【葉一氏】教えるを超えたYouTuber先生

「とある男が授業をしてみた」というチャンネル名で授業動画を配信する葉一(はいち)さん。チャンネル登録者数は78万人以上(1月31日現在)、ツイッターのフォロワー数は4万5000人以上に上り、中高生からは日々さまざまな悩みも寄せられている。第2回は、「教育に恩返ししたい」という信念の下、YouTubeを舞台に子供たちと向き合う葉一さんに、教育者としての思いを聞いた。(全3回)

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「死にたいです」とメール
――葉一さんは東京学芸大学教育学部を卒業されていますが、教師になろうとは考えなかったのでしょうか。

大学時代は教師になるつもりでした。ただ教育実習でいろんな学校を見たり、大学の先輩と話をしたりするにつれて、自分が理想とする教育を突き詰めたいという思いが大きくなっていったのです。

私は知識を教えるのも好きですが、それ以上に放課後や休み時間に子供たちとじっくり話すなど、精神面での支えになれる存在でありたいと考えています。

もちろん、教師になってもそれは可能ですが、日々の業務に忙殺されて、そこまで手が回らない現実もある。いったん、教師とは違う形で子供たちをサポートできる役割を見つけようと社会へ出ることにしました。

――葉一さんは授業動画の他にも、子供たちの悩みに答える動画を配信したり、SNSで積極的に子供たちと関わったりしていますね。

葉一さんのもとには子供たちから深刻な相談が集まる

動画の配信を始めた当初から、子供たちから悩みを吐露するメールが届いていました。「学校が嫌です」「いじめられています」「もう死にたいです」――。

最初の頃は、その一つ一つにメールで返信していましたが、視聴者が増えるにつれてメールの数も増え、返信が追いつかない状況になっていきました。そこで、悩んでいる子供たちに、心に寄り添いながら呼び掛けようと思い、悩み事や雑談を話す動画の配信を始めました。

SNSではツイッターが、子供たちとコミュニケーションをとるツールになっています。動画の感想を寄せてくれる子や悩み事を相談してくれる子もいますし、「今日、学校の授業で葉一先生の動画を使いました」と報告してくれる子もいます。

なかなか全てに返信できませんが、できるだけ多く目を通すようにしています。

教育に恩返しがしたい
――ツイッターのフォロワー数は4万5000人を超えていますね。

ツイッターは、私の活動を発信する場でもあります。毎日、簡単な時事問題を出題するなど、ちょっとした学びの要素も盛り込みながら運用しています。

動画やSNSを通して子供たちにエールを送っている

また、時間があるときは「おはよう」と、朝のあいさつをつぶやくように心掛けています。いつもコメントをくれる子供たちに、リプ(個別の返信)で「〇〇、おはよう」と、名前入りでツイートすることもあります。学校に行く前に私のつぶやきを見て、元気になってくれるといいなと思っています。

――視聴者である子供たちのために、そこまでするのはどうしてですか。

私自身、中学時代にいじめられていた経験があります。そこで負った心の傷を大学生や社会人になっても引きずっていたので、学校がつらい子供たちの助けになりたいという思いが人一倍強いのかもしれません

それに加えて、大学時代に教育実習で出会った生徒の影響がとても大きいと思います。

授業を抜け出して話し込んでいる女子生徒に遭遇し、気になって声を掛けたんです。いろいろと話をする中で、彼女たちが保健室登校をしていること、その中の一人は睡眠薬を大量に飲んで自殺しようとして病院に運ばれたことなどを打ち明けてくれました。

それから2週間という短い期間でしたが、空いた時間を探しては、彼女たちと過ごすようになりました。彼女たちの姿に、いじめを受けて苦しんでいた自分を重ねていたのかもしれません。

そして実習最終日、彼女たちが「もう死のうとしないから」と言ってくれたんです。言葉にできないくらいの喜びがあったのを、今でも覚えています。そのとき、教育に一生身をささげようと自分の中で決意しました。

彼女たちがいたからこそ、そういった志を持てましたし、生きがいを見つけられました。ですから、子供たちとの交流に際しては、このように思わせてくれた教育に恩返しをしたいという思いが根底にあります。

中高生のリアルな現状
――葉一さんのもとに寄せられる子供たちの悩みは、どのようなものが多いのでしょうか。

「いじめが原因で学校に行けていない」や中には「死にたい」など深刻なものも少なくありません。

子供たちのメールを見ていると、現代はいじめの手段が巧妙化していて、なかなか大人が気付きづらいのだと改めて痛感します。リアルからネットに場所が移っていますし、やり方がかなり陰湿になってきています。

例えば、LINE。クラス全員が所属するグループの他に、一部の子を除いた裏グループがあって、そこで悪口を言っています。さらにたちの悪い子がその悪口をスクリーンショットで撮って、当事者に送ったりするんです。被害を受けた子が実際にその画像を見せてくれたのですが、本当にひどい内容で心が痛みました。

学校の先生も、自分の生徒のSNSアカウントをこっそりフォローして、チェックしていると聞きます。ただ、子供たちもそのような先生がいるのを把握しているので、別アカウントを作って対処している人もいるようです。

そうした中高生のリアルな声を聞けるのは、自分が保護者でも教師でもない、何者でもない存在だからだろうなと思います。

悩んでも前に進む姿を見せる
――やはり身近な大人には話しにくいのでしょうか。

両親や先生には言いづらいのか、言っていない子が大半です。

時には、リストカットした傷の画像を私に送ってくる子もいます。「誰か大人に知ってもらいたい。でも、どうしようもない」という悲痛な叫びだと受け取っています。

私自身も動画の中で、家族にすらも打ち明けられなかった、中学生時代のいじめの経験を明かしました。自分を開示したことで、心の内を吐露してくれる子供が増えたようにも感じます。

大人が子供に弱いところを見せるのは、大切だと思っています。皆さんも子供の頃、親や先生は強くて完璧で、悩み事なんて何もないと考えていませんでしたか。でも全然そんなことないですよね。人間誰しもが持つ弱い部分を大人から開示することで、子供たちが作っている壁を壊せたり、抱えている孤独に歩み寄れたりするのではないでしょうか。

ただ自分の中で、大人として守らなければいけないルールを決めています。自分の弱いところ、悩む姿を見せるときは、必ず足を止めず前に進む姿もセットで見せることです。子供たちには、そこから何かを感じてほしいと思っています。

あくまで子供主役の活動
――授業を教えるだけでなく、気持ちの面でも寄り添える存在でありたいのですね。

子供たちにとって、近所のおじさんみたいな人でありたいんです。「親には言えないけど、あのおじさんにならちょっと打ち明けてみようかな」「この問題分からないから、学校の先生に聞くのは恥ずかしいから聞いてみようかな」などと、何でも話せる存在ですね。

精神面でも子供のサポートをしたいと明かす葉一さん

子供たちの学習面だけでなく、精神面をサポートできる活動もさらに充実させたいという漠然とした目標はあります。例えば悩みに寄り添う動画を配信する傍ら、NPOなど専門家を含めたチームをつくり、個別対応に当たるというような取り組みもやってみたいと考えています。

――先日はティーン雑誌でも特集されていましたね。

ありがたいことに、子供たちの認知度はある程度高まったと感じています。また、最近は子供たちを通して、保護者の方からもいろいろとお声掛けいただけるようになりました。先日はPTAの方々に招かれ、学校で講演をすることもできました。保護者の方が招いてくれたのは初めてだったのでうれしかったですね。

YouTuberとしてさまざまな媒体で取り上げていただくことも、大変ありがたいことです。ただ、私自身にスポットが当たるのではなく、あくまで授業動画という選択肢を知ってもらいたい、理解してほしいという思いありきで活動しています。

「葉一」色を強くしたくないという思いは、活動を始めて以来徹底しています。チャンネル名を「とある男が授業をしてみた」としているのは、私自身はあくまで「授業動画を配信する人」にすぎないからです。葉一主役のやりたい授業や活動をするのではなく、子供たちが主役になる授業動画をつくり、活動を進めることをいつも心掛けています。

(板井海奈)


【プロフィール】

葉一(はいち) 東京学芸大学を卒業後、営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学校3年生から高校3年生対象の授業動画や、学生の悩み相談にこたえる動画を投稿している。チャンネル登録者78万人(1月31日現在)、再生回数は2億回を超える。著書に『合格に導く最強の戦略を身につける! 一生の武器になる勉強法』(KADOKAWA)などがある。

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