【教育とリーダーシップ】誰もが輝く組織づくり

トップダウンに代わる新しいリーダーシップの在り方が今、注目を集めている。広島県立広島観音高校サッカー部の元監督で、「ボトムアップ理論」でチームを日本一に導いた畑喜美夫・ボトムアップパーソンズ協会代表と、組織の中で発揮されるリーダーシップについて、研究と教育の両面からアプローチする中原淳・立教大学教授。新しいリーダーシップの在り方を提唱する2人が対談した(全3回)。第1回では、教育現場でリーダーシップをどう育て、発揮していくのか。2人の理論と実践がシンクロした。

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「ボトムアップ理論」で自立型組織をつくる
――今、子供たちにリーダーシップを身に付けさせると同時に、教師自身が組織の中でリーダーシップを発揮していくことが求められています。お二人はリーダーシップについて、どのようにお考えですか。

 私はこれまで、高校サッカー部の監督として「ボトムアップ理論」を実践してきました。その基本的な考えは、部員一人一人が自ら考えて、積極的に動いていく、自立型の人財育成と組織構築を目指すものです。個人に焦点を当てて、ミッションやビジョンなど、いろいろな柱を立てながら人づくりをします。

ボトムアップ理論で高校サッカーの頂点に導いた畑氏

中原 ボトムアップというくらいですから、トップダウンのアンチテーゼと位置付けているのでしょうか。

 「ボトムアップ理論」は在り方なので、具体的な方法の中にはトップダウン的なものもあります。両方の手法を融合させながら、組織全体をボトムアップ志向に変えていくのです。

中原 私は所属する立教大学経営学部で、今年8月までビジネスリーダーシッププログラムの責任者をしていました。このビジネスリーダーシッププログラムでは、高校を卒業したばかりの大学1年生が5~6人でチームを組み、企業から与えられた経営課題の解決策を提案しています。それだけなら単なるビジネスコンテストにすぎませんが、私たちのプログラムでは中間点と最後に、チームがどういう状況にあるのかをバードビューで振り返り、フィードバックする活動を採り入れています。

誰もがリーダーになる「シェアド・リーダーシップ」
――フィードバックによって、どんな変化が出るのでしょうか。

中原 このプログラムのコンセプトは「シェアド・リーダーシップ」です。入学当初、学生はリーダーシップとは権限や職位にひも付いたもので、声の大きな人がリーダーをするものだという先入観を持っています。いわゆる「カリスマ」がリーダーだと思い込んでいるわけです。

私たちはまず、この既成概念を全部逆転させていきます。リーダーシップは誰もが発揮するものであり、自分の強みを生かしてチームを前に動かすことであると。人ごとだったリーダーシップを自分事にしていくのです。畑先生の「ボトムアップ理論」とも近いのではないでしょうか。

学生のリーダーシップ開発に携わる中原教授

 本当にそうですね。これまで私が赴任した高校はどこもコーチがおらず、監督である私と100人近くの部員たちのみで構成されていました。そんな組織では、監督がいないときでも、部員が自分たちで動けるようにしておく必要があります。

そこで、私たちは「一人一役制」という、全員がいずれかの役割でリーダーシップを発揮するシステムを採用しています。練習計画の作成や試合後の振り返りなど、普通は監督やコーチがやるような仕事も全て部員がやっているんです。そうなると、監督の立ち位置も変わってきて、教えることよりも引き出したりアドバイスしたりすることに重点がシフトしていきます。組織としてトライ&エラーを繰り返しながら、個々がリーダーとなり、またリーダーのリーダーをつくっていくようなイメージです。

声の大きな子がリーダーをするのではなく、3年間をかけて少しずつリーダーをつくっていくんです。大切なのは、大学や社会に出た後までを見据えて、部員たちに何が必要なのかを考えさせること。私たちは日本一になりましたが、実は日本一を目指してつくったチームではありません。「人づくり」を進めていった結果として、日本一になれただけなんです。

リーダーシップは「状況」である

中原 リーダーシップとは「状況」だと捉えることができます。チームが目標に向かって進んでいくとき、メンバー一人一人が、何ができるかを考えて、影響を及ぼし合う状況がリーダーシップなのです。だから、リーダーシップを発揮する際に、個々人がどんな強みや専門性を生かして何をするかは、自由であっていいと思います。

誰もがリーダーシップを発揮できる組織を目指すという点で、共通した実践をしてきた両氏

ポイントは、リーダーシップを発揮できる人は座学では育たないということです。いくら理論を学んでも、リーダーシップを発揮させる機会をつくり、それを振り返る活動をしなければ、リーダーシップは身に付きません。課題の一つは、チームを前に進めるために何をしてもよいとなると、結局サポートをするメンバーが増えてしまうという点です。

確かにサポート業も必要なのですが、あるときはフォロワーで、あるときはリーダーになる必要があります。最もいけないのは、常にフォロワーであり続けてしまうことです。これがなかなか難しい。

 私たちの「一人一役制」は、「ボール」「ゼッケン」「スカウティング」など7つのプロジェクトがあって、それぞれにチーフリーダーがいます。例えば、ボールに関してはボールリーダーがリーダーシップを発揮するけれど、ゼッケンに関してはフォロワーになる。そうやって、さまざまな活動でリーダーシップとフォロワーシップの両方を経験できるようにしています。


【プロフィール】

中原淳(なかはら・じゅん) 立教大学教授。企業の人材開発・リーダーシップ開発を研究する傍ら、横浜市教育委員会とサーベイフィードバックに基づく教員の働き方改革の共同研究プロジェクトにも取り組む。主な著書に『働く大人のための「学び」の教科書』(かんき出版)、『残業学』(光文社新書)、『データから考える教師の働き方入門』(毎日新聞出版、監修)など多数。

畑喜美夫(はた・きみお) (一社)ボトムアップパーソンズ協会代表理事、㈱You Home人財育成・組織構築部代表。1997年に赴任した広島県立広島観音高校サッカー部でボトムアップ理論に基づくチームづくりを実践し、06年に全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会で初出場・初優勝を飾る。今年7月、広島県立高陽高校を退職。企業の人財育成や組織開発に活動の舞台を移した。著書に『まんがでみるボトムアップ理論』(ザメディアジョン)、『チームスポーツに学ぶボトムアップ理論』(カンゼン)、『図解ボトムアップ理論』(ザメディアジョン)など。

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