【こども六法】学校の治外法権時代は終わった

大人には子供たちが安心して学校に通えるように、協力していじめをなくす義務がある――。いじめ被害に苦しむ子供たちに向けた書籍『こども六法』の著者、山崎聡一郎さんは、全国の学校を講演活動で回りながら、いじめの撲滅を訴える。そんな山崎さんに、いじめ問題について学校が抱える課題や、教師一人一人が心にとどめておくべきことを聞いた。

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法律は共通ルール

『こども六法』の出版後、講演のために全国各地の学校を訪れ、児童生徒や教師、保護者らと対話を重ねている山崎さん。講演のテーマは、子供と大人で明確に分けているという。

子供を対象とした講演では、自分で自分の身を守る力の必要性を中心に、話を展開する。被害者責任論と結び付く話題のため、慎重に話すという。

『こども六法』著者の山崎さん

また、「いじめはなぜなくならないか」と問題を提起し、客観的に見た場合に発見するのが難しいことや、加害者のゆがんだ思い込みについて説明する。その上で、次のように子供たちに語り掛ける。

「これからの社会はますますグローバル化が進み、いろんな環境や考え方の人と生活をしなければなりません。もちろんトラブルに巻き込まれることもあるでしょう。そんなときに必要なのは、みんなの共通ルールである『法律』に基づいて自分の権利を主張する力です。声高に自分の権利を叫ぶ人や、力が強い人が、権利を守ってもらえるわけではありません。根拠に基づき、客観的な証拠を示しながら理路整然と権利を主張できる人が、救済されるのです。そしてその根拠となり、自分で自分の身を守る知識となるものこそが『法律』です」

学校は治外法権ではない

一方、大人向けの講演では「子供たちに対して、『法律で禁止されているから』という導き方はしないように」と警鐘を鳴らす。

「子供自身が、この行為がなぜ禁止されているのかまで考えなければ、順法意識は高まりません。さらに、ルールは時代に合わせて変わらなければいけないという思考に結び付くこともない。『法律で禁止されているから駄目』という教えは、本来の意味での法教育ではないのです」

また、教員や教委向けに講演する際には、学校現場と法律について、次のように語り掛ける。

「学校に法律を持ち込むべきではないという時代は、終わりました。これまでの学校や教師は、法律の縛りから解放された環境の中で、自由な発想で児童生徒を育むといったイメージが強かったように思います。そのため、今まで黙認されてきたことも多かったかもしれません。しかし学校は法律にのっとり運営されている場所で、治外法権ではありません。実際に、保護者や社会など学校外からの順法を求める声は日に日に高まっています。それがゆがんだ形で具現化された問題のひとつが、モンスターペアレントでしょう。これからは教師が法律的な観点から、責任を追及されることもあるでしょう。しかしそれと同時に、教師のみなさんも法律的な観点から、自身を防衛しなければいけない時代が来ているのです」

大人が必ず助けてくれる

『こども六法』の最終章で丁寧に解説される「いじめ防止対策推進法」。ここでは、子供たちに向けて、大人の責務を次のように記載している。

「この法律には、学校の先生がチームを作り、教育委員会、警察など、あらゆる大人がいじめから子どもを守るため努力しなければならないことが書かれています。(中略)大人には、子どもたちが安心して学校に通えるように、協力していじめをなくす義務があるからです」

『こども六法』を題材とした子供や保護者、教育関係者らへの講演活動を続ける

大人が必ず助けてくれる――。理不尽な仕打ちに一人で苦しんでいる子供に向けて、山崎さんが送る最大のメッセージだ。

「いじめ防止対策推進法」を巡っては、国会議員の勉強会やさまざまな団体が、改正に向けて啓発活動を行っている。山崎さんも積極的に関連のイベントに足を運んで声を上げており、法の存在意義を次のように説明する。

「学校不信からできた法律といったイメージや、学校現場の負担を増やすといったイメージが先行しています。しかし、子供たちを守るとともに、教師を守るための法律でもあるのです」。

いじめ防止法は教師の負担も減らす

いじめ防止対策推進法に対し、学校はどのように向き合っていけばいいのか。山崎さんは次のように語る。

「いじめの態様は千差万別で、一教員や一学校が類型化することは非常に困難です。そのため若手の先生や経験のない教師がいざ対応するとなると、何から始めればいいのか分からないというのが本音でしょう。この法律は、あらゆるいじめについて、学校が最低限するべき『to do』をまとめたものです。一教師の経験や能力に対応を任せるのではなく、『チーム学校』としてやるべきことを整理しています。決して教師の責任を無限に追及しようとしたり、教師の負担を増やしたりするものではない。負担を増やすどころか、軽くするものだといっても過言ではないのです」

「現場の教師も助けを求めているのではないか」と指摘する

法律というツールを軸に、いじめ問題の解決に向けて走り続ける山崎さん。最後に、学校現場へ寄せる思いを語ってもらった。

「『こども六法』は子供に対して『大人に助けを求めるように』と言っています。目を転じて、学校の先生はどうでしょうか。現場の先生もまた、助けを求めているのではないのでしょうか。自分のクラスでいじめ問題に直面したとき、一人で抱えこんでしまう先生が多いような気がします。あるいは、そうやって苦しんでいる先生を見かけても、助けようとしない同僚や管理職も多いと聞きます。互助がままならないほど、先生方が多忙を極めている状況も影響しているでしょう。社会全体でいかに学校をバックアップしていくかも、議論しなければいけません。そして先生方に向けては、もしあなたのクラスでいじめがあったとき、同僚や管理職の先生、あるいは学校の外でもいいので『助けてほしい』と声を上げてほしいし、声を上げなければいけないと思います」

(板井海奈)


【プロフィール】

山崎聡一郎(やまさき・そういちろう) 1993年生まれ。教育研究者、写真家、俳優。合同会社Art & Arts社長。修士(社会学)。埼玉県立熊谷高等学校を経て慶應義塾大学総合政策学部進学後は、自身の経験を踏まえて「法教育を通じたいじめ問題解決」をテーマに研究活動を開始する。学部3年時にはオックスフォード大学に短期留学し、政治教育への演劇的手法の導入方法を学んで単位を取得。また、慶應義塾大学から研究奨励金を受給し、法教育副教材「こども六法」を制作した。学部卒業時には学位記授与学部総代に選出、卒業論文は優秀卒業プロジェクトに選定された。2019年3月、一橋大学大学院社会学研究科修士課程を修了、現在は慶應義塾大学SFC研究所所員として研究活動を継続している。法と教育学会正会員。劇団四季「ノートルダムの鐘」に出演するなど、ミュージカル俳優としても活躍中。

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