英語民間試験 延期を受けて

突如として発表され困惑が広がる、大学入学共通テストにおける英語民間試験の導入延期。渦中の高校生や現場の教員はどのような心境で受け止めているのだろうか。全国高等学校長協会(全高長)の萩原聡会長に話を聞いた。


――延期の発表をどのように受け止めているか。

全高長では、延期が発表された11月1日にコメントを発表した。まずわれわれが9月10日に文科省に提出した要望書の趣旨を理解いただて、ありがたく感じている。今後については、経済格差や地域格差の解消や公平性・公正性の確保などの課題解決に向けて、制度の抜本的な見直しをお願いしたい。

もちろん全高長としても、課題解決に向けて文科省や大学入試センターと協力して取り組んでいきたいと考えている。

――延期の発表を聞いたとき、率直にどう感じたか。

文科省が延期を発表した11月1日は、福井県で全国普通科高校長会総会・研究協議会の2日目、真っただ中だった。

全国の校長が集まっている閉会式で大臣が延期を表明したことを伝えたが、集まった校長たちからは「ほっとした」という声が多かったように感じる。逆に延期となり困るといった声は、私の耳には届いていない。

特に地方の先生ほど、試験会場に頭を悩ませていた。10月31日にGTECの準備・検討状況が発表されたが、実施する会場についてはエリアのみしか分からなかった。追加の地域はあるのか、監督者として教員が参加しなければいけないのかなど、さまざまな疑念の声があがっていた。

そのようなさまざまな課題が解決されていない状況で、私も含めそれぞれの学校長は先行きに大変不安を感じていた。延期という形が取られて、ひとまず安心したというのが、率直な感想だ。

――民間試験に向けて準備を進めていた現場の教師や生徒はどうか。

共通IDの発行手続きの準備を進めたり、英検協会に予約申込金を入金したりなど、すでに動き始めていた教員や生徒がいることは事実だ。その点では、本来であれば必要でなかった手間が掛かったことになる。

「制度の抜本的な見直しを」と語る全高長の萩原聡会長

ただ個人的に高校生に伝えたいのは、英語民間試験に向けて勉強していたことが無駄になるわけではないということだ。大学共通テストにおいてはいったん活用することはなくなったが、これまでと同様な推薦入試などで活用する場面は出てくるはずだ。さらに大学入試で活用することがなかったとしても、英語4技能を学ぶことは決して無駄になるものではない。

そのことを踏まえ、現時点で立ち止まれたことで、現場の混乱がこの程度で収まったと考えている。万が一、このまま来年度を迎え実施されていたらと考えると不安しかない。試験を公正・公平に実施できなかったり、受験できない生徒が出たりなど最悪な状況が起こる可能性が大いにあった。

――改めて英語民間試験導入の一連の流れについて、どこに問題があったと感じるか。

萩生田光一文科相が会見で表明したように、経済格差や地域格差が最後まで解消されなかったことが一番の問題だろう。

民間の検定試験の場合だと、高校1年生から何回でも受けることができる。そうすれば、経済的に余裕のある生徒や都市部に住む生徒が有利になることは、簡単に想像できることだ。本来なら公正・公平であるべき大学入試で、それは許されることではない。

障害のある生徒への対応について、団体によって見解が違ったのも気になる点だ。さらに民間の事業者が複数介入しているので、資格・検定のスコアとCEFRの整合性をどのようにとっていくのかなど、具体的な部分で不透明なところが大いにあった。

――これから具体的にどのように対応していくのか。

われわれ全高長は英語4技能を学ぶことについて反対しているのではなく、もちろん推進していくべきだと考えている。ただ大学入試において、その4技能を図るのであれば、慎重にならなければいけないと訴えている。

新規の共通テストの中で実施できなかったのか、今回のように複数回実施する形式は正しいのか、採点の面で技術的に難しいのならばどうクリアすればいいのか、各大学の個別入試で取り入れる方法ではだめなのか――など、今一度立ち返ってさまざまな議論を重ね、ひとつひとつの課題を解決に導いていかなければいけない。

――大学に対して要望はあるか。

今回俎上(そじょう)に載った英語の試験に限らず、各大学がどのような生徒を募集するのか、どのような学びを展開するのかなど、アドミッション・ポリシーを明確にした上で大学入試を実施してほしい。特に新たな学習指導要領下で学び、入試に挑む2025年度の受験生については、少しでも早く入試情報を開示してくれることを願う。

――現場の教員に向けてメッセージを。

次年度から始まる共通テストに向けて、これからますますいろいろな動きがあるだろう。正しい情報をしっかりと収集して、生徒たちが迷わないようにしっかりと指導してもらいたい。まずは、現在の高校2年生のケアをしっかりしなければいけない。

また全高長としても、今後も現場の意見や思いを集約し、文科省や大学入試センターに伝えていけるようにしたい。

(板井海奈)