【1人1台時代】つくば市立みどりの学園

文科省が今年度補正予算案で打ち出したGIGAスクール構想により、2023年度までに全小中学校に児童生徒1人1台の学習者用コンピューターが導入され、ICT化が一気に進むことになる。「1人1台」の教育環境で、どんな授業が行われるのか。令和の学校のスタンダードモデルとして注目されているのが、茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校(毛利靖校長、児童生徒1004人)だ。学習者用コンピューターが全学年のあらゆる教科で活用される同校の実践に、近未来の学校の「当たり前」を垣間見た。

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ICT利活用が日常の授業風景に

1月16日、文科省の「学校ICT活用フォーラム」の一環で同校を視察に訪れた参加者らは、その光景に度肝を抜かれた。授業公開の前に行われた児童生徒によるプレゼンテーションでは、6年生がプログラミング教材「マインクラフト」を使って作成した未来の家のコンセプトを流ちょうな英語で発表したかと思えば、今度は科学部の生徒が自ら開発した霞ヶ浦の生態系シミュレーションプログラムについて説明し始めた。

児童生徒の発表が終わり、参加者が感嘆していると、毛利校長は「子供たちはこの日のために何日も練習してきたわけではない。デジタル教科書の活用から、STEAM教育まで、本校の普段の授業を見てほしい」と参加者に語った。

ICTを活用した授業が日常的に行われるみどりの学園

その後の視察では、高校入試の関係で不在だった9年生(中3)を除く、全ての学年で授業が公開され、つくば市の独自教科である「つくばスタイル科」で児童生徒がプログラミングやプレゼンテーションに取り組む光景や、数学の図形問題で生徒が引いた補助線を大型提示装置上で共有する様子などが披露された。

ドローンの飛行プログラムを開発し、中庭で飛行試験をしていた6年生の児童らは「ドローンはまだ新しい技術で、その可能性を広げたい。物品を運んだり、人の命を救ったりすることを目指している」と開発目的を解説した。

主体的・対話的で深い学びには「1人1台」が不可欠

2018年度に開校したばかりの同校では、毛利校長のリーダーシップの下、1年生からの外国語活動や小中一貫教育を生かした5年生からの教科担任制など、先進的な取り組みを行っている。中でもICTを活用したSTEAM教育では、研究学園都市という地の利を生かして大学や研究機関との連携を図りつつ、プログラミングやプレゼンテーションなどに力を入れている。

そんな同校でも、学習者用コンピューターは場面に応じてキーボードを取り外してタブレット端末としても使える「2in1」タイプが約200台配備されているものの、児童生徒数を踏まえれば5人に1台程度。「1人1台」は実現していない。

学校ICT活用フォーラムで講演する毛利校長

また、教員のICT活用能力が必ずしも最初から高かったわけでもない。実際、開校当初に小学校でプログラミング経験のある教員はたったの2人だけだったという。それがわずか1年ほどで、20人いる全担任がプログラミングを授業で取り入れるようになり、各教科でのデジタル教科書や電子黒板の活用も当たり前となった。

毛利校長は「これまでの授業は、手を挙げた子供と教師の間でやり取りしながら進んでいたが、個々の子供の答えや考えを共有できるようになると、今まで手を挙げなかった子供も参加でき、正解だけでなくアプローチの違いなども話し合えるようになる。これこそ、主体的・対話的で深い学びにつながる授業で、それを日常化するためにも『1人1台』は不可欠だ」とGIGAスクール構想に期待を寄せる。

ソフトも含めた総合的な整備が必要

こうした同校の取り組みを支えているのが、つくば市教育委員会の存在だ。同市の前身自治体の一つである桜村は、1977年から筑波大学との共同研究でコンピューター支援教育(CAI)に取り組んだ、いわば日本のICT教育のパイオニアでもある。

そんなつくば市では2016年に、オンライン学習システム「つくばチャレンジングスタディ」を導入。義務教育9年間の国語、社会、算数・数学、理科、英語の7万問の問題を収録し、学校の授業だけでなく家庭学習でも利用できるようにすることで、子供の学習履歴を蓄積し、個に応じた学びを実現している。

ICT環境の整備では、デジタル教科書や校内無線LANを全ての学校にいち早く完備。今年度には中学校の全ての普通教室に、電子黒板の配備も完了する。

ハード・ソフト面の整備と並行する形で注力しているのが、教員の実践的なICT活用能力の育成だ。同市では、教員の中から委嘱された「ICT教育推進委員」が中心となり、各学校におけるICTの利活用やプログラミング教育を実践。そのノウハウは校内で共有されるだけでなく、市教委が発行する手引への掲載などを通じて、市内の各学校に横展開が図られている。

さらに、市教委には3人の「ICT指導員」を配置。教員からの相談への対応、プログラミングの動画教材の開発、遠隔システムによる授業支援をするなど、盤石のサポート体制を築いている。

同市では今年度、これらの総合的なICT環境の整備によって、全国に先駆けて全小中学校でプログラミング教育の必修化を実現した。

「つくばチャレンジングスタディ」に取り組む児童

黎明(れいめい)期から同市のICT教育に関わってきた森田充教育長は「子供はデジタル機器を与えればどんどん使う。1人1台になると、使い方のルールを決めようとする学校も出てくるかもしれないが、そうするとかえって活用しにくくなる。問題が出てきたら子供たちがみんなで話し合うようにすればよい」と指摘。

GIGAスクール構想によってICT環境の整備が急速に進むことについては、「コンピューターはスペックを満たせばどんなものでもよいが、問題はハードだけでなくソフトまでを含めて整備すること。そのためには、どんな教育を実現するのか、教育委員会が明確なポリシーを持ち、財政部局に理解してもらう必要がある」と助言する。

「1人1台」の実現によって、学校での学びは今後、どう変わっていくのか。

毛利校長は「もはやICTは『授業で活用する便利な道具』という位置付けではない。OECDのPISA調査が示すように、ICTを活用するスキルそのものが学力になる時代がすぐそこまで来ている。授業の場面では、ICTを使うかどうかを子供自身が決めるのが普通になるだろう」と将来のイメージを語る。

(藤井孝良)


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