【後藤良秀】育成のアプローチ

新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」やアクティブ・ラーニングを実現するために必要な能力として、「メタ認知能力」が注目を集めている。文科省の研究開発指定校においてその実践的教育に取り組み、現在はベネッセ教育総合研究所顧問を務める後藤良秀氏へのインタビュー第2回では、実践の具体的な内容について聞いた。(全3回)

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教育の世界にありそうでなかったもの
――実際に、どのような取り組みによって、メタ認知能力が育成されるのでしょうか?

まずはメタ認知する手法を学び、それを実際の場面で活用するという活動を繰り返すことです。その手法を学ぶ上でのヒントは、日本の学校教育よりも、むしろ企業経営や海外の学校教育、スポーツマネジメント、コーチングなどの中にありました。

東京都町田市立鶴川第二小学校で4年間に亘りメタ認知の育成を研究された後藤氏

実はこれが、学校教育の世界にありそうでなかったものなんです。東京都町田市立鶴川第二小学校では、自分の良さを見つけるために、他者から見た自分の良さを取り入れるツール、モデルを出して自分自身と比較して考えるツール、高学年では大谷翔平選手がやっていた「マンダラート」などのツールを使っていました。これらのツールは、学校教育の外の世界において、幅広く使われていたものです。

鶴川二小では、メタ認知の研究開発を通じて、教員たちも積極的に外の世界に学びに出るようになりました。これまで私たちは、学習指導要領や教科書をベースに教育活動を行ってきたのですが、メタ認知の教え方はどこにも書かれていません。そのため、自分で外へ探しに出なければならなかったので、自然と教員自身もアクティブ・ラーニングになっていきました。

――昨今、大学生でも自分のやりたいことが分からないと聞きます。

やりたいことの引き出し方も大切です。子供たちに「どんな自分になりたい?」「何がしたい?」と聞いても、それを見つけること自体が難しいわけです。目標を決めることは、決して簡単なことではありません。

鶴川二小の子供たちは、さまざまなツールを使って目標を設定するための思考の術(すべ)を学び、練習していきます。 1年生で目標設定ができなくても、練習を繰り返すことで、学年が上がるとできるようになります。例えば、低学年のうちは先生がカードなどでいくつか選択肢を示し、その中から選ぶという経験を積みます。そうして高学年になるにつれて、白紙の状態から自分で目標を作っていけるようになります。

――実際に、子供たちはどのような目標を設定するのですか?

目標を立てる訓練を続けると小学生でもマンダラートが書ける

例えば、運動会という場面を使った活動では、「係活動の中で高学年としての役割をしっかり果たしたい」「友達と協力して責任を果たす」という目標を設定したり、リレーの選手に選ばれた子が「バトンをきちんとつなぐことで皆のために走りたい」という目標を設定したりしていました。実践を重ねる中で、子供たちは単純な勝敗ではなく、その場面を通じて自分自身がどうなりたいかという、より質の高い目標が設定できるようになっていきました。

以前は、かけっこにしてもリレーにしても、「誰かに言われたからやっている」という状態だったのかもしれません。しかし、それは「本当の自分」でしょうか。

人は「自分は何のためにこれをするのか」ということを、常に自分で考えて自分なりの目標を設定して進んでいくことで、「なりたい自分」になることができます。それはある意味、生きていく力そのものです。

一過性にならない学び・PDCAサイクル
――自己チェックについては、どうでしょう。

自分なりの目標を設定して進んでいく中で、適宜「計画通りにできているかどうか」をチェックすることも、メタ認知です。自分自身を振り返る練習を通じて、自分を客観視する力がつきます。

この自己チェックを通じて、「できていること」「できていないこと」を明らかにし、必要があれば計画の見直しを行います。まさに、PDCAサイクルです。

子供たちは、6年間を通じてこうした実践を繰り返していきながら、そのPDCAサイクルを「学びの足跡」としてポートフォリオファイルに残します。その結果、前の学年で実践したことが、新しい学年でも役に立つことがあります。このファイルが、学びを一過性のものにしないためにも重要な役割を果たしています。

自分で決めた目標は、うまくいくもいかないも自分次第です。目標を達成するためには、粘り強さや負けん気も必要。やり直す機会も、たくさん用意します。メタ認知能力を育成するための「モニタリング」と「プランニング」のPDCAサイクルは、うまくいっているかどうかをチェックすると同時に、やり直す機会にもなっています。

子供たちの未来に最も重要なのは「自分を強くすることだ」と語る後藤氏

目標を設定し、できているかチェックするという作業は、今までは教員がやってきたことでした。しかし、そうした仕組みはもしかしたら、子供たちに「やらされている感」を与えていたかもしれません。人は自分で設定した目標だからこそ、途中でくじけて終わりたくないという気持ちが湧き起こり、達成できたときに自分の成長を感じることができるのだと思います。

「子供たちが、これから先の時代を生きる」ということを考えたときに、必要なのはやっぱり「自分」なんですよね。「自分」を強くしていくために、自分を大切に思う自尊心・自己有用感を身に付けなければなりません。それは、自分自身の価値を自分で分かることであり、そこにはメタ認知が不可欠です。

小学校教育の中でメタ認知する練習を重ねていけば、いずれ意識せずにメタ認知的思考ができるようになります。これまでの教育がそのままでは通用しなくなってきている現代において、もともと日本人が持っている勤勉さにこの能力が加わることで、子供たちはもっと自分自身に満足して生きていけるようになると思います。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

後藤良秀(ごとう・よしひで) 1982年に東京学芸大学卒業後、東京都公立小学校教諭を16年間、務める。1998年に東京都北区教育委員会指導主事、2003年に東京都教育庁指導部指導企画課指導主事、2006年に東京都羽村市教育委員会学校教育部参事兼指導室長、2009年に東京都教育庁人事部職員課主任管理主事など教育行政13年間を経て、2011年より東京都町田市立鶴川第二小学校校長。2019年からベネッセ教育総合研究所顧問、町田市教育委員会教育委員を務める。

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