【教育界のチェンジメーカー】抵抗勢力なんて存在しない

「校長の右腕」というユニークな役職で、経営危機の札幌新陽高校の経営をV字回復させた立役者の一人・中原健聡氏。現在はNPO法人Teach For Japan(以下TFJ)のCEOとして、「教室から世界を変える」をスローガンに活動している。そんな教育界のチェンジメーカー・中原氏に、インタビューの2回目は変化や変革に対する「抵抗勢力」について、自身の経験を踏まえて語ってもらった。(全3回)

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リスクをとった本気のチャレンジ
――札幌新陽高校に「校長の右腕」として就任された経緯を教えてください。

TFJの第3期フェローシッププログラムで、奈良県の小学校に赴任していた際のことです。当時、ある大阪の高校の校長先生に連れて行ってもらった、全国で先進的と言われる学校の校長や関係者が集まる会で、札幌新陽高校の求人を紹介していただいたのがきっかけでした。

求人には「校長の右腕」と書かれていて、応募条件は「本気で挑戦したことがある人」とありました。業務内容は白紙。僕は、大学卒業後にサッカー選手を目指して単身スペインへ渡ったという経験があったし、業務内容が白紙というのも心に刺さりました。つまり、リスクをとったチャレンジを、ある程度自由にやらせてもらえる環境だと考えたのです。自分の夢に向かった次なるステップとして、札幌新陽高校の「校長の右腕」というポジションに応募することを決めました。

抵抗勢力をつくるのは自分自身
――変革に抵抗勢力はつきものだと言われますが、札幌新陽高校に着任時の周囲の反応は。
「抵抗勢力なんて感じたことがない」と語る中原氏

着任した当初、多くの先生方は「校長の右腕」という役職の募集がかけられていたことすら知らなかったんじゃないかと思います。いつの間にそんな募集が出ていたのかと、びっくりされたのでないでしょうか。当然、僕が採用されたことを知らない先生方も多かったのですが、アウェーな雰囲気は全く感じませんでした。

これは僕自身の考え方なのですが、「アウェーな雰囲気」とか「抵抗勢力」をつくり出しているのは、本人だと思うのです。新しい環境に行ったときに、実際に周りが「お前は敵だ!」と言ってくることはまずないですよね。アウェーな雰囲気を感じるか感じないは、本人の捉え方次第です。

自分自身が、「周りは自分のことをこんな風に思ってるんじゃないか」と考えてしまって、他者の態度にその考えを投影すれば、その時点で周囲の人たちが抵抗勢力となってしまいます。しかし、それは事実ではなく、自分自身の捉え方によってつくり出しているものにすぎません。だから、抵抗勢力というのは、実際には存在しないのではないかと考えています。

また、実際に抵抗勢力だと感じる事実があったとしても、その事実を起こしたプロセスに、自分の態度や考え方が影響していることがほとんどです。自分の都合の悪いことを他責にするのは、多くの人によく見られることです。

――実際に「校長の右腕」として着任した後、まずどんなことに取り組みましたか。

皆さんと会話するきっかけをつくるために毎朝、職員室で先生方全員に向かって、なぞなぞを出しました。ある日突然現れた関西弁の男が、毎朝なぞなぞを出してくるわけですから、最初は皆さんポカーンとされていましたね。

でも、毎朝続けているうちに、僕があいさつしただけで笑いが起こったり、事前にネットでなぞなぞを調べておいて即答する先生が現れたりしました。しまいには、当時の教頭先生がネット上にないなぞなぞが載っている書籍を紹介してくださるまでに、関係性が深まっていきました。

おしゃべりの土台の重要性
――なぜ「なぞなぞ」だったのですか。

チームメンバーの人となりや価値観を理解し合うために対話は必要不可欠ですが、その土台として、たわいないおしゃべりが実はとても重要です。

TFJの中でも対話をとても大事にしているという

よく知らない相手に、いきなり「あなたにとって良い教育とは何ですか」と聞くことはできません。皆が集まる場で、「良い教育について議論しましょう」と切り出すのも同様です。いきなりそんな質問をされたら、誰もが構えてしまい、本心を出すのが難しい状況をつくってしまいます。

これは奈良の小学校教員時代に子供たちを見ていて気付いたことですが、休み時間の子供同士のちょっとしたおしゃべりが、班活動などを円滑に進める上で土台になっているのです。

お互いの価値観を理解するためには、利害関係の生じないたわいない会話から入った方が、安心して自分の意見を言うことができます。そうした会話を通じてお互いの理解が進み、より深い対話へと移っていくことで、目的や責任を共有できるのです。なぞなぞは、「利害関係の生じないたわいない会話」のきっかけとして、ちょうどよかったのです。

「一丸」と「一様」、「違い」と「嫌い」
――毎朝のなぞなぞで築いた土台をもとに、変革に向けて一丸となって取り組んだのでしょうか。

一丸と言えば一丸なのですが、一丸と「一様」は違います。つまり、目標に向かって、皆が同じ行動を取ったわけではありません。解釈・やり方は、人それぞれだったし、それでよいと考えていました。

大きな目標を大枠の部分で共有しながら、方向性にズレが生じたときには議論し、お互いを認め合いながら解釈を擦り合わせていく。これを繰り返しながら、個々がそれぞれのやり方で行動していました。これはとても健全であり重要なことで、多様性にあふれる社会を目指したいのであれば、職員室の中もいろいろな価値観があって当たり前でなければならないと思います。

価値観の「違い」は、「嫌い」とは別物。嫌いは感情であって、違いは事実。感情と事実を分けて考えることで、異なる考えを認め合うことができます。

変化のスピードも人それぞれで、物事の多くは自分の思うスピードでは進まないものです。うまく進まないとき、もし、個々の価値観の違いとやり方の違いを許容せず他責で考えてしまうと、「抵抗勢力」をつくり出してしまうかもしれません。変革に抵抗勢力はつきものだという考えは、そんな自分目線の思考がベースになっているのかもしれないですね。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

中原健聡(なかはら・たけあき) 2011年に大阪体育大学を卒業後、単身スペインに渡りプロサッカー選手として活動。帰国後、教員養成の大学で1年勤め、その後認定NPO法人Teach For Japanのフェローシッププログラム3期生として、14年から17年まで奈良県小学校教員。17年より、北海道にある札幌新陽高校にて、「校長の右腕」という役職で学校経営・企画開発に従事。札幌新陽高校では探究コースという今までの価値観ではない、これからの学習環境を設計し、19年4月からTeach For Japanの理事・CEOに就任。教育界のチェンジメーカーとして、人が育つ環境をデザインすることをミッションに活動する。

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