【けテぶれ革命】子供が自ら学びを紡ぎ出す

「計画」「テスト」「分析」「練習」のサイクルを回しながら、子供が自ら学んでいく「けテぶれ」。この学習システムを提唱した葛原祥太・兵庫県西宮市立夙川(しゅくがわ)小学校教諭の実践は、これだけにとどまらない。次々生み出される実践は進化し続けており、現在担任する6年生のクラスでは、宿題としての「けテぶれ」はほとんどやらなくなったという。その狙いはどこにあるのか、インタビューを通じて実践の核心に迫る。


アウトプットを担う「NKS」
――前回、思考活動のインプットを担っているのが「けテぶれ」とのことでしたが、アウトプットを担っている何かがあるのでしょうか。

インプットを担う「けテぶれ」に対し、アウトプットをつかさどる活動として「NKS」があります。「けテぶれ」が「自分の外側にある知識を自分の内側に定着させる行為」であるのに対して、「NKS」は「自分の内側にある知識や技能を自分の外側に再構築する行為」であると定義しています。これを「けテぶれ」と同じように要素に分けると「抜き出し」(N)、「組み立て」(K)、「整理する」(S)の3つに整理できます。

新学習指導要領に当てはめると「知識・技能」を身に付ける行為が「けテぶれ」で、「思考・判断・表現」する行為が「NKS」だと言えます。「思考・判断・表現」の学習活動で、子供がどうすればいいか分からなくなったときに、「NKS」は自分の考えをまとめるための道しるべとなります。

「けテぶれ」以外にもさまざまな実践がある葛原教諭

「抜き出し」は、そのテーマについて関連する情報を頭から出していくことです。具体的には、多くの学校で行われているブレーンストーミングなどを通じ、箇条書きで情報を書き出していく作業です。

「組み立て」は、そうして書き出された情報を分類して、抽象化したりグループ化したり関係性を矢印で示したりしながら、つなげていく作業です。

そして、「整理する」は、自分の頭の中で構造化されたものを相手が分かるように整えていく作業です。子供たちは、この「NKS」のサイクルを繰り返しながら、アウトプットをしていきます。

――「NKS」は、どちらかというと普段の授業で使われる活動ですか。

授業でも宿題でも使います。授業でいえば、国語で文章を読むときなどが典型的です。例えば、「この場面で主人公は何を考えていたのでしょうか」という問いに対し、子供たちはまず、主人公の考えを判断するための情報を抜き出します。

抜き出すときは、文章に書かれている情報だけでなく、自分の意見も4つ以上抜き出すように指導しています。自分の意見は1つだけとは限らないでしょうから、子供たちには頭の中にあることを余すことなく出していくように指示します。そして、それを文章に組み立てていく。そうしたプロセスを経て、子供たちは自分の考えの落としどころを見つけるのです。

よく分からない問いに向き合うとき、いきなり答えは見つかりません。一つの答えを思いついたとしても、他の考えが思い浮かぶこともあるでしょう。そうして出てきた考えを取捨選択しながら構造化していく中で、自分が最も納得できそうな主張や目的を探し、それが見つかったら国語で習った説明文の「序論・本論・結論」の構成などを駆使しながら、相手に伝わるように整理していきます。

「NKS」は教科の学習だけでなく、学級活動にも取り入れられます。例えば、私のクラスでは係活動を会社に見立て、月に1回、クラス投票で会社の評価をしています。投票の前には、必ずみんなの前でプレゼンテーションをしますが、その場面こそ「NKS」です。「投票してもらう」という明確な目標があっての発表なので、子供たちは自分たちの仕事内容を正確に、分かりやすく、魅力的に伝えようとします。その手段として意識しているのが、「NKS」なのです。

学びの見取り図
――「けテぶれ」や「NKS」で子供たちが主体的に学びだすと、宿題そのものが必要なくなるのではないでしょうか。

今担任している6年生のクラスは、まさにそんな状態になっています。本校は塾に通っている子供が多いので、ただでさえ勉強量が多い。だから、昨年あたりから「宿題は必要だったらやってくる」ことにしています。クラスの中で、今も「けテぶれ」を使って毎日宿題をしている子供はそんなに多くありません。テスト前になると、少し増える程度です。宿題はやる必要があるときか、やりたくなったときだけやればよくて、忙しければやらなくていいのです。

――そうした状態になると、授業も変わるのではないでしょうか。

子供に自己学習力をつけさせたくて、これまでは宿題に着目してきたわけですが、今年から授業の中で学習ポートフォリオに取り組み始めました。具体的に、子供たちは「けテぶれシート」と名付けたワークシートに授業の目標を書き、目標達成を目指して学習を進め、最後の5分で実践したことを分析し、次の授業で気を付けるべき点を考えます。

葛原教諭が今年から取り組み始めた学習ポートフォリオ

いわば「けテぶれ」の授業版ですが、宿題よりもさらにレベルが高い実践です。子供たちは学習内容をただ身に付けるだけでなく、どういう方法で勉強すればよいかを考えているのです。これを授業単位、1日単位、単元単位で取り組んでいけば、子供たちはどんどん自分をメタ認知するようになっていき、自分をコントロールすることができるようになります。

勉強の得意・不得意や塾に行っている・いないにかかわらず、課すに値する取り組みで、子供が自ら学びを紡ぎ出す力を育てることができます。換言すると「自分の力で授業時間を充実させることができる力」を育みたいのです。

宿題レベルでの「けテぶれ」の目標は、テストで100点を取ること、あるいはそれに向けてサイクルを回していくことでした。しかし、今子供たちが取り組んでいるのは、自分自身が充実した学びを生み出すためにはどうしたらいいのかという、より大きな目標を達成するための「けテぶれ」なんです。子供たちにはとても難しいことを要求していると思います。でも、条件をしっかり整えてあげれば、できないことではありません。

子供たちには「『より良い学び方とは何だろう』という一つの問いを、全員でひたすら深めていこう」と話しています。そして、その学びを見取り図にして、教室に掲示しています。子供たちは授業中、これを見ながら学習を進めています。

――具体的に、授業はどのように進められるのでしょうか。

まずは、教科書に載っている重要ポイントをノートにまとめる作業から入ります。その次は、ドリルやプリントで問題を解く作業、つまり「やってみる」段階です。

それができたら次の問題へ、というのでは、学びとして浅い。そこで、解いた問題を自分で説明できるかどうかを確かめることで、学びを深めるようにします。

それができたら次の問題に進んでもいいのですが、実際に友達と説明し合う活動を挟めば、自分が分かっていないところに気付けるかもしれません。そうしたプロセスを経て、初めて人に教えてあげることができるようになります。

問題が解けたらすぐに友達に教えてあげようとすると、手法の再現だけで終わってしまいかねません。なので、絶対に自分や友達との説明のプロセスは飛ばさないようにと強調しています。分からないときは、最初のノートに戻ればいいのです。

教室に掲示されている学びの見取り図

初めのノートに分からなくなった点、教えてもらって納得した点を追記し、また「やってみる」に進むといった具合に、どんどん学びを深めていくのです。

子供たちは、深いところに長くいればいるほど、思考力が身に付きます。そうするうちに、まだ誰も気付かないような問いを持つようになります。そうした問いを持って初めて、探究の世界に入れるのです。

このようにして、学びの「解像度」を高め、構造化して示せば、子供は自分が今どこにいるかが分かります。後で振り返ってみて、どんなところが足りなかったのかを分析し、「こうすれば別のところに行けたかもしれない」などと図を基に思考することができる、まさに「学びの地図」です。

このような授業では、私自身が教える場面はほとんどありません。単元の最初にテスト範囲とそれまでの授業時間数を伝えておくくらいです。

(藤井孝良)


【プロフィール】

葛原祥太(くずはら・しょうた) 兵庫県西宮市立夙川小学校教諭。1987年、大阪府生まれ。同志社大学を卒業後、兵庫教育大学大学院に入学。卒業後、赴任した兵庫県の公立小学校で「けテぶれ」をはじめとするユニークな実践を展開。SNSなどを通じて広まり、話題となる。著書に『「けテぶれ」宿題革命!』(学陽書房)。趣味はカフェでくつろぎながら思索にふけること。

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