【葉一氏】YouTubeで授業が変わる

YouTubeで配信される授業動画が、中高生を中心に視聴数を伸ばしている。こうした状況がさらに進むと、学校教育にはどのような影響が及ぶのだろうか。教育系YouTuberのバイオニア的存在である葉一(はいち)さんは、学校教育と授業動画は共存できると話す。そんな葉一さんに、海外の動向にも触れつつ、未来の学校教育の在り方、可能性などを聞いた(全3回)

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基本問題の説明に動画を活用
――学校現場に招かれ講演や授業をするなど、教師と接することが増えたようですが、どのような反応をされますか。

両極端な反応をされることが多いですね。若い先生などは、私の動画を授業に取り入れてくれたり、教育について意見交換してくれたりと、とても好意的に対応してくれます。

一方で、「YouTubeなんかで勉強できるわけがない」と懐疑的に見ている先生がいるのも事実です。

そうした温度差は感じますが、意欲のある先生方と教育の未来や授業のつくり方について意見を交わせるのは本当に楽しいですし、刺激を受けています。

――具体的に、授業動画をどのような形で授業に取り入れるのでしょうか。

学校現場でもその活動が浸透してきた葉一さん

例えば、授業の最初に行うポイントや基本問題の説明を動画に代替えするなどの方法が挙げられます。板書の時間も削減できますし、その間、先生は生徒の反応を見たり、これから使うプリントの準備ができたりします。また、授業の終わりに動画を流し、復習用に使っている先生もいるようです。

ホームページのフォームから「使います」と申請してくれる先生もいますし、視聴者の子供たちから「今日、学校の授業で動画見ました」なんてコメントをもらうことも多いですね。どちらにしても、うれしい限りです。

3本目の柱として授業動画を
――教育において、授業動画の位置付けをどのように考えていますか。

これまでの教育は、公教育である学校と、私教育である学習塾などの2本柱が担ってきました。私はそこに3本目の新しい柱を立てて浸透させたい。学校の授業だけでは理解できなかったり、家庭の所得格差で学習塾に通えなかったりと、2本柱だけではカバーできない子供たちの学習ニーズを拾い上げたいと考えています。

その手段として、お金がかからず、誰でも時間や場所を問わず学習できる「授業動画」という選択肢が今の日本にはあることを、周知してもらわなければなりません。

子供たちや保護者が「どこの学校を受験するの?」「どこの塾に行っているの?」などと何気なく会話するように、「どの授業動画見ているの?」「おすすめある?」と、自然と話題に上るようになってほしいですね。

海外では浸透
――海外でも、授業動画はあるのでしょうか。

実は日本の授業動画の文化は遅れていていると言われています。教育系YouTuberが高い影響力を持っていたり、学校と連携して動画を作成したりしている例もあるようです。

米国の現役数学教師が配信している動画は、日々の学校の通常授業を撮影して、編集もせずに配信しているシンプルなものです。にもかかわらず、チャンネル登録者は約75万人と、私と同じくらいいるんです。

――日本でも、学校と授業動画の共存は可能なのでしょうか。

日本の学校でも教師が日々行っている授業を録画して、投稿できるようなシステムが整備されたら、とても便利になると思います。

授業動画という選択肢を広めたいと意気込む

そうすれば、子供たちはその日受けた授業を復習することができるし、その場にいなかった子供たちは新たな授業に出合えて学びの選択肢が広がります。

YouTubeで見られる授業の数をとにかく増やしたいですし、教える先生の数も増やしたい。

どんなに優秀な先生でも、100人全員にとって分かりやすい授業というのはできません。だから「葉一の教え方は合わないけど、〇〇の動画なら分かるぞ」などと、子供たちが自分の相性の良い授業と出合えるように選択肢を与えたいのです。

教師が授業動画を配信?
――教員にもメリットはありますか。

絶対にあると思います。

学校の先生と接していると、「児童生徒のためにもっといい授業を提供したい」と高い意欲を持つ方が本当に多いんです。

そういう先生にとって、自分の授業をたくさんの人の目に触れるところにアップすることは、教える技術をブラッシュアップする絶好の機会です。動画を配信することで生徒や保護者もより身近に感じ、信頼を寄せてくれます。

教師の本来の役割である「教えるプロ」という面を社会に見せることができる点も、すごくいいなと思います。

教える技術や才能に長(た)けた教師は、全国にたくさんいます。しかし昨今、社会が認識している教師像は、そういった本来の姿からかけ離れているように感じます。教師の教える姿を広く開示することは、社会の教師像を正す上でも有意義なのではないでしょうか。

教育への情熱を見失わないで
――現場で子供たちと向き合う教員に、メッセージをお願いします。

私は、学校の先生のことが大好きです。それは一人一人の先生がみんな、子供のために現状を何とかしたいという強い思いを持っているからです。そしてもちろん、私自身も同じ思いを持っています。

ですから、同じベクトルで手を取り合って、子供のためにより良い教育をつくっていきたい。YouTuberを先入観だけで判断せずに、一歩踏み込んで関わってもらいたいですね。

子供目線で新しい教育を描きたいという

恐らく、どんな先生も、最初は自分のやりたい教育というものがあったはずです。でも、時がたつにつれて思いが薄れてきたり、環境が許さなかったりして、挫折してしまう人もいると思います。私自身も、YouTubeを始めた当初は心が折れそうなことがたくさんありました。

たとえ、いろいろなものを敵に回したとしても、やりたい教育を実現させてほしい。一人の人間が人生を懸けて貫き通した教育は、絶対に輝くはずです。教育への情熱はダイヤモンドの原石みたいなもので、磨かれて、磨かれて、輝くものだと思います。

その原石を見失わないように、やりたい教育を追い求めてほしい。戦うフィールドは違うかもしれませんが、同じ教育者として、私も情熱を燃やし続けて、子供たちのための教育を追求していきます。

(板井海奈)


【プロフィール】

葉一(はいち) 東京学芸大学を卒業後、営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学校3年生から高校3年生対象の授業動画や、学生の悩み相談にこたえる動画を投稿している。チャンネル登録者78万人(1月31日現在)、再生回数は2億回を超える。著書に『合格に導く最強の戦略を身につける! 一生の武器になる勉強法』(KADOKAWA)などがある。

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