【後藤良秀】何のためのどんな能力か

「自分で分かる」「自分自身のことが分かる」という「メタ認知能力」は、文科省が掲げる新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」や、アクティブ・ラーニングを実現する上で、必須能力の一つと言われる。その研究に文科省の研究開発指定校の校長として4年間にわたって取り組んだ現ベネッセ教育総合研究所顧問・後藤良秀氏に、「メタ認知」とは具体的にどのような能力で、何のために育成する必要があるのかを聞いた。(全3回)

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「メタ認知能力」とは何か
――近ごろ注目されている「メタ認知能力」というキーワードですが、端的に言うとどんな能力なのでしょうか。

一言で言うと、「自分で分かる力」です。もう少し分かりやすく言うと、自分が持っている知識がどこまでなのか、自分が理解できたこと、また、分かっていないことなどを自分自身で気付く力です。自分の行動を自分の体から分離した状態で見ているようなイメージで、自分を客観視する力とも言われます。

今までの教育現場では、子供たちがどこまで分かっているかを、個々に把握していたのは主に教員でした。しかし、教員によって用意された学びから、子供たちの主体的な学びに変えていくためには、子供が自分で自身の到達度を把握する能力が必要となります。つまり、自分自身の現在位置を把握する能力ですね。

メタ認知とは「メタ認知は自分を乗りこなすための力である」と語る後藤氏

また、主体的な学びを実現するには、学び自体の目的を教員や親が与えるのではなく、子供自身が決めなければなりません。「勉強ができるようになりたい」「跳び箱が跳べるようになりたい」などの思いが、子供の中から溢(あふ)れ出てくるようにするには、「自分はどうなりたいのか」を考える力が必要です。

私が文科省の教育開発指定を受け、東京都町田市立鶴川第二小学校で研究してきたメタ認知能力の研究は、この2つの力、「モニタリング」と「プランニング」の育成を教育現場で実践するものでした。

一般的に教育心理学では、メタ認知の具体的スキルを「モニタリング」と「コントロール」と定義するのですが、私はあえて「モニタリング」と「プランニング」と定義いたしました。「コントロール」という言葉は、調整・抑制という意味で使われているのですが、「我慢強く辛抱する」というようなイメージも想起させますよね。私は、もう少し前向きに、「なりたい自分」に向かって新しい行動が生まれるようなニュアンスを付加したいと考え、「プランニング」という言葉を選びました。

「自分」を乗りこなすための力

別の方法で説明しましょう。人間を車に例えるなら、メタ認知能力は「運転技術」であると言えます。同じ1000ccの車であっても、その車の性能を最大限に引き出すことができるドライバーが運転するのと、そうではない場合とでは、結果は大きく変わります。知能指数のようなものは、学習によって飛躍的に伸びることはないと言われますが、メタ認知能力は「自分」の性能を最大限に引き出すための技術なのです。

「メタ認知能力」で何が変わる?
――メタ認知能力が高まると、どのような成果につながるのでしょうか。

メタ認知能力と学力に相関があることは、ベネッセ教育総合研究所の調査でも明らかになっています。一方で、学力を上げるといっても、やらされている学びより、好きで学んでいる学びの方が、力を発揮できるのは当たり前ですよね。

もともと私は教員時代から思考力に興味がありまして、どうしたら子供たちが「考えることが楽しい」と思えるようになるだろうかという自らの問いの中で、思考力・メタ認知能力に引き込まれていきました。これが、教育者としての醍醐味(だいごみ)であり、私自身の教育哲学の根幹になっています。

学校を取り巻く地域環境を理解することも重要であると話す

町田市立鶴川第二小学校は、もともと学力は全国平均よりも高い学校でした。新興住宅地が連なる地域で、保護者の中には社会の中心で活躍している方も数多くいました。地域特性として、この地域の保護者の皆さんが学校教育に期待されることは、子供たちの学力や能力をさらに高めることだと、私は赴任前から予想していました。

しかし、実際に私が赴任した当初に感じたのは、知識・技能面での学力が高い一方で、子供たちの自ら考える力、エネルギー、弾力性のようなものが少し希薄であるという印象でした。そこで私は、それらを高める取り組みとして、鶴川二小の教育目標のターゲットを「思考力」「メタ認知」に定め、文科省の研究開発指定校の申請を行いました。

その後、無事に研究開発校の指定を受けて、特別教科「21世紀スキル科」を立ち上げ、その中で論理的思考力とメタ認知能力の育成に取り組みました。「21世紀スキル科」には、2つの領域を設定しました。1つは、自分がどうなりたいのか、自分を理解して自分の目標を見つけるために、モニタリングやプランニングなどメタ認知する手法を学ぶ「自分づくり型」。もう1つは、メタ認知を働かせながら学んだ知識や技能、思考法を実際の場面で活用する「協働プロジェクト型」です。この2つの取り組みによって、子供たちの思考力と主体性は大きく伸び、以前より格段に生き生きとした印象に変わりました。

保護者談「メタ認知事件」

「21世紀スキル科」での取り組みは、学校公開や授業参観で、保護者の中でもとりわけお父さん方から高評価をいただくことが多かったんです。現役でバリバリ働いていらっしゃるお父さん方の多くが、子供たちが学んでいる思考力・メタ認知能力が、実際に社会で役立つ能力だと感じているようです。

後藤氏が教員と重ねた対話の軌跡は今でも鶴川2小に残っている

保護者から共有していただいた印象深いエピソードの一つに、「メタ認知事件」というものがありました。鶴川二小が「21世紀スキル科」の取り組みを始める前に卒業した姉と現在小4の弟の会話の中で、テストで良い結果を出せず悔しがっている姉に、弟が「お姉ちゃん、それは自分ができていない部分に気付けたってことで、メタ認知できてるってことだから、良いことだよ!」と声を掛けているのを聞いたお父さんが驚いたという話です。

「論理的思考」や「メタ認知」というキーワードは、一見すると小難しく、当初は「小学校教育の中で本当に実践できるのか」と疑問を抱かれた保護者も少なくないと思いますが、子供が学校で学んだことを実生活の中でしっかりと生かせている様子を目の当たりにして、その教育効果を実感している人も多いようです。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

後藤良秀(ごとう・よしひで) 1982年に東京学芸大学卒業後、東京都公立小学校教諭を16年間、務める。1998年に東京都北区教育委員会指導主事、2003年に東京都教育庁指導部指導企画課指導主事、2006年に東京都羽村市教育委員会学校教育部参事兼指導室長、2009年に東京都教育庁人事部職員課主任管理主事など教育行政13年間を経て、2011年より東京都町田市立鶴川第二小学校校長。2019年からベネッセ教育総合研究所顧問、町田市教育委員会教育委員を務める。

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