【大前流 教育改革案】「義務教育と入試はこう変えよ」

仕切り直しとなった入試改革、深刻化する教員不足と教員採用倍率低下、日本より先行していると言われる諸外国の教育事例、そしてAI――。経営コンサルタントでビジネス・ブレークスルー(BBT)大学学長の大前研一氏なら、課題山積の学校教育をどう改革するか。第1回は義務教育と大学入試の改革案を聞いた。

(聞き手・教育新聞編集部長 小木曽浩介)

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義務教育を高校まで延長すべき
――大学入試改革が二転三転しています。

まず最も根本的なところで、投票年齢を18歳に引き下げたときに、18歳という年齢について定義しなかったことが大きな問題だと、私は思っています。

少年法やアルコールは20歳としつつ、投票だけは18歳。投票権を与える人は、どういう人でなければいけないかが、全く定義されていないのです。その定義もなしに投票させるなど、これは国家の怠慢だと思います。

投票権を与えたのであれば、義務教育を高校まで延ばし、18歳の時点で社会人として世に送り出すための儀式をすべきです。このときに、物理的に同じにするかはさておき、中学と高校のカリキュラムを統合し、6年間の最後の1年分を使って社会人教育をすべきだと思っています。

「義務教育卒業試験」をやるべきだと語る大前研一氏

18歳になるまでに義務教育の中で社会人教育をしながら、社会に送り出すための儀式として「高校を卒業する試験」を行う。すなわち、われわれが社会人として期待している知識や能力を身に付けているかどうかを、社会に送り出す前に卒業試験として確認するのです。

投票権があるのであれば、その時点で責任ある社会人でなければいけない。その社会を維持する責任のある人間かどうかを実証するためのテストは、教育プログラムを作っている文科省が責任を持って「義務教育卒業試験」としてやるべきです。

理系と文系は分けない
――高校までを義務教育にした場合のカリキュラムは、どんなものになるでしょう。

理系と文系は分けず、全生徒が全てを学ぶようにすることが重要なポイントです。世界中がSTEMやSTEAMという方向に向かっているときに、日本は高校2年生の時点で理系と文系でクラスを分けて、文系を選択する生徒はSTEMのサイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学をやらないでいいですよ、としている。これは21世紀における人間の基本的な資質を全部放棄していることと同義で、犯罪的な教育制度です。

それから多くの人はSTEMに対して、アートを指すAという字をつけて、STEAMと言います。このアートというのは、私は人文科学、つまりリベラルアーツだと思っていまして、歴史、地理、音楽、絵画などがここに入ってきます。

だからアートも非常に重要な科目で、選択なんかさせない。いい社会人は、これら全部を具備していないといけないからです。

能力の差はあっても良いのですけれども、「義務教育卒業試験」は全部にわたってやるべきだと思います。全部の試験をして、その結果を卒業時のプロフィールとして、その人間固有のものとして取っておいて、大学に提出します。

採りたい人材を定義し、自由に決める
――入試はどうしますか。

大学はそのプロフィールを見ながら、自分が独自にテストしたい科目だけをテストすればいいのです。それは大学が決めるべきです。

大学は子供たちが「社会に出てからのスキル」を高めるための場所ですから、入試の内容は大学が勝手に決めればいい。共通テストとかセンターとか、国立だから全教科をやる必要も全くありません。大学入試は、各大学で採りたい人材を定義した上で、自由に決めるべきです。

――大前さんなら、どんな試験をしますか。

面接試験は必ずしますね。私はマッキンゼー時代も面接を通じて人を採っていました。21世紀に必要な資質というのは面接しないと分からない。いわゆる学問的なものだけでは分からないのです。

マッキンゼーで私がどういう面接をしていたかというと、「君は明日、タンザニアに行き、タンザン鉄道の敷設工事、延長工事の企画・指導をやってくれ。リュックに何か1個だけ詰めて持って行くとしたら、何を入れるか言ってみろ」と、こう質問するんです。

「21世紀に必要な資質は面接しないと分からない」と強調する

そうするとね、学問的な勉強しかしてこなかった東大卒なんて、頭がフリーズしますね。タンザニアがどこにあるか分からないとすると、何も答えることができなくなるんですよ。

だけれど、このように自分に知識がない問いであっても、「私はタンザニアがどこにあるか分からないのですが、仮に暑い地域にある国だとします。病気も多いとして、言葉は英語で何とかなると仮定すると、こういうものをリュック1個に詰めます」と整然と答えられる者がいるんですよ。私は、こういう人間を採っていました。

知識として知っているかではなくて、対話法の中でどういう答え方をするかを確かめることで、社会に出て新しい状況に遭遇してもやっていける力を持っているか分かるんですよ。これは面接じゃないと無理です。

定型的な試験と、このような面接とを、両方やった方がいいと思いますね。

BBTの試験はカンニング推奨
――学長を務められているBBT大学の試験は、どうしているのですか。

BBT大学は試験も授業も全てネットで遠隔参加できるのですが、私の担当しているコースはユニークな方法で2つの試験を実施しています。

まず、カンニングを奨励しています。なぜなら社会に出たら、カンニングしていかなければダメだからです。社会では全てを調べ、あらゆる人としゃべって、自分で考え得る最高の答えを出さなければならない。したがって試験でも、誰かの回答をそのまま書くのはだめですが、ネットで調べてもスカイプで相談し合っても、何をしても良いという試験を1つ出します。1200語に最終的にはまとめてもらいます。

そしてもう1つは、一人一人の回答をわれわれが読んだ上で、「あなたがここでこう言っている根拠について、もう少し詳しく800語で2時間以内に出しなさい」という個別試験です。

そうすると、今度は問われていることが一人一人違うわけなので、みんなで相談することはできません。自分の考えを自分で短時間にまとめ上げる力が必要になります。

カンニングをしながらいろいろな情報を調べ、たくさんの人の意見を聞き、自分の考えを集約するのは重要な能力ですが、急な問いに対して自分で考えて答えを導き出すことも重要です。2つ目の試験は、まさにその力を証明してもらうものです。

一人一人に違う質問をするのは、先生にとっては非常に労働集約型です。だけれど、この2つの試験を組み合わせることで両方の力が分かりますし、いずれの試験も遠隔で実施可能です。

日本の学校ではカンニングしちゃいけないと言いますが、冗談じゃないです。頭の中に記憶できるものだけで試験をするのみ、というのでは、これからの社会での活躍は期待できません。

世の中に出て、ちゃんと仕事ができる人というのは、あらゆる人の意見を入れて自分の意見に集約していく力と、突然言われても自分1人で答えを導き出せる力の、両方の能力を持つ人なのですから。


【プロフィール】

大前研一(おおまえ・けんいち) 1943年、福岡県生まれ。マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク。その後は経営コンサルタントとして各国で活躍し、経営や経済に関する多くの著書が世界各地で読まれている。いまはネットで学習できるシステムを開発し、世界中の人々に学んでもらう事業に取り組んでいる。

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