【北欧の教育最前線】広がるホイスコーレの世界

日本でも注目されるフォルケホイスコーレ(以下ホイスコーレ)は、現在デンマークに約70校ある。「生のための学校(School for life)」とも言われ、参加者が自分を知り、意義ある人生を学ぶ場とされている。入学試験はなく、17歳半以上であれば誰でも参加できる。参加者はアートや社会問題、時事的なテーマなど、さまざまな科目を学びながら、他の参加者や教員と寝食を共にする。

昨年は最初のホイスコーレが設立されて175周年だったことから、9月にコペンハーゲン近郊で「ホイスコーレ国際サミット」が開催された。デンマークから60人、海外から57人、総勢117人の参加者が集まった。

国際的な教育改革への危機感

主催のホイスコーレ協会によると、サミット開催の背景には、国際的な教育改革への危機感がある。それは、成人教育や生涯学習が語られる際に、民主主義や人間形成、人間の在り方への問いが見落とされがちだという点だ。それらは、ホイスコーレが大事にする「民衆教育」の視点だ。

サミットの冒頭で文化大臣のジョイ・モーゲンセンは「価値観が多様になり、正解のない社会の中で生きる若者が、人生に迷うこともある。ホイスコーレでは、自分の情熱の燃やし方を学ぶことができる。それは目標達成や経済的・社会的な成功とは別の情熱の燃やし方である」と述べた。まさに、現代におけるホイスコーレの存在意義を言い表していると言える。

一方で、近年、世界的にホイスコーレへの関心が高まり、実践者からの知識の共有と協力体制への要望が増えているという。サミットでは、今後の国際的な協力体制づくりについても話し合われた。

対話的でフラットなサミット

サミットでは、参加者が、今日のホイスコーレで重要な4つのキーワード「コミュニティー形成」「民主的な教育」「生の啓発」「持続可能な開発のための教育」について議論した。

サミットの様子

例えば「コミュニティー形成」についてのセッションでは、多様性やインクルージョンに関する講義とホイスコーレの事例を聞き、「分断が進む社会において、コミュニティーを作り、統合する役割をホイスコーレがいかに果たせるのか」「ホイスコーレ自体が社会から分断された機関であり新たな社会の分断を生んでいるのではないか」という問いを議論し、自分が今後できる小さなアクションについて語り合った。

別の日には、参加者の考える「ホイスコーレらしさ」について、グループに分かれて議論した。キーワードとして「批判的思考」「自由」「啓発」「共生」「対話」などが挙がった。

サミットの間、参加者は朝礼、合唱、ダンス、ストーリーテリングなどの活動に加わり、寝食を共にする中で昼夜語り合った。発表や発言をするだけでなく、時にファシリテーションも任されることがあった。対話的でフラットな関係性が重視されるホイスコーレ同様、サミットも主催者と参加者という関係性を越えた手法が取り入れられていた。

国際的な広がり、日本にも

ホイスコーレは19世紀半ばに、文化的・社会的に抑圧されていた貧しい農村部の若者たちのために構想された。彼らが自らの文化や民族性に自信を持ち、自分の言葉で発信できるようになることを目指した、社会運動の側面を持った学校であった。

その後、外国からの参加者が自国に持ち帰ったことで、多様な実践が世界に広がっていった。それらは、成人教育や移民・難民の包摂、労働者運動や公民権運動、平和運動と結びついた学び、学力偏重へのオルタナティブな教育、貧困地域の人々への民衆教育や女性のエンパワーメントとして実践されてきた。

最近では、ホイスコーレ協会が途上国の教育施設の設立に資金的、技術的サポートもしている。

日本においても、歴史的にホイスコーレが参考にされてきた教育の場がある。大正時代に農村部における青年教育の場として部分的に導入された国民高等学校や、戦後に住民自治、民主主義を学び実践する場として構想された公民館などだ。

今日では、人生100年時代と呼ばれ、キャリアアップや就労を目的とした職業訓練の充実の機運が高まっている。単に生計を立てるための学びではなく、社会参加や人生を豊かにするための学びも重要な観点だろう。

(佐藤裕紀=さとう・ひろき、新潟医療福祉大学健康科学部講師。専門は比較教育学、生涯学習論。矢野拓洋=やの・たくみ、首都大学東京大学院特任研究員。専門は都市政策科学)

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