【学び合う校内研究】ツールとシステムを定着させる

研究主任として、従来の校内研究を根本から問い直してきた東京都大田区立松仙小学校の松村英治教諭。改革によって学校全体にどのような変化が生まれたのか、またその遂行にあたってはどんな課題や葛藤があったのか。インタビュー最終回では、校内研究改革の成果と課題を聞くとともに、同校が独自に開発してきたツールとシステム、若手教師を支える取り組みにも迫った。(全3回)

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普段からみんなで授業を見合う
――校内研究を改革してきたことで、学校に生まれた変化や成果を教えてください。

校内研究の協議会は年々、経験年数が関係ない場になってきています。若手が堂々と発言するのはもちろんのこと、ベテランの先生も「これだけは絶対言っておかなければ」ということは、しっかり発言してくれます。異論反論も飛び交いますが、それでいて和気あいあいとした雰囲気で進んでいます。

校内研究を通じて、「みんなで授業を見合う」意識が高まってきたこともあり、空き時間に誰かの授業を見に行く先生も少しずつ増えてきています。放課後の職員室で、先生たちが学年の垣根を越えて、授業の話を気軽にできる環境ができてきています。

校内研究のツールとシステムを独自に開発してきた

研究授業ではどうしても、「ここだったら安全」という場面を扱いたくなるものです。しかし、本校では、子供たちがどう反応するのか分からないような場面をあえて選ぶようになってきました。当日の授業が難しくなることもありますが、それをみんなで面白がって協議するんです。そういう雰囲気があることを、とてもうれしく思っています。

本校から異動した後も、赴任先の学校で生活科や総合的な学習の時間を頑張ろうとしてくださる先生が少なくありません。なんとか自分の学年だけでも変えたいからアイデアがほしいと連絡をくれたり、「こんな風にやってみたよ」と報告してくれたりする先生もいます。

この学校だけで完結するのではなく、積み重ねてきた実践を面白いと思い、次の学校でもやろうとしてくれているのがうれしいですね。

――改革を進める過程で、周りからの反発などはなかったのでしょうか。

今の形にいきなりガラッと変えたわけではなく、皆さんと相談しながら少しずつ改善を重ねてきているので、大きな反発なかったように思います。

毎月の研究推進部会では、少しでも課題があれば「じゃあ、来月は一回変えてみよう」となり、「変える→考える」のサイクルでマイナーチェンジを重ねています。周りの先生からもどんどん「こう変えてみては」という意見をいただけるので、ありがたいですね。

一人一人にどんな授業力がついたか
――現状の課題について教えてください。

これは公立学校の普遍的課題でもあると思うのですが、校内研究が「研修」レベルを抜け出せていないと感じています。

「研究」であるならば、年度の成果と課題を踏まえて、次年度の課題を設定するのが理想です。協議会で出てきた課題を研究推進部会などで検討し、次への課題を明確にできればいいのですが、会議の時間などが限られている上に、時間内で処理しなくてはいけない事務作業などもあります。そのため、課題を深掘りする時間を取ることが難しいと感じています。

「研究推進だより」には、校内研の流れ等がわかりやすくまとめられている

正直なところ、現状は一つ一つの研究授業をいかに良いものにするかで精いっぱいです。1年間の校内研究で何が変わったかと問われると、「一人一人の授業力が少しずつ高まった」くらいの話なのかもしれません。現時点で、それを超える策を私は持っていないので、これが限界なのかと思い悩むこともあります。

例えば、研究紀要に成果や課題を書きますが、成果については曖昧になりがちです。本校のように、生活科や総合的な学習の時間など学力で測れない領域を研究している場合は、ことさら成果が見えづらいものです。

だとすれば、成果や課題を検証するよりも、教師一人一人にどのような授業力がついたのかを明らかにして、「次年度はこれを頑張ろう」と考えた方がいいのではないかとも思います。

そもそも公立校には異動がつきものです。それだけに、学校としての蓄積を重視する一方、一人一人の授業力を高めていくことも、教育界全体の底上げにつながるのではないでしょうか。

ツールとシステムを整える
――管理職や研究主任が異動してもこうした取り組みを継続していくためには、どのような工夫が必要でしょうか。

ツールとシステムを整えることが大事だと思っています。ツールとしては、授業づくり、単元づくりのガイドラインなどを作っています。システムとしては、協議会の進め方・手順を明確にし、誰が司会をやっても回っていくような仕組みを整えています。

「このツールは使いやすい」「この協議会のシステムは面白い」と先生たちに思ってもらえれば、管理職や研究主任が異動しても、研究する教科が変わっても、継続していけるのではないかと考えています。

一方で、ツールやシステムは、特定のやり方に限定するものにはしていません。一度つくったからといって固定的に考えるのではなく、柔軟に変更していくことも大切です。本校の場合も、あくまで「ベターな流れ」を示す支援ツールという位置付けにすぎず、それを使う人がオリジナリティーを発揮できるようにしています。

――そうしたツールやシステムを、学校のホームページに全て公開されていることに驚きました。校内研究の資料や協議会のことを、ここまでオープンにされている理由を教えてください。

一つは、より多くの人に役立てていただきたいからです。特に「総合的な学習の時間 全体計画」や「スタートカリキュラムデザイン」などのコンテンツは、公開しているところが少ないので、ダウンロードされる方も多いようです。

もう一つは、保護者や地域の方にも、私たちが授業を見合って学び合い、アクティブに協議しながら授業をつくっていることを知っていただきたいからです。運動会や音楽会など、学校の大きな行事だけに注目していただくのではなく、日頃の授業にも興味を持ってもらいたくて発信しています。

若手の成長を支えたい
――今後、松村先生が取り組んでいきたいことを教えてください。

一番は、若手の成長を支えたいということです。昨年度も若手教員が学級づくりなどに苦労するようになってしまい、意識して若手を支えていかないと、学校としてもうまく回っていかない現状があります。

職員室でも若手教員と近い席にするなど、若手と意識的につながる工夫をしている

そのため、何か起きてから動くのではなく、あらかじめ若手が学べる場をつくったり、若手同士のつながりをつくったりすることが大事だと思い、昨年12月に「わかめの会」を立ち上げました。

「わかめの会」の開催は、2週間に1回、30分程度です。自分たちの困り感をもとにテーマを決め、先輩教員を招いて、質疑応答などをしています。例えば今年11月の回では、「算数の指導」をテーマに、事前に若手が悩んでいることを取りまとめ、算数を専門とする主任教諭に話をしてもらったり、互いに板書写真を持ち寄って議論したりしました。

今年3月までは私が音頭をとっていましたが、4月以降は後輩がその役をやるというので引き継ぎをしました。現在、私はオブザーバーとして参加していますが、基本的には見ているだけで、意見を求められれば助言するというスタンスでいます。

私も気付いたら8年目、自分より若い先生が増えてきています。昔ならば8年目はまだ若手だったのかもしれませんが、今の学校ではそうとは言えません。「若手ではない」という意識を持ち、若い先生たちが困ったときに相談されたり、授業を見に行くと安心されたりするような存在になりたいと思っています。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

松村英治(まつむら・えいじ) 1988年、愛知県生まれ。東京大学大学院修士(教育学)。2012年度より東京都小学校教諭。東京都大田区立松仙小学校において、2016年度から研究主任として校内研究の改革を推進。全国の生活科やスタートカリキュラムの充実に向けて研修会の講師等も多数務める。主な著書に『仲間と見合い磨き合う「授業研究」の創り方』、『学びに向かって突き進む! 1年生を育てる』(共に東洋館出版社)がある。

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