【教育とリーダーシップ】組織づくりは実践から学べ

働き方改革、日々の教育活動、保護者対応など、学校が抱えるさまざまな課題に、教師はどう立ち向かっていけばよいのか。こうした諸課題の解決に組織づくりの観点から関わってきた、中原淳・立教大学教授と畑喜美夫・ボトムアップパーソンズ協会代表による対談(全3回)。最終回では、学校をより輝く職場に生まれ変わらせるための視点が提示された。

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従業員満足度は顧客満足度に結び付く

中原 日本の企業では、管理職になってからチームの動かし方やリーダーシップを学びますが、それではあまりに遅すぎます。

 それは学校も同じです。教頭や校長になるならば、チームづくりに精通していなければいけないはずですが、管理職になってから学ぶ人が大半で、管理職になってからも知らない人はたくさんいます。

私がある学校に赴任したときには、校長から「ここではボトムアップではなくトップダウンだから」とはっきり言われたこともありました。しかし、私が少しずつボトムアップ式で学校を変えていくと、校長もその価値を分かってくれるようになりました。

横浜市で学校の働き方改革をサポートする中原教授

中原 校長先生の研修に関しては、私も横浜市教育委員会と共同研究をしていて、新任校長を対象にした3回の研修で、「学校ぐるみの働き方改革をいかに進めるか」をテーマにした研修をやりました。

いわゆるアクションラーニングの形で、校長先生が校内でミドルを巻き込み、全校を巻き込み、働き方を見直していくのです。これは研修でもあり、実践です。「学校ぐるみで働き方改革を進める」とは、校内にリーダーシップを生み出すことです。ですので、これは「働き方改革」の研修とも言えるし、リーダーシップの研修とも言えます。

 なぜ、そのようなことをしたのですか。

中原 教育現場の働き方が、限界に達していると思ったこと。もう一つは、教師同士の関係性も、今一度見直さなくてはならないと思ったからです。例えば、教育学では「教師には同僚性がある」と言うけれど、それは本当でしょうか。今の教育現場では、教師は、意外と隣の先生が何をしているか、お互いに知らないものです。雇用形態もバラバラです。

個々の専門性が高い職場でこういう状態だと、働き方改革などの問題があっても建設的な会話ができません。

 どんな研修だったのですか。

中原 工夫したのはコアチームをつくることです。校長、副校長、主任、若手の代表、ベテランの代表、介護や育児を抱えている人などで一つのチームをつくる。その上で、教師へのアンケートを集計して、学校の現状を見える化したデータを基に、今の状況について話し合ってもらいます。

次の段階では、コアチームのメンバーが全体に対話を仕掛けて「自分たちの未来は自分たちで決める働き方改革をしませんか」と促すのです。今年80校でやって成果が確かめられたので、来年はさらに規模を拡大すると思います。

 校長研修で講演するとき、私は「リーダーの役割は、気持ちよく仕事ができる職場環境をつくること」だと伝えています。私がコンサルティングをしている飲食店では、アルバイトの店員も含めて一人一人に「その店の店長」という意識を持ってもらうようにしています。そうすれば本当にチームとして活性化して、店が輝き出します。

中原 誤解を招く言い方になるかもしれませんが、経営の観点から見た場合、学校の提供するサービスは、他のサービス業と本質は同じなのです。従業員満足度(ES)は顧客満足度(CS)に伝わるんです。

教師が学校の仕事に確かなやりがいを感じていて、それが組織の中にエンゲージメントしていなければ、顧客である子供たちに対してよく接するわけがない。自分たちで決めなければ、ESは高まらないのです。そういう場をつくることがリーダーの役割です。

もちろん、「学校=『民間のサービス業』」というのは暴論だとは分かっています。でも、先生の働きがいが、子供に伝わる、という点は同じです。

日本一を決める大会はもうやめるべきだ

中原 ところで今、部活動やスポーツは岐路に立っていると思います。

中原教授も畑氏も、日本の部活動の在り方に警鐘を鳴らす

 体罰の問題が連日のように報道されていますね。昔からの伝統だったり、自分の信念だったり、そういうものが行き過ぎてしまって、指導者が自分自身を制御できなくなっているのです。

中原 スポーツに対して、ブラックなイメージが広がっていることを危惧しています。体育会系の絶対的な上下関係に対する拒絶が、子供たちの間にある。こうした文化を変えないと「スポーツを見るのはいいけど、やるのは嫌だ」となります。でも、くどいようですが、部活動の指導の仕方をきっちり教わり、適宜振り返っている指導者は、どのくらいいるでしょう。

 かなり厳しいでしょうね。

中原 中学校の先生に聞くと、部活動に熱心な先生は「僕は、部活動がやりたくて、教員になった」とおっしゃる方が、非常に多いです。しかし、その指導法、子供に対するコーチング法、フィードバックの方法など、科学的なトレーニング法は、多くの場合、学べていません。かつて自分が受けた部活指導の在り方を、再生産しているのが多いと思います。そして、昔の部活動は、精神主義的な指導もありました。そうした精神主義が再生産されています。

 「ボトムアップ理論」では、体罰や暴力の排除も徹底しています。私が高校サッカーで「ボトムアップ理論」を始めたときは、みんな懐疑的で、周りからはいろいろ言われました。当時はまだ、チームを勝たせる指導者が一番評価されていた時代で、「人を育てる」という視点はありませんでした。

中原 勝つことが目的であるならば、学校の部活動は存在意義がなくなるのではないでしょうか。教師がやる意味がないですよね。勝つことが目的ならば、クラブチームでいいわけです。学校教育としてやるからには、スポーツを通じた人間的な成長の視点が必須です。

 海外のサッカーは、すでにクラブチームが当たり前になっています。しかも、南米や欧州では、育成年代の大会で1位を決めなくなったんです。だから日本も、インターハイや甲子園など日本一を決める大会はやめるべきです。1位を決めなくなった南米では、テーマを明確に打ち出した小さな大会をやるようになっています。

ボトムアップ理論に基づく大会も主催する畑氏

私もこれに倣って、「ボトムアップクリニック」という2泊3日の大会をしています。全国から希望するチームが集まってきますが、決まっているのは試合と食事の時間だけ。後は全て、子供たちで考えながら行動します。監督もコーチも口を出しませんし、手も出しません。

中原 それはいいですね。

 例えば、夜遅くまで起きていれば、次の日の朝の試合で動けなくなりますよね。そういうことをトライ&エラーで経験させながら、自分たちで24時間をデザインし、個人としてチームとして何をするかを考えるのです。

さらに試合では、ミーティングを重要視しています。「合同ボトムアップミーティング」といって、相手チームと一緒に試合内容を振り返るのです。将棋の感想戦みたいなもので、相手からフィードバックをもらいながら次の作戦を立てるのです。ここでは、相手へのアドバイスの仕方など、コミュニケーション能力も身に付きます。

中原 その様子は、ぜひ企業の方にも見てもらいたいですね。他者からのフィードバックは本当に重要です。

――子供がリーダーシップを身に付け、教師がリーダーシップを発揮する。もしそんな学校が実現したら、どんな可能性が見えてくるのでしょうか。

中原 よく海外の研究者と話していて、彼らに日本の競争優位は何かと問えば、返ってくる答えは99.9%決まっています。それは「人的資本」です。なぜ日本は「人的資本」に対する公的支出を抑え、積極的に投資しないのだろうかと不思議に思われている。もっといろんな場所で人の力を高めていくことをすべきです。

学校に関して言えば、行事や部活動などをちょっと工夫すれば、子供たちにリーダーシップを経験させることができます。教師はそういうノウハウを身に付けてほしいし、ESはCSに結び付くので、学校を働きやすくて学びやすく、エンゲージメントが高い組織にしていかないといけません。管理職を含めて、もっと組織づくりをしっかり学ぶべきですね。

 「子供が輝く」とは、最終的に自己肯定感を高めることだと思います。そういう場を学校がつくらないといけない。私は組織づくりの中で、ポジティブにその人を承認できる仕掛けを意識的につくっています。

中原先生も言われたように、行事や部活動で教師がもっと上手に組織づくりをやれば、いい人材が育ちます。そういう環境で育った子供たちが社会に出たとき、世の中がどう変わるか。その光景を想像すると、とてもわくわくしますね。

(藤井孝良)


【プロフィール】

中原淳(なかはら・じゅん) 立教大学教授。企業の人材開発・リーダーシップ開発を研究する傍ら、横浜市教育委員会とサーベイフィードバックに基づく教員の働き方改革の共同研究プロジェクトにも取り組む。主な著書に『働く大人のための「学び」の教科書』(かんき出版)、『残業学』(光文社新書)、『データから考える教師の働き方入門』(毎日新聞出版、監修)など多数。

畑喜美夫(はた・きみお) (一社)ボトムアップパーソンズ協会代表理事、㈱You Home人財育成・組織構築部代表。1997年に赴任した広島県立広島観音高校サッカー部でボトムアップ理論に基づくチームづくりを実践し、06年に全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会で初出場・初優勝を飾る。今年7月、広島県立高陽高校を退職。企業の人財育成や組織開発に活動の舞台を移した。著書に『まんがでみるボトムアップ理論』(ザメディアジョン)、『チームスポーツに学ぶボトムアップ理論』(カンゼン)、『図解ボトムアップ理論』(ザメディアジョン)など。

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