【各国の消費者教育】高校生が経営するフェアトレード会社

大阪教育大学教授 鈴木真由子
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今年3月に訪問した消費者学校銀賞校(ニーダーザクセン州ハインベルク・ギムナジウム)について、ご紹介します。

ユネスコスクールとしての取り組み

創立150年以上の歴史があり、ナチス時代には収容所として使われていたそうです。校舎の一角には、その名残をとどめたプレートがありました。

25年前に、ユネスコのプロジェクトスクールとして認定され、「最も古く、最も活動的な学校」の1つに数えられているそうです。5年生以上には、ユネスコ・プロジェクトに関連したカリキュラムが用意されています。カリキュラムはESDの流れを受けて構想されており、通底するコンセプトは「環境配慮」「持続可能性」「エシカル」「社会貢献」です。

学校の基本的な考え方として、生徒主体による活動が重視されています。例えば、購買で扱う文房具や食品が、生徒の意見で環境配慮型・健康重視型の商品に変更されました。空き缶を使ったオブジェの創作活動を通して、ゴミの資源化やリサイクルの重要性をアピールする活動や、食堂に「私は捨てられたくない」と書かれたシールを貼ることで食品ロスの軽減に取り組んだりもしています。

地域社会との連携も盛んです。住民とともにフリーマーケットを開催して、不用品の交換会を実施したり、フェアトレードのアンバサダーとして近隣の小学校で広報活動に関わったりしています。年に3回行われる討論会の企画・運営も生徒主体の行事です。生徒がテーマを決め、専門家を招聘(しょうへい)し、卒業生や市民・PTAに呼びかけてシンポジウムやワークショップを実現させているそうです。

生徒が経営するフェアトレードの会社
政治の教科書の表紙(写真1)

生徒は8年生で「ユネスコ」という科目を履修します。その後、9-10年生の選択必修科目の中に「会社経営」があり、「ユネスコ」での学習に関心を持ち、より発展的に学びたい生徒が学んでいました。

既存の国際的な財団(ベルトクラッセ)の協賛で、フェアトレードの実践に取り組んでいました。ドイツ国内では約20校が参加しているそうですが、会社組織を発足(2012年)させたのは、訪問した学校のみとのこと。

写真1の地元で使っている政治の教科書には、さまざまな会社経営の一例として、生徒が経営するフェアトレード会社が写真2のように掲載されており、誇らしげに紹介してくれました。

会社組織が紹介されたページ(写真2)

会社組織ですから、当然社長がいます。他にも、財務(経理)部門や広報部門が置かれていて、それぞれの部署の担当者が役割を果たしています。

授業の一環として実施している活動ですから、評価も受けます。事前に生徒に示したルーブリックに基づくもので、日報やレポートをデータとして蓄積したポートフォリオを活用した評価だそうです。

フェアトレードの仕組み

フェアトレードの相手はケニアの農家で、マカダミアナッツを扱っています(写真3)。マカダミアナッツは、比較的栽培が容易であるとともに、小規模な農家に向いた商品作物だそうです。

商品のマカダミアナッツ(写真3)

商品は、1袋(470グラム)を12.5ユーロで販売します。価格の内訳は、栽培農家に6ユーロ、輸送費として4ユーロ、会社の利益は2.5ユーロとなっています。発注した商品は、真空パックで届きます。

帯封は生徒の手作りです(写真4)。パッケージの真空処理が適切かどうかのチェックは欠かせません。不良品に対するクレーム処理も生徒の仕事です。ケニアの代表者へメールで通知し、事後の対応を決めるそうです。

パンフレットと帯封は生徒の手作り(写真4)

販路の開拓も生徒主体で実施します。手作りのパンフレットを使ってカフェやスーパーマーケットと交渉し、販売協力を依頼します。

大手の店舗の場合には、「場所代」として1ユーロを支払う必要があるため、11.5ユーロで卸すそうですが、ほとんどがフェアトレードの趣旨に賛同してボランティアで販売してくれるとのことでした。

フェアトレードを広めるために

生徒は、会社を経営するだけでなく、フェアトレード自体を広めるための活動にも取り組んでいます。写真5のポスターを持って、アピールに出掛けます。

左と中央は広報・財務担当の生徒。右は指導に当たっている教師(写真5)

ちなみに、売り上げの一部を使って、ポスタースタンドや小道具や商品を運ぶためのキャリーバッグを購入したとのこと。会社のユニホームとして作った緑のTシャツも、誇らしげに見せてくれました。

会社組織の改編

2018年には、会社組織を改編したそうです。会社設立の趣旨に賛同した出資者が、出資金10ユーロを支払って組合員になります。19年3月現在で、出資者(組合員)は約30人で、そのうち生徒は18人とのこと。対応してくれた生徒はもちろん出資者です。

「会社」として、部門ごとに定期的なミーティングを開催しているほか、年に1回総会を開きます。総会では会計報告もあり、監査制度も導入しています。きちんと整理された帳簿も見せてくれました。

生徒は「会社」と労働契約を結んでいます。その中に、「給与はすべて寄付する」といった条文が含まれていました。本来なら、大きな支出を占めるであろう人件費が計上されず、生徒の寄付で成立していることを明文化したものです。会社経営のシステムを含めて、キャリアデザインに結びつく学習が実現されていると感じました。

対応してくれた社員(生徒)の1人は、環境科学者を目指しているそうです。「将来は、環境負荷の少ない農業に貢献することが夢」と語る生徒を頼もしそうに見つめる担当教諭の笑顔が印象深く残っています。


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