が宿題を通じて自ら学ぶ力を身に付けるシステム「けテぶれ」を編み出し、著書『「けテぶれ」宿題革命!』(学陽書房)がベストセラーになるなど注目を集めている。どのようにして「けテぶれ」は生まれたのか。葛原教諭の実践に迫った(全3回)。


分からないものは分けると分かる
――今、「けテぶれ」が教育界に旋風を巻き起こしています。改めて「けテぶれ」とは、どのようなものなのでしょうか。

簡単に言えば、自己改善サイクルの考え方を子供に分かりやすく示したものです。思考活動はインプットとアウトプットに分けられます。「学ぶ」と「考える」と捉えてもいいかもしれません。このインプット、すなわち「学ぶ」を担っているのが「けテぶれ」です。

私は「学ぶこと」を「自分の外側にある知識や技能を自分の内側に定着させる行為」と定義しています。でも、その定義を子供にそのまま言っても分かりません。だから分かりやすく伝えるために、分けてみたのです。分からないものは分けると分かります。

実際に分けてみると「計画」「テスト」「分析」「練習」の4つの要素が出てきました。この4要素を繰り返すことで、自分の外側にある知識や技能が自分の中に入ってくるのです。何ら特別なことではなく、もともと勉強ができる人はやっていたことですが、子供たちはそれを無意識にできるわけではありません。

「けテぶれ」による宿題改革を提唱した葛原教諭

各要素の頭文字を取って「けテぶれ」とキーワード化して、子供たちに示しました。すると、子供たちは「けテぶれする」と、口に出すようになります。「けテぶれする」の中には「計画」「テスト」「分析」「練習」のサイクルを回すという意味が入っているので、子供たちは自分の外側にある知識や技能を自分の内側に定着させる行為だと認識していきます。

ただ「学びましょう」と言うだけでは、言葉としての解像度が低くてぼやけてしまいます。だから、まずは解像度を上げて、子供たちでも使えるように設計したのです。

子供の姿が確実に変わる
――「けテぶれ」をやることについて、保護者から不安の声などは出なかったのでしょうか。

保護者には学級懇談会や家庭訪問、学級通信などを通じて「けテぶれ」の狙いを説明しています。その伝え方自体は、子供への伝え方とほとんど同じです。

いきなり全ての子供が「けテぶれ」をできるようになるわけではありません。最初は、宿題をどうやったらいいかで困ってしまう子供もいますが、保護者には「様子を見ていてください」と伝えています。なぜなら、しばらくすれば子供の様子が確実に変わるからです。保護者の納得を得るのに、子供の姿に勝る説得材料はありません。

「けテぶれ」がうまくいっていない子供は、提出されたノートを見れば分かります。多くは、丸付けを適当にしていたり、分析や練習までやっていなかったりするので、そういう子供にはどのように取り組んでいるのか、個別に聞くようにしています。そして最も効果的なのは、自分より半歩進んだノートを見ることです。だから、初期には特にさまざまなレベルのノートを積極的に紹介しますし、子供たち同士でノートを交流する機会をたくさん用意します。

私の場合、「けテぶれ」を始めるときは「1週間後の漢字テストで90点以上を取る」という目標を設定するようにしています。数種類の漢字を1週間かけて練習し、同じ漢字をテストするという構造は、多くの子にとって成果が出しやすい。このように、まずは、私が伝えたやり方で「けテぶれ」をやらせて効果を実感させ、次第に子供たち自身が別の学習方法を探していけるようにしています。

武道の「守・破・離」の考え方で捉えると、私は「守」を徹底させようとは思っていません。むしろ、どんどんいろんなやり方を試して、うまくいかなければ元のやり方に戻り、また別の方法を試す。そうして「守」と「破」の間を何度も行ったり来たりしながら、自分なりの勉強法を獲得していけばいいと思っています。

――「けテぶれ」で、どのような子供の変化を感じますか。

学ぶことが楽しくなっていると感じます。「けテぶれ」を始めると、最初のうち、テストの点数が少し落ちることがあります。でもそれは、サナギから成虫へ脱皮しようとしている状態。外から与えられてきた今までの学習スタイルから、自分をコントロールして必要な学び方を考えていこうとするスタイルへの脱却を模索しているのです。

教室に掲示している「けテぶれ」のサイクル説明図

そこにはかなり大きなシフトチェンジが必要で、たとえテストの点数が「けテぶれ」をやる前と後とで変わらなかったとしても、子供にとって持つ意味は全然違います。

「『けテぶれ』をやってみたけれど、うまくいかなかった」との声も聞きますが、私はうまくいかなかったことを受けて、どう学ばせるかが大きなポイントになると考えています。最初のうちは、勉強をさぼったり、やる気が出なかったり、そういう子供の姿に不安を感じるかもしれません。でも、それは子供たちが、自ら学びだす前に立ちはだかる大きな壁のようなものです。それをどう乗り越えさせるかが、教師の腕の見せ所でもあります。

教育の自然な形を取り戻す
――そもそも、何がきっかけで「けテぶれ」を思いついたのですか。

「けテぶれ」を最初に始めたのは、前任校で小学5年生を担任していたときで、教師になってまだ4年目でした。夏休みにアイデアを思いついて、隣のクラスの担任に「こういうことをやってみようと思うんです」と相談すると「いいんじゃない」と言ってくれて、2学期が始まると早速試してみました。

すると、1週間くらいで変化がありました。まず変わったのは、勉強がもともとできる上位層の子供たちで、学ぶことが面白いと本気で感じている様子がうかがえました。その変化を見て「これは耕す価値がある」と確信しました。当時の様子は今も鮮明に覚えているのですが、子供たちを新しい学習フィールドに解き放ったような感覚を味わいました。

「けテぶれ」に基づいてまとめられたノート。自分に合った学習法を見つける子供もいる

私の取り組みを表すには「教育を自然に」という言葉がしっくりくるなと思っているのですが、私自身の中に、学校教育の不自然さに対する問題意識が潜在的にあったのだと思います。宿題に関して言えば、理解度や性格など、何もかも違う子供たちに、一律で同じ課題を出すのは不自然です。より自然な形に戻すにはどうしたらいいのか。考え続けてきた結果、「けテぶれ」にたどり着いたのだと思います。

前任校でやった「けテぶれ」は、クラスの子供たちと一緒に作り上げてきたものでした。彼らが6年生になって卒業すると同時に、私も現任校の夙川小学校に転任することになりました。ある程度確立した「けテぶれ」が、果たして別の学校の子供たちに通用するのか。私にとっては、一つの正念場でした。

夙川小で初めて担任したのは4年生でした。そのクラスの子供たちにやらせてみたところ、あっという間にすごいノートが出てきたんです。その後私は、大学院時代の教師仲間が集まる実践発表会で「けテぶれ」についてプレゼンしました。すると、とても周囲の反応が良く、しばらく後には実際にやってみた仲間が「すごい」と報告してくれて、再現性があることも確かめられました。それでツイッターやブログで発信したところ、次から次へと拡散されて全国に広まっていったのです。

最初に「けテぶれ」を実践した子供たちは今、高校受験を控えています。何人かとは今でも連絡を取っているのですが、「『けテぶれ』で勉強しているよ」とか「友達に『けテぶれ』を教えている」などと話してくれました。彼らにとって「けテぶれ」が勉強法として身に付いているのだと思うと、うれしくなります。

(藤井孝良)


【プロフィール】

葛原祥太(くずはら・しょうた) 兵庫県西宮市立夙川小学校教諭。1987年、大阪府生まれ。同志社大学を卒業後、兵庫教育大学大学院に入学。卒業後、赴任した兵庫県の公立小学校で「けテぶれ」をはじめとするユニークな実践を展開。SNSなどを通じて広まり、話題となる。著書に『「けテぶれ」宿題革命!』(学陽書房)。趣味はカフェでくつろぎながら思索にふけること。

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