AIと教育現場 働き方改革との関連は

目覚ましい発達を見せ、さまざまな産業で活用が進むAI。教育現場でも、「個別最適化学習を促進するか」「働き方改革に寄与するのでは」と期待が高まる一方で、「人間である教員が教えるべきことまでAIの役割になる」と懸念を訴える声もある。本特集では、教育現場でのAIの活用事例やAI導入のメリット・デメリット、働き方改革との関連について、有識者の意見を伝える。


AIの限界と教員の役割

英語のスピーキング練習ができるAIトレーニングツールを提供する企業で、長年にわたり「教育×AI」をテーマとしたセミナーの講師を務めてきた岡田健志氏は「AIは子供の学習のパートナーや、先生のアシスタントにはなれるが、代わりを務めることはできない」と語る。

岡田氏は大学院で教育心理や認知科学を研究し、現在はAIやVR(バーチャル・リアリティー)を教育に活用するシステムなどを開発しているという。

「『AIが添削をできる』というのは誤った認識。教員は添削を通じて、児童生徒の間違いの背景や、頑張って解こうとしたが間違えてしまった過程をくみ取りながら、適切なコメントや支援を考えている。それはAIにはできない」と話す。

タブレットに英文を読み上げると、AIが内容を識別して評価する

教員はAI任せにせず、生徒のつまずきがどこで起きているかを判断し、適切に支援することが重要になる。

岡田氏は「AIはあくまでもツールだが、うまく使うことで学習が活性化する」とした上で、「昨今、AIではないのに『AI内蔵』をうたって学校などに製品やサービスを販売しようとする業者が見られる。学校には、真にAIなのか、そして本当にAIの導入が必要な活動場面なのか、判断する力が求められるようになってきている」とアドバイスする。

AI活用にはデータ集めが必須

11月4~5日、教育に特化した国内外の先進事例などを紹介する国際カンファレンス「Edvation × Summit 2019」が東京都千代田区で開催された。2日目には「AIは教育に何をもたらすのか?AIテクノロジーのいまとこれから」をテーマとしたパネルディスカッションがあり、大きな注目を集めた。

モデレーターは多次元音声評価AIを提供するアイードの宮澤瑞希代表取締役が務め、パネリストとして手書き文字AIデータ化サービスを提供するCogent Labsの床鍋佳枝氏、業務自動化サービスを提供するUIPathの原田英典氏、生徒個人の資質を分析・可視化するツールを提供するInstitution for a Global Societyの福原正大氏の3人が登壇した。

パネルディスカッションは「AIを使った教育課題の解決」「AI時代に必要な教育とは何か」の2部構成。現場教員の声を紹介しながら議論は進められた。

「AIを使った教育課題の解決」のテーマとして取り上げられたのは「英語教育改革」。冒頭で、小学校教員の「大学受験以来、英語に触れていない教員が、小学校での英語必修化に対応できるのか」という疑問が話題に上がった。

これについて原田氏は「小学校の英語教育では、『できる人がやればいい』という風潮になっている現場もあるのではないか」と指摘。「AIがどうしたらサポートできるかという視点で、解決策を考えていく必要がある」と語った。

また福原氏は「英語や国語など言語に関する教科では、AI技術の1つである『自然言語処理』が有効だ」とした上で、「そのためには、子供がつまずきがちなミスを把握している必要がある」と説明。

「これまではこうした子供が陥りがちなミスがデータ化されていなかったため、どんなに性能の良いAIを乗せようとしても機能しなかった。今後は国が事業の1つとして、民間企業と連携しながらデータを蓄積した辞書(コーパス)を進められるといい」と展望を述べた。

AI導入の利点・難点

続く「AI時代に求められる教育とは」の議論では、福原氏が「人と違うということを徹底的に肯定し、個性を認めるという方向になる」と発言。これを受けて原田氏は「AI導入の利点の1つは、日常生活では得がたい成功経験ができること。それぞれの個性を見いだし、嗜好(しこう)や強みを生かした教育や学習ができる未来に期待したい」と述べた。

一方、教育現場へのAI導入の難点として挙げられたのが、「ツール操作の難しさ」という活用までのハードルの高さと、「教員の多忙化を進めるのでは」という懸念の2つ。

特に2つ目の懸念について、福原氏は「先生が生徒のためにとさまざまなカリキュラムやツールを用意したことで、結果として業務量が増えて忙しくなってしまう」と語り、「教育現場でよく見かけるのが、『(さまざまな業務を)足すことはできても、引くことはできない』という状態だ」と問題点を指摘した。

働き方改革との関連は

AIと働き方改革との関連について研究する1人に、明治学院大学で客員教授と学長特別補佐を務め、働き方改革研究センターのセンター長でもある伊藤健二氏がいる。

AIと働き方改革との関連について研究する伊藤健二氏

2006年度までみずほ情報総研の知識戦略ソリューション室で産官学連携による人材育成関連の調査研究・コンサルティングに従事し、厚労省「第4次産業革命での基礎的ITリテラシー委員会」では座長を務めた人物だ。

伊藤氏は「これまでの調査結果から、AI導入後の労働時間は平均すると増えていることが分かった」と指摘。「過度なAI信仰から脱却し、定型業務を自動化・AI化するような見直しの仕方をしなければ、働き方改革にはつながらない」と警鐘を鳴らす。

その上で、「本質的な働き方改革とは、一人一人の価値を高めるもの。AIやテレワークの施策、EdTechを活用しつつ、働いている個人が自身の成長を実感し、集中度を高めることができるかどうかが鍵になる」と強調。

「他のどこかで成果を上げたからと言って導入すると、かえって多忙化が促進される」と述べ、「管理職が組織目標を立て、きちんとした業務分析と一人一人の価値を高めるマネジメントをした上で、組織のメンバーが個人目標を設定し、適切な職務分担をして、リフレクション(内省)を繰り返しながらキャリアの展望を描くことで、真の働き方改革が進み、労働者からプロフェッショナル人材への成長が期待できる」と話す。

人間よりAIが得意な領域

では、教育現場にはどのようにしてAIを取り入れるべきか。先述のパネルディスカッションでは、「人間よりAIが得意な領域を明確にする必要がある」との説明があった。

具体例として、原田氏は「画像認識技術を使って、書き上がった文字から書き順を指導すること」、福原氏は「先生の目から隠れがちなSNS上でのいじめなどについて、ネットワーク情報からいじめの発生場所を探せること」を挙げる。

いじめの早期発見や深刻化防止へのAI活用については、滋賀県大津市教委が実証実験を進めており、今年10月28日には、過去に報告されたいじめ事案のデータをAIで分析した研究の中間報告を公表している。事態が深刻化する割合を半減させる対策の傾向などが明らかになったとして、同市教委は来年度に試験運用し、2021年度から全市立小中学校で運用を開始する予定だという。

これについて床鍋氏は「文章分析AIを使えば、文章がポジティブなものか、ネガティブなものかを判断できる。書き込まれた内容や回数などを詳細に分析し、子供一人一人の心の動きを知ることもできるだろう」と語る。

加えて原田氏は、校務の中でマニュアル化された作業は、AIやボットによる業務自動化が可能だと説明。「学校の先生ではなく、専門家が自動化を進めるのがよい」としている。

議論のまとめに福原氏は今後の展望として、「教育現場に導入したAIなどの施策が、本当に子供の能力を伸ばす効果があるのか測定し、ビッグデータ化して、教育の洗い出しをする必要がある」と語った。

(小松亜由子)