【世界の教室から】各国の教師育成策

(一社)GiFT・グローバル教育プロデューサー 木村 大輔

教職に対し、若者をどう魅了し定着させるか

今年10月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)アジア太平洋地域教育局(ユネスコバンコク事務所)主催の「世界教師デーアジア太平洋地域フォーラム」がバンコクで開催された。このフォーラムは、1994年に制定された「世界教師デー」の記念事業で、今年は「職能開発の役割:教職に対し、若者をどのように魅了し定着させるか」というテーマで、政策立案者、学校長、教員、教員育成機関からなる14カ国からの代表団、国際労働機関(ILO)と、ユネスコの代表者約50人が集まり、プレゼンテーションやパネルディスカッションが行われた。

最初に、ユネスコアジア太平洋地域教育局所長の青柳茂氏から「SDGsという野心的な目標を達成するためには、教育は非常に重要であるが、世界ではいま6880万人の質の高い教員が不足している」という開会あいさつがあった。

青柳氏は、ユネスコは教師という職業を魅力的で楽しいものとするために、ILOとともに活動してきたこと。そのために、社会的地位、給料、キャリア志向など、未来を見据えた仕事に合わせていく必要があること。そして、社会性と情動の学習(SEL)など比較的新しい学習スタイルを身に付け、国境を超えた課題に向き合い、SDGs達成に向けた環境整備、継続的な職能開発の重要性について語った。

続けて、ユネスコバンコク教育イノベーションとスキル開発部門長のワン博士が、教師一人一人のニーズに合わせた実践的で参加型の教師研修の実施、教師の資質・能力基準などの策定を提言した。

グローバルティーチャーからの提言

登壇者である、今年のグローバルティーチャー賞トップ10に入った立命館小学校の正頭英和教諭は「いま教師が魅力的な職業か聞くと、そう思わないという答えが半数を超えた。若い教師に対して、『これをしてはいけない』という姿勢ではなくしっかり聞き、承認すること。やってみなさいという一声が若い教師の原動力になる。先輩がメンターとして旧時代の教授法を教えるのではなく、新しい取り組みを楽しみながら実践する姿勢が重要」と強調。

どのように若者を教職に定着させるかを話し合うパネリストら

人が熱を持つのは何かを達成した時ではなく、何かに挑戦している時の「過程」であるからこそ、教師自身が「熱」を持ち、挑戦し続けることが大切だと話した。

もう一人のトップ10入賞者であるオーストラリアのヤソダイ・セルバクマラン氏は、学校が置かれている状況をしっかり吟味した上で職能開発を行う重要性を話した。

「教師自身が学びを楽しいものと捉えて学べるように、社会・地域の状況を理解した上で必要な教師像を策定する。若い教員を採用するにあたっては、多様性の中で柔軟に調整していくことが求められるため適応力が重要だ。自分の大学の専攻と担当科目に固執する人は、社会の動きや新たな学びの形にストレスを感じて辞めてしまう」と指摘した。

中国の教師教育の方向性

中華人民共和国教育部の劉建同氏は、SDGsゴール4「質の高い教育」に関連し、「教師の学習活動と労働環境のギャップを埋める投資」のための政府としての方向性を紹介した。

全国52万校の生徒2億7000万人の学びに関する環境向上に対して、4兆6000億人民元の投資を行っているという。主にICT環境整備で、教員の育成については、カリキュラムスタンダード、ICTを使いこなせる教員の養成、リテラシーと職業意識研修をキー領域としている。

多様なニーズの中で、教員の継続的な学びの醸成に向けて、学内外で提供できる教員研修や多様なコースを提供すること、理論や概念的な学びだけではない、ICTを学びに方法していく方法や生徒の参加を促す教授法など、多岐にわたる研修を提供するための制度設計を行っているという。

広大な国土では、それぞれの教育現場のニーズも異なるため、政府では方針を定め、教育投資にかかる予算をどのように使うかは各地域に委ねるようにしている、と述べた。

シンガポールの教師育成策

教師の多様なニーズやキャリアパスに応えるためには、何が必要なのか。

シンガポール国立教育学院のロウ・イー・リン教授は、「国内で最も優秀な人材を教育に配置する」ための、シンガポールの教師育成策を紹介した。

シンガポールは多様化する教師のニーズに応えるために、教育(教授法の熟達)課程、リーダー(学校長や教育省の幹部課程)、専門家(深い専門知識習得課程)といった3つの選択肢を提供している。

また、教師の生涯学習、能力深化の機会、地域・世界とつなげる多様な視点、プロとしての価値観形成といった視点で、年に100時間の有給の研修を提供している。こうした環境整備と実践を通して離職を防ぎ、生涯学習者が育つための実践をしている。

教師の離職防止、学び続ける姿勢の醸成には、学校長のリーダーシップと、学校全体の学び続ける姿勢を作る文化、メンターサポートが影響するとのことだ。

学びのカルチャーが学校にできると、誰かが研修で教室を離れる時のサポート体制が当たり前になり、学内外での研修に積極的に参加しやすくなる環境ができる。

学校経営の在り方を見つめ直す重要性

フォーラム最後の振り返りでは、グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)の調査・研究統括である私が発表した。

「時代とともに増大してきた教師像や役割の中で、教師の仕事時間が深刻なレベルになっている。今の日本の現状は、教育改革を推進しているアジア諸国の未来を示すこととなるかもしれない」と指摘。「教師の一人の人間としての生きがい」を大切に扱うことと、「政策やスクールリーダーによる具体的な取り組み」の重要性を話した。

やりがいや生きがいは大切な動機付けだが、それだけでは勤務時間が増えるだけだ。「生徒のために」という魔法の言葉がある限り、仕事は増えていく。業務やプロセスを詳細に見直し、廃止するものは廃止して、「教師とはこうあらねばならない」という呪縛から解放していくこと。

多様な職能開発の機会提供に加え、地域の政策や学校方針の意思決定に若手教師を組み込むことといった、学校経営の在り方を見つめ直す重要性をお伝えした。