【北欧の教育最前線】「コロナ休校」に備える北欧諸国

北欧でも、今週は新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)の話題でもちきりだ。スポーツ休暇が明けたスウェーデンでは、バカンス帰りの家族から次々と感染が報告されている。スウェーデン94人(3月6日付)、デンマーク20人(5日付)、フィンランド12人(5日付)、ノルウェー86人(5日付)、アイスランド34人(5日付)だ。中国や日本、イタリアでの休校措置も報じられ、学校関係者は危機対応に追われている。刻々と状況が変わる中で、対応の最前線をお伝えする。

この連載の一覧

スウェーデン:教育権保障をあきらめない

ストックホルム市教育部は3月2日に「対パンデミック準備計画」を発表し、通常の教育活動をできるだけ長く維持することを目指す方針を示した。この計画では、半数の職員が8週間ほど休んだ場合を想定して、日々のルーティンをどのように回すのか、公共交通機関が運休になった場合の職員の通勤をどうするか、給食や消耗品の配達をどう確保するか、といった点が検討されている。

また、教育部では、各学校の備蓄スペース、消耗品の蓄え、清掃、そして生徒と職員への情報伝達方法について緊急に把握する必要があるとしている。

子供たちのいない教室

感染防止のために休校する場合には、学校病理の専門医と防疫関係機関の助言を受けて市の基礎学校部長あるいは高校部長が決定するとしている。校長は学校レベルの運営に責任を持つ。休校の際は、低学年の子供の活動を優先することが明示されている

教職員が感染への不安を理由に欠勤する場合には通常の休暇として対応するが、教職員が感染したり、感染が疑われたりする場合には、保健庁の助言に従って行動し、欠勤した職員の給与は保障される。

長期休校になった場合、スウェーデンでは教育法に照らしてクリアすべき課題が大きく3つある。第一に、就学義務の扱いである。10日以上の欠席の場合、理由のいかんに関わらず個別の調査委員会を立ち上げなければならない。調査委員会は校長が組織し、生徒の保護者と保健担当者(心理士や校医など)を含める必要がある。

一斉休校が実施された場合、在校生一人一人にこの手続きを行うのは現実的ではないため、法律の範囲内で特例的な対応が求められるだろう。本来、休校の判断は校長が行うが、ストックホルム市は教育部の基礎学校部長あるいは高校部長に権限を委ねることにした。「学校病理の専門医と防疫関係機関の助言を受けて」意思決定をするのは、この点を踏まえた手続きだとみることもできる。

次に、学校給食の提供である。教育法は生徒に栄養のある給食を無料で提供すると定めている。学校査察庁の公式解釈では、生徒は授業日には「毎日」給食を提供される権利がある。給食は生存権に関わる重要な問題であるため、学校は何らかの形で子供たちに栄養のある給食を提供する必要がある。

また、学校教育は権利でもある。教育法では、先に就学義務について書かれ、その義務を課されていない子供についても教育を受ける権利(以下、教育権)があると書いている。すなわち、教育権の方が就学義務よりも広範囲に適用されるということだ。休校措置が取られた場合、義務は行政の措置で免除できるかもしれないが、教育権の保障責任は免れない。

それゆえ、休校中の子供たちの学習環境をどのように提供するかという点が、教育部と学校の最大のチャレンジになるだろう。ストックホルム市が、できる限り学校の機能を維持する方向で動いているのは、教育権を保障し続けたいという姿勢の表れだろう。

すでに、ストックホルム周辺の基礎学校・高校では、私立学校を中心に休校が出始めている。学校は感染への不安に対応するため、と説明するが、国の疫学官は「昨晩、市の部長たちとミーティングをして、休校に効果はないと説明したばかりだ。理解できない」と述べている。「準備計画」が実行段階に入った時、感染防止と教育権の両立はできるのだろうか。

フィンランド:学校は緊急事態に備えよ

ヘルシンキ大学付属学校では、3月1日に生徒が新型ウイルスに感染したことが発覚し、4クラスの生徒たちに2週間の自宅待機措置がとられている。子供たちは外出を避けるように言い渡されたが、同時に学校長は、遠隔学習や、個別の課題など、何らかの形で学習を提供するとした。自宅待機となった生徒の保護者は、具体的な対応について何度も電話を受けたが情報に混乱が見られる、自分の子供たちにも症状が出ているのにまだ検査を受けさせてもらえない、と不満と不安を述べている。

子供たちのいる普段の教室

時期を同じくして、国家教育委員会は、コロナウイルス感染拡大にともなう緊急事態に備えるように、と学校に通知した。「生徒や教職員の多くが病気になる」「学校にいるときに生徒や教職員の具合が悪くなる」「自宅待機措置中の生徒に授業を行う必要がある」といった事態が起きた場合、どう対応するかを具体的に計画すべきだという。

例えば、クラス編成の変更や、長期欠席した生徒への補習などの対応が考えられる。また、必要に応じて、基礎教育法にある「特別な授業の手配」を適用し、遠隔教育を通して基礎教育を実施することも例示されている。

デンマーク:いまこそメディアリテラシーを

デンマークはまだ危機感が薄いようだ。2月末の時点で、コペンハーゲン大学のウイルス学者は、学校はパニックになる必要はなく、手洗いや手指消毒剤を使用することや、清掃をすることの大切さを述べて、朝の合唱やその他の集会をやめる必要はないと述べた。一方で、全ての学校は緊急事態への準備をすべきであるとも述べた。

しかしその後、感染者は増加傾向にある。コペンハーゲンでは、高校生から陽性反応があり、週末に一緒にいた4人の生徒も検査中である。ただし感染者が在籍する高校は、生徒や保護者に対して授業を継続する予定だと説明している。

コペンハーゲン市による対応でも、コロナウイルス危険地域から帰国した市民は14日間自宅待機をして、公共施設(学校、デイケアセンター、プールなど)を利用しないようにという国の勧告以上の取り組みは行われていないようである。

一部、イタリアへの研修旅行が中止となった学校もある。これは、訪問予定先の学校からの辞退があったためだ。現時点ではデンマークの学校の研修旅行は禁じられていないため、イタリアへの旅行を予定どおり実施する高校もある。

公立学校の教員であり歴史や社会科学専門アドバイザーでもあるJanus Neumann氏は、社会科学の授業で、メディア報道により作られた生徒の誤ったコロナウイルスのイメージから、正しい認識をもたせる取り組みを提唱している。それにより児童生徒の不安を和らげ、知識を向上させようと提案している。

ノルウェー:子どもの疑問を解消する動画

ノルウェーでは3月6日の朝、オスロのインターナショナル・スクールが突然閉鎖された。生徒の一人が感染したという。一方、生徒の感染が明らかになったスタバンゲル市の小学校では、同じ学年の生徒だけが自宅待機を指示された。市の保健部長は市立学校を一斉休校にするつもりはないと話したが、全国の少なくとも8校で感染が確認されて、急速に広がっているため、今後の対応が注目されている。

ノルウェー公衆衛生機構(FHI)のは「他国の経験と知見から、幼稚園や学校は感染を拡大させる重大な場であるという根拠はない」という見解を示し、学校・園の閉鎖や授業の取りやめは推奨していない。閉鎖によって、子供と保護者にふりかかる実務上の困難の方が大きいという。

一方、感染防止策は順次発表している。例えば、高校生が病欠する際に提出しなければならない医師の診断書について、今年度中は不要にするという規則の変更を発表した。コロナ対応による医療体制のキャパシティーを維持するためだ。また、生徒の海外研修は訪問先の感染状況・医療体制等を鑑みて、実施するかをよく検討すべきだとしている。ある県では、すべての高校の海外研修が延期された。また、保健局は、学校や園に、咳(せき)エチケットや手洗いなど一般的な感染防止策が写真付きで描かれたチラシを貼りだすことを推奨している。

子供たちが恐怖心を感じないように、コロナウイルスについてきちんと話すことの重要性も指摘されている。公衆衛生機構のウェブサイトには、子供のための分かりやすい解説動画が掲載された。

子供が医師に「コロナウイルスって何?」「誰かが咳をしたら感染してしまう?」「中国から送られてきた荷物から感染する?」といった質問をし、医師がわかりやすく説明している。動画には字幕がついており、自動翻訳でノルウェー語以外のさまざまな言語にも対応している。

アイスランド:徹底的な水際対策

3月6日時点で、学校の対応策は特に報道されていない。アイスランドは人口に対して多くの感染者がいるが、政府は感染経路を把握しており、水際対策が成功していると見ている。

グローバル化が進み、人の移動が盛んになっている。今年のスポーツ休暇では、グレタさんらの環境保護活動の影響もあり、飛行機の利用をやめて電車やバスを選んだ人も多くいる。北欧諸国でも対応はさまざまで、水際作戦の段階にある国もあれば、パンデミックを想定している国もある。対応はどうしても行政単位になってしまうが、ウイルスに国境はない。各国の経験と英知を集め、子供たちの教育権を保障するために、未曽有の危機を協調して乗り越えたい。

(林寛平=はやし・かんぺい 信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学。中田麗子=なかた・れいこ 東京大学大学院教育学研究科特任研究員。専門は比較教育学。佐藤裕紀=さとう・ひろき、新潟医療福祉大学健康科学部講師。専門は比較教育学、生涯学習論)

この連載の一覧