【北欧の教育最前線】教育犬やペットのいる教室

学校はストレスの多い場所だ。これには、宿題を減らしたり、補助教員を増やしたりしても仕方がない。必要なのはペットだ。ペットは人に安らぎを与え、穏やかな気持ちにしてくれる――。このような理由から、スウェーデンではペットを飼っている教室を見ることがある。教室に動物がいることで、子供たちが学習に集中し、モチベーションや自己肯定感が高まると期待されている。


動物の効用

アニマル・セラピーは医療や福祉、介護の分野で取り入れられてきたが、教育現場での有効性も主張されている。職場にペットを連れてくる大人がいるように、学校にもペットが必要だと考える人もいる。教室に動物がいるメリットは、ストレスを軽減させ落ち着いて学習に向かえるようになるなどの精神的な効用と、動物を題材に学習を進めるときの教育的な効用とがある。

5年生から9年生(日本の中学3年生に相当)の子供たちが通うステーゲフス・ヴァルドルフ基礎学校では、1977年の設立当初から馬、豚、ニワトリ、羊を飼っている。この学校には、ADHDやアスペルガー症候群と診断された生徒が多く通っている。ある生徒は、機嫌が悪かったり、悲しい思いをしたりしたときに羊に会いに行くという。餌をやり、なでてやることで、羊の気持ちを感じられるという。

教室で訓練中の教育犬ジンゴ(写真提供: カリーナ・トングリング氏)

この学校では、教室で犬も飼っている。犬は毎朝生徒が登校すると、全員にあいさつし、なでられてから教室の床に伏せる。生徒は授業中に気分が悪くなると犬をなでにやってくる。この学校の特別支援教員は、教育犬が教室にいることで、子供たちは落ち着き、集中して授業に取り組むようになったと言う。

農業高校ではペット同伴での登校が認められるケースが多い。カルマル農業高校では、馬と犬、そして小型の動物(ウサギやモルモットなど)であれば、自分のペットを学校に連れてきてよいことになっている。

この高校では、ペット同伴登校のルールを定めた内規を用意し、それぞれの動物に適した飼育場所を設置している。生徒は年度当初に学校に申し出て、担当教員が審査することになっている。

教育犬の養成コースも

この他、子供の読書に寄り添う読書犬など、さまざまな目的で動物が学校に配置されている。しかし、動物を不用意に教室に入れると、子供に危害を加えたり、動物アレルギーを悪化させたりするリスクがある。

また、移民の子供の中には、出身地に野犬がいることから、犬を見ると強い恐怖心をもつ子もいる。そのため、教室に動物を入れるためには、動物、飼い主、教師、子供のそれぞれに特別な訓練や準備が必要になる。

スウェーデン教育犬研究所では、1歳を過ぎた犬とその飼い主に対して、教育犬の養成コースを提供している。教育犬は18カ月間、1日2時間のレッスンを繰り返し、子供との関わり方を訓練される。また、飼い主は犬のストレスをためないように、広い運動の場を用意したり、動物アレルギーを避けるために犬を頻繁に洗ったり、新鮮な空気に触れさせたりすることを学ぶ。

女子生徒と触れ合うジンゴ(写真提供: カリーナ・トングリング氏)

教育犬を教室に連れて行くときには、動物アレルギーの子供と遭遇しないように、専用の出入り口を用意し、授業が始まってから教室に入るようにするなどの配慮が必要だ。子供たちは、犬をおびえさせたり、必要以上に関わってストレスを与えすぎたりしないようにするなど、事前に動物との触れ合い方を学ぶ必要がある。また、飼い主や教師は、子供だけで犬にお菓子を与えたりしないように、よく注意して見守る必要がある。

これらの措置を講じても、子供の安全・安心や動物アレルギーを心配する親の懸念は払しょくできない。動物アレルギーの患者団体からは、動物を学校に入れないようにする法律を作るべきだという声も出ている。多様な価値観が交錯する学校では、賛否双方から議論が続いている。

(林寛平=はやし・かんぺい、信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学)

 

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