【心理的安全性】教員の安心を作る

組織において、チームの生産性を向上させるものとして注目されている「心理的安全性」。これを高めるには、お互いが不安に感じている事柄への相互理解が鍵となる。組織開発ファシリテーターとして、長年にわたりビジネス現場や教育現場の組織開発を手掛けてきた株式会社ナガオ考務店代表取締役・長尾彰氏へのインタビュー最終回は、学校教員の心理的安全性について聞いた。

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チーム一丸のデメリット
――心理的安全性が高まると学級が一つにまとまりますか。

「クラスをチームにしよう!」という取り組みもさまざまあり、クラスみんなで何かに取り組む経験を通じて、クラスの結束力は高まると思います。しかし、結束力が高まっている状態は、ネガティブな側面も併せ持ちます。それは、結束力が高まれば高まるほど、排他的になるということです。

なぜなら、同質性が高まると、異質性を排除しようという動きが生まれるからです。クラスが一丸になればなるほど、一丸になることに懸念を示すクラスメートが現れたり、自分たちと違うよそのクラスを排除しようとしたりしてしまいます。

また、クラスの結束力が高まると、担任の先生を長とした「帝国」が出来上がっていくことにもなるでしょう。結束力が高まると、子供たちが言った通りに動いてくれるようになりますから、教員は楽になると思います。しかし、それは心理的安全性を高めることにはつながりません。「みんなと同じでなければならない」という雰囲気は、心理的不安につながるリスクもあります。

――結束力を高めることを目指さない方がよいのですか。

僕は、結束力を高めることをクラスの目標にするべきではないと思います。結束力は、子供たちや担任との関係性に対して働くものではなく、何かの目的を達成した後、自然に発生するものです。結果として結束力が高まった、くらいがちょうどいいのではないでしょうか。

チーム一丸は排他的になりやすいデメリットもあるという長尾氏

「ラグビーで勝つ」と「図書室の本の並べ方を改善する」とでは、それぞれの目的に対して必要な「結束力」が全然違いますよね。チームは、目標の達成と目的の実現をするために作られる、集団の機能の一つの形態です。

チームの目的を明らかにすることは重要だと思いますが、目的や目標が曖昧で合意がされていないまま、「とにかく、クラスみんなで仲良くしよう」という状態は避けるべきです。「チームでなければできないこと」が何なのかを明確にしておくことが大事。その上で、結束力のネガティブな側面についても、きちんと共有しておくことが必要です。

教員の心理的安全性
――クラスの心理的安全性を高めるために教員がすべきことは。

まず、先生自身の心理的安全性について考えてもらいたいです。具体的には、自分自身が背負っている役割をいったん棚に上げる、留保するということです。先生方が背負っている「下っぱだから」とか「学年主任だから」とかいった役割意識は、心理的不安を生み出しやすいものです。

自分からつかみにいった役割であれば、自分にオーナーシップがあるのでよいのですが、およそ校務分掌などで与えられた役割については、「責任を果たさなければいけない」というプレッシャーから、心理的不安が生まれます。このような役割意識から生まれる心理的不安を解消していくには、自分が背負っている役割から、少し離れることができるとよいのです。

――役割から離れるとは、具体的にはどのようなことか。

「人と人」として関わるために、その役割が果たすべき責任を権限委譲することです。「目的と目標はこれ。これらを実現・達成するやり方はあなたの自由でいいですよ。去年のやり方を踏襲してもいいし、しなくてもいい。困ったことがあればいつでも相談に乗ります」という姿勢で、仕事を委ねるのです。

ちなみに、「任せる」と「委ねる」という言葉は少しニュアンスが違っていて、「任せる」は、やり方は自由だけど責任は仕事を任された側がとるという感じ。一方で、「委ねる」は、プロセスを含めて、できてもできなくても責任は仕事を委ねた側にあります。「任せる」のではなく、「委ねる」ことが大事だと思うんですよね。「できてもできなくても、責められない」という前提が、心理的安全性につながります。実際には「委ねる」というのは、なかなか難しいと思います。それなりの、練習が必要になるでしょう。

「先生たちには自分の役割を越えていってほしい」と語る

そして、「委ねる」とセットで必要になるのが、「支える」ことだと考えています。「委ねる」は「丸投げ」とは違うので、相手に必要なサポートを提供することが重要です。まず、相手方に依頼を引き受ける準備が整っているかを確認するところから始めなければなりません。

また、時には、自分の頭の中にあるプロセスのイメージを参考情報として伝えることも必要になるかもしれません。お互いの状況とやってほしいことについて、時間と手間をかけて細かく擦り合わせをしましょう。このひと手間で、心理的不安を回避することができます。

「解決」ではなく「解消」の発想
――心理的安全性が弱まってきたと感じたらどうすればよいか。

学校における日々の生活では、教員にも子供にも、常に大小さまざまな心理的不安が生まれ続けると思います。クラスの雰囲気が悪くなってきたと感じた場合、教員としては「解決しなければならない」と思うことでしょう。

ここで「問題解決」と「問題解消」という言葉の違いを一緒に考えてみたいと思います。例として、交通渋滞をイメージしてみましょうか。交通渋滞は「問題」ですが、「解決」と「解消」では、目指すゴールとそれに必要なアプローチが異なります。

交通渋滞を「解決」するためには、道路を広くするとか、規制をかけて交通量を減らすとか、かなり大掛かりなアプローチが必要になります。一方で、交通渋滞の「解消」は、そもそも交通渋滞の何を問題と捉えるかによって、アプローチ方法が違ってきます。渋滞中の車内で暇になってしまうことを問題とするなら、暇つぶしになるものを携帯することで、問題が「解消」されます。

問題を「解決」するという思考はもちろん大切なのですが、全てが根絶でき得るものでもありません。「問題を解消する」という発想があれば、発生した問題をどのように楽しもうかと思えるかもしれません。

心理的安全性は、人と人との間にある関係性の問題であり、心理的安全性を弱める心理的不安の中には、自分と他者(相手)の物事の捉え方によって生み出されているものもあります。心理的不安を感じたときは、まず「解決」ではなく「解消」の視点から捉えてみるとよいかもしれません。自分自身の物事の捉え方を変えることによって、きっと皆さんも上手に問題を「解消」できると思います。

(先を生きる取材班)

【プロフィール】

長尾彰(ながお・あきら) ナガオ考務店代表取締役、(一社)プロジェクト結コンソーシアム理事長、茂来学園大日向小学校理事。日本福祉大学卒業後、東京学芸大学で野外教育学を研究。冒険教育研修会社、玩具メーカー、人事コンサルティング会社を経て独立。企業、団体、教育、スポーツの現場など、約20年にわたって3000回を超えるチームビルディングを実施。現在は複数の法人で「エア社員」の肩書のもと、事業開発やサービス開発、社内外との横断プロジェクトを通じた組織づくりをファシリテーションする。著書に『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。』『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話』(ともに学研プラス)がある。


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