【英語民間試験】延期決定の波紋 現場の声と有識者の見解

大学入学共通テストにおける英語の民間試験について、来年度からの導入予定が突然の延期となり、全国で波紋が広がっている。本特集では、弊紙電子版「Edubate」の読者投票の結果や関係者への取材を通じ、現場の課題や今後の展望を伝える。


国立大学協会の反応

萩生田光一文科相から延期決定が公表された11月1日、国立大学協会(国大協)の会長を務める筑波大学の永田恭介学長は延期決定について「残念であるとともに、驚きをもって受け止めている」とのコメントを発表。各大学に入試方法の見直しが求められることについて「迅速な対応をしなくてはならない」とした。

1週間後の8日、国大協は学長が集まる総会を熊本市で開き、各大学が2次試験の英語で民間試験を利用するかなどの対応について、29日に一斉に発表すると決議した。大学の判断によっては、より早く公表することもありうるとしている。

国大協は2017年、各大学に対し、一般入試の全受験生に共通テストの英語民間試験を課すよう求める基本方針を示した。今回、文科省が導入延期を決定したことを受け、学長らから基本方針の見直しを求める声が上がったが、永田会長は「一度決めたもの」と退けた。

総会にオブザーバーとして参加した大学入試センターの山本広基理事長は、共通テストの問題が草稿の段階に入っているとして、「(民間試験導入の延期が決まったとはいえ)英語の出題内容を今からすっかり作り直すのは困難だ」と説明。総会後、記者団に対し、「私見だが、(大学入試センターでは)変更しない方向で議論が進むのではないか」と述べた。正式な方針発表は15日に行うとしている。

現場でも評価はさまざま
10月下旬に緊急シンポジウムを開いた全国高等学校長協会

弊紙電子版「Edubate」の読者投票で1日、「英語民間試験の活用延期について、どう思うか?」と尋ねたところ、11月11日午後6時現在で239人の投票があった。そのうち「適切な判断だと思う」との回答が半数の50%に上ったものの、「延期すべきではなかった」が12%、「タイミングが遅く、どちらとも言えない」が38%と、評価が分かれる現状が浮き彫りになった。

文科省に対して今年9月10日、民間試験の活用延期と制度の見直しを求める要望書を提出していた全国高等学校長協会の中でも、全国470高校の校長を対象に7月に実施したアンケートでは、実施を「延期すべきである」と答えたのは69.1%で、「課題があっても予定どおり実施すべき」が26.4%、「予定どおり実施できると思う」が4.0%と、合わせて3割強が実施に向けて動くことを想定していた。

考え方や立場の違いなどによって、現場教員の間でも捉え方が異なる問題となった。

導入反対も根強い

延期ではなく、民間試験の導入自体に反対する立場を取っていた団体は多く、現場教員からもそうした声が聞こえる。

40年間近くにわたって公立高校に勤務してきた教員は「戦後の日本では、文部省・文科省ともに『機会均等、公平・公正』を大学入試の大原則に、誰でも同じような条件で受けられるようにしてきた」と指摘。

「それが今回の入試改革では、ないがしろにされたまま話が進んできた。英語民間試験を導入するにしても、本来は全国のあらゆる地域に実施会場を設置した上で、経費の問題をクリアし、試験方法の公平・公正性の担保をしなければならなかった」と述べ、「それを可能にする策があるとは思えなかったので、民間試験導入は中止し、根本的に見直すべきだと考えていた」と話す。

一方で、「文科省はおそらく強行突破すると思っていた。本当に延期になるとは想像していなかった」と話し、「政治的背景があったとはいえ、結果的に現場の訴えが反映されたという点では、民主主義国家として正しい判断になったのではないか」と評価。「今後は現場で、導入延期でいいのか、根本的に中止とするのかといった議論をすべき」と話した。

日本教職員組合は1日付で、「教育の機会均等の観点からも、公平・公正性が担保されず、格差解消の具体的な方策が示されないまま制度が導入されることは許されない」などとする書記長談話を発表した。

「今日に至るまで実施団体による情報公開が遅れたり、内容が変更されたりしており、受験生や高校関係者等が困惑・混乱している実態がある」と批判。加えて、「10月24日の文科大臣による『身の丈』発言が多くの非難を受け、発言の撤回に至った」とした上で、「事実上、民間試験の活用により受験生の経済・地域間格差を拡大しかねないことを容認した点が問題だ」と指摘した。

「人ごとになっているのでは」

一方で、弊紙読者投票でも約1割が「延期すべきではなかった」としているように、実施の必要性を訴える声もある。

武蔵野大学中学・高校の日野田直彦校長

偏差値50、地域4番手の公立高校を、わずか4年で海外トップ大学へ多数の進学者を出す進学校に導くなど、英語教育の在り方や、グローバル人材育成のモデルを示してきた武蔵野大学中学・高校の日野田直彦校長は、英語民間試験の導入は「やろうとしたことは間違っていない」とした上で、「政争の道具にするのではなく、未来の若者のために何ができるのかを考えるべきだ」と訴える。

地域・経済格差解消の具体策として、「受験費用と会場までの2回分の移動費をバウチャーにし、受験生50万人に渡す」と提案。

「仮に全員が、受験料が最も高い2万5000円の試験を受験し、交通費として5000円を全員に出した場合でも、最大で約300億円にしかならない。まずは『受験生ファースト』で考え、地域・経済格差の拡大を解消し、未来の若者への投資やサポートをすることが、この国の未来を明るくするのではないか。執行されていない予算をかき集めれば可能なはずだ」と語る。

現状について「政府、野党、報道機関、そして教育関係者が、どこか人ごととして見ているのではないか」と指摘。「重要なのは、子供たちのための議論をすること。足の引っ張り合いをしていては、被害が受験生に及んでしまう」と話す。

自身が校長を務める学校では、英語4技能を測るテストに向けて準備を重ね、本質的な力を育む指導に力を入れてきたとし、「新たに始まる共通テストでは、英語の配点の半分はリスニングになる。この方針は数年前に発表されているが、授業の半分以上でリスニング力を伸ばす指導をしているか、考えてみてほしい」と問いかける。

教員の労苦を無駄に

公立高校長を歴任し、現在は東京都教委の特任教授として英語教育の指導的立場にあり、獨協大学でも教鞭(きょうべん)をとる岩崎充益氏は、延期決定について「学校現場を完全に無視した決定で、憤りを感じる」と語る。

「対象となる生徒や、今まで指導に徹してきた教員の労苦を無駄にするものだ。国の教育政策が長期的展望に欠けた、場当たり的なものであることが露呈された」と指摘。

今回の入試制度の改革は「高校教育・大学入試・大学教育」の三位一体改革の一環だとした上で、「今回の延期決定を受け、せっかく新しい学びに対応した授業を展開してきた教育現場が『暗記主義・訳読主義』の英語教育に逆戻りすることを懸念する」と話す。

今後、国に求めるべきは

岩崎氏は、「国の民間試験導入の方法には『公教育の私事化』という問題があった」とし、「加えて公平の観点でも課題があったが、それでも国は民間試験導入を強行してきた。このままでは進むも退くも弊害が生じる。延期決定を期に、新たな方策を提示すべきだ」と話す。

その具体策として、「各大学がアドミッション・ポリシーに従い、英語民間試験を導入する」「各大学が独自のスピーキングテストを実施する」「2次試験で英語4技能を機能的に組み込んだ大学入試を実施する」などを上げる。

一方、「本来は大学入試センターがスピーキング・ライティングのテストをやるべきだった」とした上で、「それは不可能だ」と話す。

その理由として、▽50万人以上の受験生に対応できる端末機器の整備など、莫大(ばくだい)な費用と技術開発を要する▽今回の改革が手本とする米国の入試制度では、SAT研究所で半世紀も前から専任の教授が出題形式や内容について研究しており、大学入試センターの規模で短期間のうちに同様の試験を実施することはできない――と説明する。

その上で、英語4技能を測る入試制度が必要だとし、「世界中がIB(International Baccalaureate)の教育理念を追求している中、日本だけが遅れるわけにはいかない」と述べ、学校現場に向け、「これからの教師には専門を超えた幅広い教養を持つことが求められる。世界標準知(global competency)を身に付けさせるため、三位一体の入試改革を推進してほしい」と語った。

(小松亜由子)