【保育所等訪問支援】発達障害の専門家が学校で支援

1クラスに2~3人はいると推計される、発達障害のある子供たち。その対応を巡っては「教室で勉強ができるだろうか」という保護者の不安と、「どう対応していいか分からない」という教員の戸惑いが錯綜(さくそう)している。そんな中、大きな期待を寄せられている制度が、厚労省が「インクルージョン推進の『1丁目1番地』」と位置付ける「保育所等訪問支援」だ。発達障害などの専門スタッフが、保護者の要望に応じて学校や保育所などを訪問し、環境づくりや指導の仕方をサポートする。そんな「保育所等訪問支援」の現場を取材した。


トライアングルで子供を支援する

保育所等訪問支援は、2012年の児童福祉法改正で創設された新しいサービスで、児童発達支援や放課後等デイサービスと並ぶ「障害児通所支援」の類型の一つ。

発達障害のある子供の課題は、保育所や学校などの集団場面で見つかることが多く、支援の困難さが保育士や教員を疲弊させている現状がある。一方で、保護者は十分な対応がなされていない状況にもどかしさを感じており、両者の間にあつれきが生じてしまうケースは多い。

こうした問題を解決するため、発達障害などの専門スタッフが学校や保育所など集団生活の場に入り、その子にとって居心地の良い環境を提供することを目指すのが保育所等訪問支援だ。名称に「保育所」と付いていることもあり、学校での認知はあまり進んでいないが、実際には学校や放課後児童クラブなどもサービスの対象に含まれている。

ただし、制度の利用を申請できるのは、保育所や学校に通っていて、集団生活に専門的な支援が必要な子供の保護者に限られている。利用申請の際は、保護者が居住する市区町村から障害児通所支援の利用を証明する「通所受給者証」を取得した上で、保育所等訪問支援を実施している事業所を選択する。利用料の1割が保護者負担となり、1回あたり目安として1100円程度を支払わなければならない。学校や保育所が利用申請することはできないため、もし教員側で支援の必要性を感じた場合は、保護者に制度を紹介することも考えられる。

全国8都府県で障害のある子供向けに支援サービスや教育プログラムを展開する民間企業・LITALICOでは、一部の教室で保育所等訪問支援に取り組んでいる。

月に2回程度、保護者のニーズやサービスの利用計画に応じて、特別支援教育に精通した専門スタッフが保育所や学校を訪れ、対象となる子供の生活状況を観察。その子が抱えている課題などを洗い出し、最適な環境調整の方法を保護者や教員に提案するなど、直接または間接の支援を行っている。

支援の結果、対象の子供が安心して過ごせるようになり、保護者と学校や保育所などとの信頼関係が確立されていると判断できれば、サービスは終了となる。

保育所等訪問支援に取り組むLITALICOの永塚氏

LITALICOで保育所等訪問支援を担当する永塚健氏は「保育所等訪問支援は小学校などでも少しずつ増えてきているが、保護者から申請があっても、学校で専門スタッフの訪問を必ずしも実現できないケースもある。保護者と学校と私たち専門スタッフがお互いに歩み寄り、トライアングルの関係を構築することが鍵になる」と語る。

学校と保護者のパイプ役に

実際に保育所等訪問支援を受け入れた学校は、どのようなメリットを感じているのだろうか。

東京都東久留米市立神宝小学校(澤井裕一校長、児童数317人)では、昨年度に保育所で訪問支援を利用していた児童が入学し、保護者が継続希望したことがきっかけで、現在では複数の児童がLITALICOによる訪問支援を利用している。

知的障害や情緒障害の特別支援学級を置く同校では、もともと発達障害のある子供への対応は進んでいたものの、保育所等訪問支援の存在については、それまでどの教員も知らなかったという。

同校の特別支援コーディネーターで養護教諭の片白弥美主幹教諭は「最初は市のサービスであることも知らず、公的な機関・施設でない人がどこまで関わるのか不安もあり、理解するのに時間がかかった。しかし、実際に専門スタッフが教室に入り共通理解が進むと、教員は困っている問題を相談したり、個別対応を頼んだりすることができて、とても助かっている」とメリットを実感する。

同校では専門スタッフのアドバイスに基づき、教室の掲示物に配慮したり、教員が子供に合わせた教材を工夫したり、状況に応じた適切な声かけなどの改善につながっているという。また、昨年はLITALICOの専門スタッフを講師にした、特別支援教育の校内研修も実施した。

片白主幹教諭がもう一つのメリットとして挙げるのは、保護者への対応だ。発達障害のある子供は、学校の中だけでなく、家庭での環境調整も必要となることが多いが、訪問支援の専門スタッフが学校と家庭の間に入ることで、情報共有が円滑になる。

片白主幹教諭は「学校はどうしても家庭にまでフォローが及ばない。訪問支援の専門スタッフは、学校と家庭の間をつないでくれるパイプ役としてありがたい存在」と話す。

このように、学校現場での利用も広がりつつある保育所等訪問支援だが、目下の課題は「引き継ぎ」だという。せっかくその子にとって最適な環境が整えられても、クラス替えや進学で「振り出し」に戻ってしまうことが多く、特に教科担任制の中学校では、指導や接し方の共通理解を図るのが難しいという。

こうした課題を解決するためには、保育所等訪問支援で得られた知見を個別支援計画等に記録するなどして、環境が変わっても継続してその状況を作れるようにすることが重要になる。そうした仕組みができれば、将来、子供が自立するときの助けにもなると関係者は期待を寄せる。

LITALICOの阿部純一氏は「教員と支援方法について意見交換をしていると、逆にこちらが助けられることもある。専門スタッフと教員が一緒になって最適な支援環境をつくり、保護者に安心してもらうまでが私たちの仕事だ」と話す。

藤井孝良)


関連