【教育界のチェンジメーカー】人が育つ環境を変えたい

大学卒業後に単身スペインへ渡ってプロサッカー選手を目指し、帰国後はNPO法人Teach For Japan(以下TFJ)の第3期フェローとして小学校教員になった中原健聡(たけあき)氏。その後、「校長の右腕」というユニークな役職で、経営危機の札幌新陽高校の経営をV字回復させるなど、教育界のチェンジメーカーとして注目を集める。2019年よりTFJのCEOとなり、「教室から世界を変える」をスローガンに活動する中原氏に、日本の教育の発展に貢献したいと考えたきっかけを聞いた。(全3回)

この特集の一覧

ファーストキャリア、サッカー時代の経験
――教育を変えたいと思ったきっかけを教えてください。

僕はプロサッカー選手から大学職員や小学校教員になり、その後、高校の「校長の右腕」という役職に就きました。履歴書だけ見ると、職歴が荒れていると思われるかもしれません。しかし、実はその一つ一つには意図があり今につながっていて、僕のビジョン・ミッションに通じています。

日本の教育の発展に貢献したいと思ったのは、大阪体育大学を卒業後、プロのサッカー選手を目指して単身スペインへ渡ったときに得た、大きな気付きがきっかけでした。

プロサッカー選手時代の気付きが、教育界のチェンジ・メーカーを志すきっかけになったと語る中原氏

スペインのチームに所属しているとき、チームメイトが「自分は何のためにサッカーをしているのか」をよく話していました。出身国が異なっても、皆、何かしら実現したいビジョンや解決したい社会課題などを持っていて、サッカーはそのためのツールであると考えていたことに、とても驚きました。

一方で、同じ質問を自分自身にしても、当時の僕は「プロサッカー選手になりたいから」としか出てこなかった。「何のために」が全くなくて、そういう物事の考え方ができていなかったんだと気付きました。こうしたチームメイトとのコミュニケーションを通じて、僕自身の仕事というものに対する視点・視野・視座が、大きく変わったと振り返ります。

日本の子供たちに感じた違和感

もう1つのきっかけは、日本の子供たちに対して感じたある違和感でした。スペインでプロサッカー選手を目指していたころ、日本の学校でキャリア教育をテーマにした講演会をさせていただく機会が増えました。当時は僕自身も、自分はこれから何のためにサッカーをしようかと模索中だったので、講演会の中で子供たちに対して、「皆さんはこれからどうしたいですか? 将来、何をしたいですか?」と聞いてみたのです。

すると、高校生からは、将来の話ではなく「どこどこ大学に行きたい」という回答が返ってくる。大学進学に関連して、18歳時点の「自分の偏差値」にフォーカスした話が多かったんです。一方、大学生からは、異口同音に「就職したい」との回答が返ってくる。「何のために」の部分を聞きたいのにそこを語らず、「職に就く」という行動だけを答えていることに違和感を覚えました。

多くの子供たちが同じような回答をするので、「何でこんなに違いがないのだろう」と思いました。一人一人の人生は全く違うはずなのに、なぜ抱える悩みや発言が一緒になるのか。これは何かしらの影響があるのではないかと感じました。

僕が出会った世界の友人たちに比べて、日本の子供たちは「自分の人生だ」という覚悟のようなものが希薄だと感じられました。人生100年時代と言われる中で、18歳の時点でも22歳の時点でも、自分の人生に当事者意識を感じられない状態や、どこか他責な態度に違和感を抱きましたが、これはこの子たちだけのせいではないと思いました。

日本の学校では「進路指導」を「何のために」という人生の目的よりも、進学や就職といった次のステージへ向かう行動にフォーカスさせがちです。学校の教育効果を、進学率や就職率、または進学先や就職先で評価する大人が多いので、子供たちも当然そこに焦点を当ててしまいますよね。その価値観は大人が20年前に過ごした体験からくる価値観であり、現代の子供に投影してしまっていることが、その子の人生の選択肢や幅を狭めている可能性があることに気付く必要があります。

そんな思いから、教育という分野への興味が深まり、人が育つ環境が変わらなければ、この社会は変わらないと考えるようになりました。その環境の中には、学校のカリキュラムだけでなく、保護者を含めた子供に影響する大人のマインドも含めています。

生きたいように生き続ける人があふれる世界
――その後、TFJへ参画した経緯は。

僕の人生のビジョンは、「生きたいように生き続けられる人があふれる世界をつくる」ことです。そのために、人が育つ環境をデザインしたいと思っています。そして、その実現に向けて、いずれ自分の理想の学校を作ろうと決意しました。

目指しているのは小中一貫校の設立。日本の義務教育は、人の人生のうち9年間をホールドするというとんでもない影響力を持っています。人生100年時代で考えても、一生の約10分の1に相当します。人の寿命の9年をとるのは、ものすごいことです。その分、責任も重い。だからこそ、小中一貫教育をやりたいと思ったんです。

しかし、僕は中高の教員免許しか持っていなかったし、日本の教育現場での就業経験がなかった。このままでは、「現場を知らず理想を語っているだけ」と言われるでしょうから、小学校の教育現場を自ら経験してみようと考え、たどり着いたのがTFJでした。

TFJ選考・研修マネージャー小林大介氏とTFJという場の価値について熱く語る中原氏(左)

TFJには、自治体との連携の下、教員免許がない人でも独自の研修を受けることで、臨時免許や特別免許を活用し教員として2年間、学校現場に貢献できるフェローシッププログラムがあります。僕もそのプログラムを通じて、実際に奈良県の小学校に赴任しました。

また、学校を作る方法を調べれば調べるほど、それがいかに難しいかも分かってきました。そして、自分の力だけでは無理だと理解し、仲間の必要性を認識しました。TFJは、短期的な学校現場への貢献だけではなく、教育に当事者意識を持ったチェンジメーカーを社会に輩出していくことを目指しています。その点、自分と同じような志を持った仲間と出会える場として、最適な環境だと感じています。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

中原健聡(なかはら・たけあき) 2011年に大阪体育大学を卒業後、単身スペインに渡りプロサッカー選手として活動。帰国後、教員養成の大学で1年勤め、その後認定NPO法人Teach For Japanのフェローシッププログラム3期生として、14年から17年まで奈良県小学校教員。17年より、北海道にある札幌新陽高校にて、「校長の右腕」という役職で学校経営・企画開発に従事。札幌新陽高校では探究コースという今までの価値観ではない、これからの学習環境を設計し、19年4月からTeach For Japanの理事・CEOに就任。教育界のチェンジメーカーとして、人が育つ環境をデザインすることをミッションに活動する。

この特集の一覧