教員いじめ 学校固有の課題

今年10月、神戸市立小学校の教員による男性教諭への暴行・いじめが発覚し、その醜悪な内容に全国から驚きの声が上がった。一方、現場教員などからは「程度の差はあるが、特異な出来事ではない」との意見も聞こえてくる。

本特集の第2回となる今回は、一連の出来事に対する神戸市の対応などの続報、現場教員の声、有識者が考える問題の背景などから、解決策を探る。


神戸市教委の対応

神戸市立小学校で起きた男性教諭への暴行・いじめ問題で、同市教委は外部調査委員会を設置した。市教委からの独立性を保つため、調査委のメンバーは市長部局の行財政局が選んだ弁護士3人。10月18日に初会合を開いて以来、被害教員や加害教員、同僚らから聞き取りを進め、暴行・いじめの具体的な状況や、他の加害者、被害者の有無などを確認している。報告書は年明けに公表する見通しだ。

加害教員4人について、同市教委では10月に無給の分限休職処分を出していたが、調査委から報告書が提出されたらすぐにも追加処分を決定し、失われた市の教育行政の信頼回復に取り組むとしている。

並行する形で、同市教委では10月16~29日の2週間をかけ、全教職員約1万2000人を対象にハラスメント調査を実施。自身や周囲でのハラスメントの有無を尋ねる調査用紙を配り、ない場合も含めて全員に提出させた。また、「あり」の場合は加害側、被害側双方の教職員名やハラスメント行為の概要、時期などを具体的に記させた。

学校現場でのハラスメント行為に関する調査はこれまでにも複数の自治体で実施されてきたが、非常勤講師や管理職、市教委事務局の職員らも含め、学校教育に携わる全ての教職員を対象とした調査としては、「これが全国初ではないか」と同市教委は語る。

判断の難しさ

現在、同市教委では調査結果のまとめを進めているところだが、対応に苦慮しているという。回答数が膨大な上に、「あり」の回答に記された行為が、ハラスメント事案に当たるかどうかで、判断できないケースが多いからだ。中には10年以上前の事例もあり、弁護士を入れて関係者への聞き取りや指導を検討する方針だ。

ハラスメント行為を巡る判断の難しさは、同市教委が10月15日に開いた臨時の全市立校園長会でも指摘されていた。出席した校長らが、「若手の育成に当たる中堅教員が、成長を願って強く指導すると『パワハラだ』と訴えが出る」「昔と比べて放課後も忙しくなり、コミュニケーションの機会が減り、若手との関係が築きにくくなった」などと話していたのだ。

同様の声は、現場からも聞こえてくる。都内の公立中学校に勤務する40代のA教諭は、「自分が若手の頃に受けたのと同じ指導を20代のB教諭にしたところ、『自分はA先生に嫌われている』と他の教員に漏らすようになった」と話す。

A教諭が言う「同じ指導」とは、B教諭の授業をビデオに録画した上で、授業後に振り返りをするというもの。具体的に「この場面で教材の準備に手間取ったことで教室にざわつきが生まれ、しばらく収まらなかった」「この説明が長く、板書などもしなかったので、生徒の何人かが寝てしまった」などの指摘をしたという。

A教諭は「自分も若い頃に同じ指導を受け、自分と生徒の姿にがく然としたのを、20年たった今も覚えている。生徒がうるさくしたり、寝たりするのは生徒に問題があるからだと思っていたが、ビデオを見て自分に原因があると分かってからは、格段に授業が改善できた」と振り返る。

そうした経験から、A教諭はB教諭の成長を願って同じ指導をしたわけだが、結果は思わぬ形で跳ね返ってきた。「B教諭が『欠点を事細かに挙げ連ねられた』『よほどの恨みがあるのか』などと周囲に話していたらしく、『パワハラだ』と訴えられるのも時間の問題だと感じた」と話す。

A教諭によれば、こうした捉え方の相違はB教諭に限らず、20~30代の若手と40代以上の中堅・ベテランとの間で日常的に起きているという。「いわゆるゆとり世代は、部活動の全員加入や給食の完食指導がなかったり、マラソン大会・登山などハードな活動への参加が強制されなかったりと、40代以上からしたら隔世の感がある。『厳しくしても受け入れられない』と割り切って、様子を見ながら諭すような指導をしていくしかないだろう」と述べる。

パワハラの訴え、国内外で

神戸市立小学校での問題が大きく報じられて以降、教員間でのいじめに関する訴訟や教委による発表が相次いで報道されている。

兵庫県姫路市教委は12月1日、市立小学校で2017年夏に、20歳代の男性臨時講師が先輩教諭2人から「死ね」などの暴言や暴行を受け退職したことを会見で明らかにした。小学校の教員7人らで会食した際、講師が30代の男性教諭から「1回死んでこい」などと暴言を吐かれ、30代の女性教諭に頬を殴られたという。

講師からの報告を受け、校長らが講師やその父親と面会し、教諭らに謝罪させたが、市教委は詳細な調査をしていなかった。その後、講師は8月末に退職。市教委は認識の甘さを認め、今後、当事者から詳しい聞き取り調査をするとしている。

こうした問題はこれまで各地の学校で起きていたものの、教委や管理職から何の対応も受けず、報道などもされないままだった可能性が高い。神戸市立小学校で起きた問題が大きく報じられ、教員間のいじめが注目を集めたことで、ようやく明るみに出たと言えるだろう。

海外に目を向けると、教員間でのいじめは日本固有の特異な問題ではないことが分かる。例えば、National Education Association of the United States(全米教育協会)が2012年に発表した調査結果によると、「現在の職場で同僚や保護者にいじめられたことがある」と回答した教員は、全体の18%に上った。

英国では11年に、教員組合が国内の教職員900人以上を対象に調査をしている。それによれば、25%が「同僚からいじめられた」と回答しており、「校長らを含むシニアスタッフからいじめられた」とする回答は実に50%に上った。中には「校長のストレスが原因で自分へのいじめにつながり、以前の職場から追い出された」とする教員もいるなど、同組合は「職場でのいじめから教職員を守る規定などが必要だ」と結論づけている。

いじめを受けたと感じたら
教員向けの多数の研修で講師を務める桑原朱美さん

教員間でのいじめが国内外で発生している一方で、世代間の考え方の相違など「判断の難しさ」もあり、教委や管理職が迅速に対応できていないケースもあるかもしれない。もし今、教員間でのいじめに苦しんでいるとしたら、どのような解決策があるのか。

教員間でのいじめ問題に取り組む専門家の一人に、ハートマッスルトレーニングジムの代表・桑原朱美さんがいる。教育困難校などで養護教諭として25年勤務した経験を持ち、退職後は12年間で400件近い教員向け研修の講師を務め、約7万人を指導してきた。愛知県視聴覚教材コンクール優秀賞や愛知県教育論文賞などを受賞した実績も持ち、現職中から研究していた脳科学に基づいて現場で役立つノウハウを伝えている。

「教員同士のいじめ問題解決セミナー」を全国各地で開催し、講師を務める桑原さんは「神戸市立小学校のような事例は特別なものではなく、どこの学校でも起き得る」と語る。

「職場で『子供たちをどのように育てていくのか』という課題意識を共有する風土ができていれば、教員間のいじめは起きにくい」として、「起きやすい事例として、教委など学校外に示す成果ばかりを求められ、多忙で不満がたまりやすい職場があると聞く。また、教員を志した最初の情熱を忘れることが、加害者側になる原因の1つと言える」と話す。

神戸市の問題でもやり玉に挙がった教員の人事については、次のように指摘する。「長年にわたって同じ学校に勤務し、実力はないが権力はあるという『お局様』『自己中心的な職員リーダー』がいる学校も、閉鎖的な環境の中で言いたいことを言えない雰囲気が生まれ、場合によっては管理職に対しても威圧的態度を取り、職員室の居心地の悪さを作り出しているという事例も少なくない。」

人事面については、過去10年ほどの間に、団塊世代が大量退職したことの影響も大きいと分析する。「若手教員の採用が増えたが、優秀で真面目な若手の中には、コミュニケーション力が育ってない教員もいる。その結果、異なる世代のコミュニケーションギャップが生じ、さらに問題を深刻にしている」と述べる。

12月22日に名古屋市で開かれた「教員同士のいじめ問題解決セミナー」

こうした要因を指摘する一方、桑原さんはいじめ問題の解決策として「自分の内面の状態を変えることの大切さ」を主催するセミナーで伝えているという。

「教員間でのいじめで精神的ダメージを負いやすいのは、『他人軸』タイプ。他人から受ける評価を自分の価値と捉えてしまう人のことで、生きづらさを感じることが多い」とした上で、「重要なのは、自分の思考パターンに気付くこと。『やり方』ではなく『あり方』を変化させることが大事」と、つらい現状から抜け出す方法を示唆する。

同セミナーは12月22日にも名古屋市内で開かれ、参加した教員からは「『教員間のいじめ』という重いテーマに正面から取り組み、深い気付きが得られた」「自分が無意識にしている思考のパターンが、相手から意地の悪い言動を引き出していたと分かり、今後どうすればいいか知ることができた」との感想が聞かれた。

(小松亜由子)


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