1人1台タブレット 先進校の成果と課題は

学校現場で1人に1台貸与するタブレット端末の整備が進みつつある。政府が12月に決定した経済対策「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」では、2023年までに小中学校で全ての児童生徒が1人1台の端末を持ち、活用できる環境の実現が盛り込まれた。

本特集では、いち早く1人1台タブレットを実現させた自治体や学校への取材を踏まえ、導入のポイントや課題などを伝える。


導入に至る経緯

東京都渋谷区では、17年9月から区立小中学校の全ての児童生徒と全教員にタブレットを貸与している。同年12月には、同区の長谷部健区長が「電子国家」として世界の注目を集めるエストニア共和国を視察。導入3年目にも、区立笹塚中学校の駒崎彰一校長を団長とする視察団が同国を訪問した。

エストニア視察について報告する渋谷区立笹塚中学校の駒崎彰一校長

同国では、20年までに学習教材を全て電子化するという方針が政府によって示されており、3DプリンターやフリーWi-Fiを備え、EdTechを学びに導入している学校が全体の87%、幼稚園でも60%に上る。駒崎校長は「テクノロジーを使った学びは、知的欲求を引き出す」として、電子化の一層の推進が必要だとしている。

一方、公立学校で独自に1人1台タブレットを実現させている現場もある。東京都八王子市立高尾山学園(黒沢正明校長、児童・生徒60人)はその1つ。同校は04年、心理的、身体的、社会的な要因や背景で登校したくてもできない児童生徒のために設立された、全国でも数少ない不登校特例校だ。

黒沢校長は「不登校の子供を支援するには、個に応じた学びを実現させるICTの活用が不可欠」と考え、独自に公益法人の研究助成を受けて、17年度に校内のインターネット環境を整備し、全教員に1人1台タブレットを配布。18年度から児童生徒の授業での使用を可能にした。

当初の課題と解決の糸口

1人1台タブレットについて、渋谷区立西原小学校の手代木英明校長は「導入当初、教員は困惑していた」と振り返る。そこで、まずは「できることが増え、あきらめていたことが可能になる」と考えるよう呼び掛けたと言い、「使えるところから始めるという姿勢でスタートした」と語る。

低学年は写真撮影、高学年は検索、教員はデジタル教科書を通じ、徐々にタブレット活用の推進につながったと言い、「得意な教員は当初から大学と連携し、大学が開発したアプリを活用するなどしていた。苦手な教員も、3年目から使いこなせるようになった」としている。

また、同区立上原中学校の柳原忠夫副校長は「当初は1人1台タブレットの先行事例がほとんどなく、活用方法が教科によって違う中で、迷っているうちに時間が過ぎてしまった」と話す。

「集中的に研修の機会を設けるようにしたほか、ICT活用教育アドバイザーから『授業の50分間、常にタブレットを使い続ける必要はない。効果的に使うことが重要だ』と助言を受け、教員の不安が一掃された」と述べ、「アドバイザーらと連携し、一緒に授業での活用方法を考えたことで、少しずつ活用できるようになった」としている。

浸透させるポイント

高尾山学園の黒沢校長は授業にタブレットを導入した当初を振り返り、「1年目はいわば助走期間と考えた」と語る。「その間に教員は試行錯誤したり、互いに取り入れ方を教え合ったりして、徐々に活用の幅を広げ、質を高めていった」という。

同校の授業を18年7月~19年2月にかけて定期的に視察した、国立教育政策研究所の福本徹総括研究官は「不登校の子供の支援では、学習内容をベースにカリキュラムを編成し実行するというよりは、育てたい児童生徒像を見据え、ICTを用いた効果的なカリキュラムの編成・実行と、参加したくなる授業の実践が求められる」と説明。

その上で、同校の取り組みについて、「研修や研究、他校の視察を生かして教師としての力量を高め、さまざまな角度から『高尾山学園の子供にとってふさわしい学習形態』を追究することができていている」と評価する。

一方、渋谷区では、区のICT活用教育アドバイザーの1人、東京学芸大学の高橋純准教授が、同区の取り組みについて「始めから成果を出すことにこだわらない、余裕のある取り入れ方が良かった」と評価している。

区教委によれば、タブレット導入の旗振り役だった長谷部区長が「ICT教育の先進国であるエストニアにも不得手な教員はいた。それが、タブレットの活用やプログラミング教育について大学などで学んだ教員が増えるにつれ、徐々に現場で交ざり合うようになり、うまく進んだ」として、焦らず導入することの重要性を語ったという。

タブレットとメモを併用して発表する児童

加えて、「エストニアは電子化も進んでいる一方で、紙の教科書もあり、授業でノートやメモを取る習慣もある」と話したと言い、1人1台タブレットを導入したからと言ってあらゆる場面で活用するのではなく、必要なタイミングを見極めて用いるよう区教委で推進してきたと話す。

19年8月に日本教育工学協会から「学校情報化優良校」の認定を受けた区立鳩森小学校(鈴木優子校長、児童114人)では、11月に公開した4年生の総合的な学習の時間の授業で、移動教室で訪れた地域について各自が調べたことを発表する際、タブレットで自身が撮影した写真を提示しつつ、メモを見ながら伝える児童がいるなど、両者の長所を生かして活用する様子が見られた。

同区のICT活用教育アドバイザーを務める明治大学の岸磨貴子専任准教授は「タブレットの導入では、『何をさせるか』の『doing』に目が行きがちになるが、3年目を迎えた渋谷区では『どのような資質を伸ばすか』という『being』に着目できている」と評価した。

(小松亜由子)


関連