【教育界のチェンジメーカー】変革者のマインドセット

生徒数が過去最低に落ち込むなど経営危機の状態から、たった2年で生徒数の充足率が100%を超えるまでにV字回復を果たした、奇跡の高校と呼ばれる札幌新陽高校。「校長の右腕」としてその変革を支えたのが、現NPO法人Teach For Japan(以下TFJ)CEOの中原健聡氏だ。インタビューの3回目は、中原流「チェンジメーカーの心得」を聞いた。(全3回)

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変化を起こせるのは自分自身を変化させられる人
――TFJのフェローシッププログラムにおいて、チェンジメーカーを育成する上で大切にしていることは。

チームメンバーの中で常に心がけているのは、自分自身が変化し続けていくこと。変化を起こす人は、自分自身を絶えず変化させ続けることができる人だと考えています。われわれ自身が自己変革を続けていくことが、チェンジメーカーを育成するフェローシッププログラムを運営する上で、とても重要だと感じます。

TFJの中では、「自己変革」「リスクテイキング」「相互承認」という言葉で語られることが多いのですが、具体的に何を変化させるのかというと、自分の価値観を肯定するための知識を得ることだけではなく、自分自身のものの捉え方や物事への関わり方です。自分とは真逆の価値観を解釈でき、視点・視野・視座を変化させることです。

自分自身の意見や考えを持つというのはもちろん必要なことですが、自分の意見を持ちながらも、同時に相手の考えを絶対に否定しないように心掛けていると、自分の中に新しい気付きが生まれます。その気付きが、自分自身のものの捉え方や物事への関わり方、そして自分の行動の変化へとつながっていくのです。

大きな変化でなくてもよい

変化というと、何か大きなことをイメージするかもしれませんが、必ずしも大きな変化である必要はないと考えています。小さな変化も、雪だるまのように転がし続けていけば、いずれ大きな変化になります。

自分自身が変化し続けていくことを心がけているという中原氏

僕自身がスペインでのサッカー選手時代に得た気付きのような大きな変化は、日常的にはほとんどありません。日々、経験するのは、ちょっとした対話の中で生まれる「なるほど、そういう考え方もあるんだな」という、ささいな気付きです。そうした気付きを、しっかり自分の中に取り込んでいくことで、「それならこんなやり方はどうだろう」などと新しいアイデアが生まれ、何かしらの自己変革につながっていくと考えています。

「自己変革しなければ」という大げさな考えではなく、僕自身は単純に、自分自身の世界観をもっと豊かにしたいと思っているだけなんです。僕が見えている世界は、僕のものの捉え方によって勝手に色づけられた景色です。その景色をもっとカラフルにするには、僕には見えない他の人が見えている色を共有させてもらう必要がある。日々のちょっとした会話から得られる気付きというのは、そのように自分自身が今見えている世界を少しずつカラフルにしていくことなんじゃないかと思います。

人生は思い通りにしかならない
――中原さん自身は、悩んだり迷ったりして行動が止まることはありますか。

「行動が止まっている」という状態の定義次第ですが、基本的にはないですね。僕はよく「悩みなんてなさそう」と思われがちですが、そんなことはありません。不安や悩みはごまんとあって、いつも試行錯誤を繰り返しています。

でも、その不安や悩み自体も、絶えず変化しています。自分のものの捉え方が変化することで、不安や悩みも変わっていくんです。もし、不安や悩みがずっと変わらないとしたら、それは不満になり、他責につながってしまうかもしれない。他責の考えがあると行動は止まるし、他責から変化は生まれません。

「本当はこうしたいけど、○○だからできない」と考えていれば、できないという状態が続きます。つまり、人生は自分の思った通りにしかならないんですよね。「どうしても一歩踏み出せない」と思っていれば、その通りになるだけです。

――不安や悩みを乗り越えるには、どうしたらいいのでしょうか。

自分のものの捉え方を変化させる必要があり、そのために僕は、「本当にそうか」と自分に問うように心掛けていました。例えば、チームメンバーに対して、「あの人はこういう人だからな」と思うとします。そんなときは「本当にそうか」と自分自身に聞いてみるんです。そして、事実、意見、感情をそれぞれ切り離して整理してみる。

すると、実は特定の出来事に対する自分の思い込みや、ある感情に支配されている自分に気付くことがあります。その気付きが、自分のものの捉え方の変化につながるのです。

以前は、「本当にそうか」と自問自答することを、かなり意識して心掛けていました。現在は無意識にできるようになっていますが、これは自己変革を続けていくためにとても重要な思考の習慣だと考えています。

一人一人の教員が最も大きな変革の影響力を持つ
――読者に、チェンジメーカーとしてメッセージを。

「日本の教育をよりよく変化させる」と聞くと、何かすごく大きなことに聞こえて、「自分にはできない」と感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、それぞれの教室にいる教員の皆さんが、変革に対して最も大きな影響力を持っているんです。

新学習指導要領をはじめとするさまざまな施策も、実際には各教員を通じてしか子供たちには届きません。その意味で、教育業界のチェンジメーカーは、全国にいる教員一人一人だと思っています。

TFJ選考・研修マネージャーの小林大介氏(左)は、中原氏の良き理解者の1人

これはTFJの職員である小林から学んだのですが、皆さんはすでに、日々何かしらの変化を起こしているはずです。子供たちの成績表に書く成長の軌跡は、皆さんが起こした変化です。自分が生み出してきた変化にも目を向けながら、自信を持って自分自身の自己変革サイクルを回し続けてほしいと願います。

ただし、「これを教えなければいけない」という関わり方で与えられた学びは、本当の意味で子供たちには届かないかもしれません。教員自身の「なぜこれを教えたいのか」という主体的な思いや熱量が、僕は最も大切だと考えています。

サッカーをプレーしていた時や、札幌新陽高校でのチャレンジ、TFJの活動など、僕がやっていることは「生きたいように生き続ける人があふれる世界をつくる」という、自分の人生のビジョンを実現するための手段だと思っています。やり方は自由であり、多様です。皆さんも、ご自身の人生のビジョンを持って、ご自身の教室から世界を変えていきましょう。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

中原健聡(なかはら・たけあき) 2011年に大阪体育大学を卒業後、単身スペインに渡りプロサッカー選手として活動。帰国後、教員養成の大学で1年勤め、その後認定NPO法人Teach For Japanのフェローシッププログラム3期生として、14年から17年まで奈良県小学校教員。17年より、北海道にある札幌新陽高校にて、「校長の右腕」という役職で学校経営・企画開発に従事。札幌新陽高校では探究コースという今までの価値観ではない、これからの学習環境を設計し、19年4月からTeach For Japanの理事・CEOに就任。教育界のチェンジメーカーとして、人が育つ環境をデザインすることをミッションに活動する。

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