【メタ認知能力】一般教科での活用法

経済界、スポーツ界から教育界まで、幅広い関係者から注目を集める「メタ認知能力」。文科省の研究開発指定校の校長として、その実践研究に取り組んできた現ベネッセ教育総合研究所顧問・後藤良秀氏は、この能力がこれからの教育において鍵を握ると語る。実際に、どのような可能性を秘めているのか。インタビューの最終回では、今後の展望を聞いた。(全3回)

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4年間の研究開発を終えて今取り組んでいること
――東京都町田市立鶴川第二小学校におけるメタ認知能力の育成は、現在どのようになっているのでしょうか。

4年間の研究開発期間中に、「21世紀スキル科」という特別教科の中で実践していたメタ認知能力育成の取り組みを、現在は一般教科において活用する方法を研究しています。国語や算数も、子供自身が「学びたい」「分かりたい」という気持ちを持てたら、間違いなく力になります。

しかし、学習到達目標があらかじめ設定されている一般教科の中で、子供たちの主体的な学びに任せることは、簡単ではありません。算数の授業で、「教科書の好きなページからやっていいよ」というわけにはいかない。また、学び方ばかり意識してしまうと、教科としての本質的な目標点に到達しないということも起こります。

――子供の主体的な学びを実践するのは、難しいものなのですね。
現在は東京都町田市の教育委員も務める後藤氏

主体的な学びとは、子供がやりたいことを好き勝手にやらせることではありません。それは単に「活動」が這(は)い回っている状態です。「21世紀スキル科」の中で、子供主体の学びがうまくいったのは、教員が子供たちに活動を委ねながら、「今、君たちがやっているのは、自分の力を伸ばす活動だよ」ということを伝え、子供たち自身のメタ認知を促していたからです。教員がいわば、「改善を助けるコーディネーター」となっていました。

「21世紀スキル科」で教員自身が得た知見を、一般教科の授業の中へどのように転用していけるか。この点はまだ発展途上の段階にあります。

メタ認知教育の今後
――メタ認知ができているかどうかは、どうやって測ることができますか?

メタ認知能力育成の取り組みによって得られた子供たちの変化を、教員や保護者の皆さんが肌で感じることは多いのですが、現在は、定性的にしか見取れていないというのが現実です。

具体的には、子供たちに振り返りを通じて内的な変化を言葉で表出させるなど、アンケートや日記のようなもので測っています。ただ、この方法だけでは十分ではなく、今後まだ発展させていく余地があります。

振り返りで表現されるものは、常に「場面」や「状況」に依存します。つまり、「いつ振り返ったか」によって、子供たちの感じていることは変わるということです。効果的にメタ認知しているかどうかを捉えるためには、より細かいスパンで形成的な変化を捉えていく必要があります。

――より細かいスパンで捉えるには、具体的にどのようにすればよいのでしょうか。

細かいスパンでのメタ認知効果を考える際には、計測にかかる子供の負荷を最小限にする必要があります。その点で、私はICTを活用するのがよいのではないかと考えています。例えば、タブレット端末のようなツールを使って、ボタンを押すというようなものなどです。その部分は、専門家の力を借りながら開発していきたいと思います。メタ認知の思考術を学ぶ上で、企業経営やスポーツマネジメントのツールが役立ったように、これからは学校と一般企業との連携がさらに進めばいいなと考えています。

実は、私がベネッセ教育総合研究所に入ったのも、そのような目的があったからです。現在、私は鶴川二小でメタ認知教育をサポートしながら、ベネッセ教育総合研究所では、家庭学習におけるメタ認知の研究を行っています。その傍ら教育委員も務めていますが、学校教育と家庭教育の両面から、メタ認知による自主自律の学びを研究していきたいと考えています。

鶴川二小の実践を全国へ
――鶴川二小で開発・実践されたメタ認知教育は、今後、全国へ広めていかれるのでしょうか。

広めていきたいと考えています。ただ、全国に約2万校ある公立小学校は、それぞれ地域特性を持っていますので、一律に全く同じ教育が実践できるわけではなく、適切なカリキュラム・マネジメントの下で考えていく必要があると思います。

鶴川二小の研究でメタ認知を鍛えることで思考力と主体性が高まることが分かった

私が鶴川二小の校長を務めていた当時、「校長はしゃべるもの」と考えていました。校長には自校の教育目標を設定し、それを保護者へ説明する責任があるということです。子供たちの成長を誰よりも喜んでくれる存在は、親であるべきだと思っています。だからこそ私は、学校公開や授業参観の冒頭では、必ず保護者全員に向けて学校が今取り組んでいることを丁寧に説明するようにしていました。その結果、保護者の理解を得ることができ、本当の意味でのカリキュラム・マネジメントが機能したと感じています。

一方で、論理的思考力やメタ認知能力を育成するための「ひな型」は作れると考えておりまして、現在、鶴川二小でもその作成に取り組んでいます。また、「ひな型」を基に、各学校が導入を推し進めていくために、校長をサポートする仕組みづくりも必要だと感じます。校長全員が、外部の専門家へアクセスできるルートを持っているわけではないので、必要に応じて校長と専門家をつなぐような仕組みがあるといいですね。

教育者に求められる「伝承」と「創造」
――教員に伝えたいことは。
後藤氏は「今こそ教育者には新しい時代に向けた創造性が必要だ」と強調する

子供たちが「学ぶことが楽しい」と思えるようになるメタ認知能力の育成法開発を通じて、私は教員に「私たちはなぜ教育者なのか」を考えてほしいと思っています。教育者には、過去の知識をつないでいく「伝承」と、未来に向けた「創造」の2つの要素が必要だと感じています。

「メタ認知能力は、どのように育成できるか?」

この問いの中に、教員の皆さん方の「創造」の力を生かしていただきたいのです。研究開発は、国立大学の附属校など一部の学校の教員がやるものだというイメージが、以前の私の中にもありました。しかしこれからの時代は、教育の質を高めるために、全ての教員が「創造」の視点を持っていてほしいと思うのです。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

後藤良秀(ごとう・よしひで) 1982年に東京学芸大学卒業後、東京都公立小学校教諭を16年間、務める。1998年に東京都北区教育委員会指導主事、2003年に東京都教育庁指導部指導企画課指導主事、2006年に東京都羽村市教育委員会学校教育部参事兼指導室長、2009年に東京都教育庁人事部職員課主任管理主事など教育行政13年間を経て、2011年より東京都町田市立鶴川第二小学校校長。2019年からベネッセ教育総合研究所顧問、町田市教育委員会教育委員を務める。

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